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2017/08/24

北越奇談 巻之四 怪談 其二(天狗その二)

 

    其二

 

 享和三亥年(ゐどし)、奧州の士(さむらひ)某(それがし)、越(ゑつ)の柏崎に赴く途中、石地(いちぢ)の駅に馬を繼ぎて、即(すなはち)、その士、馬(むま)に先立事(さきだつこと)、半丁ばかりにして、駅の町端(まちはし)に出(いづ)ると見へしが、忽(たちまち)、行末(ゆくゑ)を知らず。

 馬方(むまかた)、その跡を尋ねて、先の駅、椎谷(しゐや)に到り、問屋(とひや)に達す。問屋、其荷物、旦那の不ㇾ來(きたらざる)が故に不ㇾ受(うけず)。馬方、是非なく歸り來りて、石地の問屋へ申す。

 町役、即、柏崎の陳屋(ぢんや)に訟(うつた)ふ。是に依(よつ)て、人を出(いだ)し、四方を尋ね求(もとむ)れども、不ㇾ得(えず)。終(つゐ)に「死せり」として、其荷物を本國に返す。

 扨、かの士(さむらひ)、半年(はんねん)ばかりを過ぎて、古郷に歸り、夜(よる)、密(ひそか)に己(おのれ)が家を叩けば、人々、驚き、其故を問(とふ)に、

――初め、石地の町端を出(いづ)る時、山伏一人、出來(いできた)り。道すがら、相咄(あいはな)して行(ゆく)ほどに、何處(いづく)とも、其(その)至る所を知らず。

――疊嶺絶壁(でうれいぜつへき)、路(みち)なきの幽谷(ゆうこく)を行くこと、鳥の空に飛(とぶ)がごとし。

――一日(いちじつ)、忽(たちまち)、金閣玉樓、峨々たるを見る。

――依(よつ)て、其(その)地名を問(とふ)。

――かの山伏の云(いはく)、「日光山なり」と。

――士(さむらひ)、驚き、是(これ)を拜せんとすれば、忽、夢の醒めたるがごとく、平地(へいち)出(いづ)。

――よく見れば、古郷なりし。

と、なり。

[やぶちゃん注:天狗による遠隔地へのテレポーテション(及び時間感覚喪失)で前話と直連関。最後の武士の語りの部分は、途中で「士(さむらひ)」という三人称表記になってしまうため、直接話法には出来ないので、かくダッシュでやってみた。

「享和三亥年(ゐどし)」一八〇三年。本書刊行は文化九(一八一二)年春であるから、所謂、当時の都市伝説――比較的最近起ったとされる事実らしい噂話――の体裁を備えていると言える。

「石地(いちぢ)」現在の新潟県柏崎市西山町石地。(グーグル・マップ・データ)。直線で柏崎の北東十九キロメートル。

「半丁」五十四、五メートル。

「椎谷(しゐや)」新潟県柏崎市椎谷。(グーグル・マップ・データ)。石地からは直線で四・五キロメートルほど。

「問屋(とひや)」狭義には、江戸時代、領主と住人の仲介者として宿場町の自治行政を行うとともに問屋場(といやば:街道の宿場で人馬の継立・助郷賦課(すけごうふか:宿場保護や人足・馬の補充を目的として宿場周辺の村落に課した夫役)などの業務を行った運送業者)を管理した町役人(宿場役人)の長で、多くは本陣を経営した者を指すが、ここは、その者(後で出る「町役」)が元締めとして支配した、そうした問屋場(運送業者)の一つであろう。

「陳屋(ぢんや)」陣屋。郡代・代官及び旗本などが任地或いは知行地に所有した役所。]

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