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« 和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 蜈蚣(むかで) | トップページ | 和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 度古(こうがいびる) »

2017/10/06

和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 百足(やすで)


Amabiko

おさむし   千足  百節

       馬陸  馬蚿

       馬  馬蠲

百足

       馬  馬軸

ポツ ツオツ 飛蚿刀 環蟲

 

本綱百足古墻壁中甚多形大如蚯蚓長二三寸紫黒色

其足比比至百皮極硬節節有横文如金線首尾一般大

觸之卽側臥局縮如環不必死也寸寸斷之亦便動行雞

食之醉悶至死又此蟲夏月登樹鳴冬則入蟄也其在山

而大者名山蛩【有大毒】有一細黃色者

△按百足【和名阿末比古】形似織梭故俗呼曰梭蟲【乎左無之】黃色大

 一二寸者多矣俗以百足訓蜈蚣者非也

 

 

おさむし   千足        百節

       馬陸        馬蚿〔(ばげん)〕

       馬〔(ばくわん)〕 馬蠲〔(ばけん)〕

百足

       馬〔(ばさん)〕  馬軸

ポツ ツオツ 飛蚿刀       環蟲

 

「本綱」、百足は古き墻壁〔(しやうへき)〕の中に甚だ多し。形、大いさ、蚯蚓〔(みみづ)〕のごとく、長さ二、三寸。紫黒色。其の足、比比〔(ひひ)〕として百に至る。皮、極めて硬く、節節に、横文有りて、金線のごとく、首尾一般、大にして、之れに觸(さは)れば、卽ち、側臥し、局-縮(ちゞかま)りて環(わ)のごとく〔なる〕。必ず〔しも〕死せず。寸寸(ずたずた)に之れを斷ちても、亦、便〔(すなは)〕ち、動き行く。雞〔(にはとり)〕、之れを食へば、醉ひ悶(もだ)へて、死に至る。又、此の蟲、夏月、樹に登りて、鳴く。冬は、則ち、入蟄〔(にふちつ)〕す。其の、山に在りて大なる者を「山蛩〔(さんきよう)〕」と名づく【大毒有り。】。一種、細く黃色なる者、有り。

△按ずるに、百足【和名「阿末比古〔(あまびこ)〕」。】、形、織(ぬのを)る梭(さを)に似る。故に俗に呼びて「梭蟲(をさむし)」と曰ふ【「乎左無之」。】。黃色にして、大いさ、一、二寸の者、多し。俗、「百足」を以つて「蜈蚣〔(むかで)〕」と訓ずるは非なり。

 

[やぶちゃん注:節足動物門 Arthropoda 多足亜門 Myriapoda ヤスデ上綱 Progoneata 倍脚(ヤスデ)綱 Diplopoda のヤスデ類。ウィキの「ヤスデ」によれば、『細く、短い多数の歩脚がある。ムカデと似るが、生殖口の位置や発生の様式、体節あたりの歩脚の数など様々な点で異なる。ムカデが肉食性であるのに対し、ヤスデは腐植食性で毒のある顎を持たない』(咬毒はない。但し、体液(体表からの浸潤液や放出気体を含む)には毒性が認められる。だいたい多くの種は胴部に臭腺を有し、刺激したりした場合、種によってはシアン(青酸様物質)やヨードを含む液体や気体を分泌することがある。但し、基本的にこれは捕食生物から身を守る防衛手段としてである(熱帯産の大型種の中には、その毒液を飛ばして、それが皮膚付着すると、火傷のような状態になる種も存在するが、本邦産ではそこまで激しい種は存在しない。但し、ヤスデの分泌物に触れた手で目などを擦ると、炎症をおこすことがある(ここはピクの部屋氏のブログ「害虫・害獣から街を守るPCOの調査日記」の「ヤスデの毒」を参照した)。引用の後半も参照)。『英名のMillipedeはラテン語の千(milli)脚(ped)に由来する』(下線やぶちゃん)。『体は数十個の節に分かれている。足は前の3節には1節に1対ずつ、それより後ろの節は1節に2対ずつある。そのため、倍脚類とも言われる。また、頭には1対の小さい触角があり、目は種類により(分類とはあまり関連無く)有無や数がまちまちである』。『ほとんどのものは、固い外骨格を持ち、細長い体をしている。腹面はやや平らだが、背面は大きく盛り上がって断面がほぼ円形になる』種『から、扁平な』種『まで様々である』。『日本最大種はヤエヤママルヤスデ』(フトヤスデ目マルヤスデ科ヤエヤママルヤスデ Spirobolus sp.:石垣島と西表島に限定的に棲息する。本種は刺激すると、黄色い汁を滲出させ、毒性が認められているわけではないが、ヒトの皮膚に附着すると変色し、暫く消えず、ひりついたり、かぶれを生じるという記載もある)『で7cmほどになる。世界最大種はアフリカオオヤスデ』(倍脚綱ヒキツリヤスデ目ヒキツリヤスデ科 spirosteptus 属アフリカオオヤスデ Archispirostreptus gigas)『やタンザニアオオヤスデ』(同属のタンザニアオオヤスデ Archispirostreptus gigas)『といったアフリカ産の大型種で最大』30cmを超える個体も存在する。彼らは、『土壌の有機物や枯葉とそこにつく真菌類を主に食べている。飼育下などでは意外に肉類も食べる。体表の毒腺から液体や気体の刺激物を分泌する種が多い。刺激を受けると体を丸めるものが多い。通常は渦巻状にまとまって円盤となるが、タマヤスデ』(タマヤスデ目タマヤスデ科 Glomeridae に属するタマヤスデ類)『は球形になる』。『一般にはヤスデは害虫と見なされているが、冤罪的な要素も多く、典型的な不快害虫である。見た目が不快なことや、踏むと異臭を発すること、寒冷地の森林で周期的に大量発生するキシャヤスデなどの群れが鉄道の線路上に這い出して』、『列車の車輪で踏み潰されると、その体液により列車がスリップすることなどが理由に挙げられている。そのような例として、小海線での列車の運休が知られる』(本種だけではないものの、その衝撃的大発生による運行不能事件によって、ズバリ! キシャヤスデ(汽車ヤスデ)の和名を持つ種がいる。オビヤスデ目ババヤスデ科 Parafontaria 属オビババヤスデ亜種 Parafontaria laminata armigera がそれ(高桑良興氏命名)。「世界大百科事典」によれば(コンマを読点に代えた)、『本州中部地方の山岳部で数年に一度大発生し、線路上に現れて列車の運行を妨害したところからこの名がある。オビババヤスデは体長約33.5cmで、胴節数20個。無眼。背板は赤褐色でその各後縁に暗色横帯がある。小海線沿線では開通以来何度も大群による妨害が秋季にあったが、中央本線や北陸本線も被害にあっている。本州中部の森林地帯におもに分布し、初夏に交尾産卵する』とある。「農林水産省林野庁森林総合研究所」公式サイト内のキシャヤスデ大発生の謎が凄絶!(かなりクる画像有り。クリックはくれぐれも自己責任で!) 小学校の時に愛読していた小学館の図鑑の、「昆虫の図鑑」に、まさに汽車が止まっている挿絵が載っていたのを、僕は、懐かしく思い出す)。『臭液の毒性は強く、狩猟用の矢毒として用いられた記録がある。また、「味噌汁に1個体が紛れ込んだら、鍋全部が食べられなくなる」などと言われる。密封すると自らの臭液で死ぬ場合が多い。その臭液は主に危険を感じた際に敵への威嚇として体外へ放出されることが多い。外敵に襲われた際は、ムカデと異なり』、『積極的に顎で咬むことは無く、身体を丸めて自己防衛する』。『住宅やその周辺で発生するヤスデは一部の種のみであり、多くのヤスデは森林で生活している。ほとんどの種は広意の土壌に生息して分解者の役割を担っており、森林中の落葉を食べ、糞は栄養分に富むため』、『樹木の成長に影響を与えているとされる。このように、土壌形成上一定の役割を果たしているものと考えられており、食性と生態から自然界の分解者という要素が強い』とある。「百足」とあるが、ヤスデの脚はQ&Aサイトによれば、9対から100対以上で、30から40対ほどの種が多いらしい。個体差や増節変態による変異があり、ナショナル ジオグラフィック日本版の「最多750本足のヤスデ、米国で再発見」2012.11.15記事)には、アメリカのカリフォルニア産の体長三センチメートルの、ギボシヤスデ(ギボシヤスデ目ギボシヤスデ科 Siphonophoridae)の一種、イラクメ・プレニペス(Illacme plenipes)の記事が載る(小さいのでグロテスクではないから、リンクを躊躇する必要はない。英文ウィキには当該種の項がある)。本とあるから単体計算である。やはり、現生種は千の足までには及ばぬらしい。なお、ムカデとヤスデの見分け方は脚が一体節につき、基本、二対出るのがヤスデ(ムカデは一対)、その脚がムカデのように体の外側へではなく、下側に向かって生えているのがヤスデ、また、概ね、ムカデは体型が扁平であるのに対して、ヤスデは小さなものでも有意に丸っつこくずんぐりしていて、しかも動きがムカデのようには俊敏でなく、のろいから、容易に判別出来る

 

「おさむし」ママ。後に出る「梭(ひ)」「筬(おさ:歴史的仮名遣は「をさ」)」(正しくは「梭」「筬」。後述)にはであるから、正しくは本文に振られているように「をさむし」が正しい。但し、梭と筬は正しくは違う器具である。梭は「シャットル(shuttle)」のことで、機織(はたおり)に於いて、経糸(たていと)の間に緯(よこ)糸を通す織機部品で、舟形をした中央に緯糸を巻いた木管を収めた木製部品(両端の打撃を受ける部分は金属で補強する場合がある)。それに対して、筬は同じく機織の付属具であるが、枠に鋼(はがね)や竹の薄板(筬羽(おさは)と呼ぶ)を多数並べた櫛形のもので、長方形の框(わく)に納まっている。これは経糸の位置を整えつつ、打込んだ緯糸を押して更に密に定位置に打つ働きをする器具で、形状から、一目瞭然、ここは「梭(ひ)」ではなく、「筬(をさ)」とあるべきところである。

「墻壁〔(しやうへき)〕」土塀。

「比比〔(ひひ)〕として」並び連なって。

「必ず〔しも〕死せず」そうなってじっと動かなくなるが、必ずしも死んだわけではない。それどころか、「寸寸(ずたずた)に之れを斷」って死んだと思っても、断片になったそれらが、また「動き行く」というのであろう。

「雞〔(にはとり)〕、之れを食へば、醉ひ悶(もだ)へて、死に至る」基本的には鶏はムカデを食うから(前項参照)、ヤスデも平気である。但し、先に示した青酸様の毒を持つ種はこうなっても不思議ではないから、或いは、この記載はそうした種のケースを拡大解釈してしまったものとも思われる。

「鳴く」鳴きません! ただ、何の鳴き声を誤認したのかは気になる。

「入蟄〔(にふちつ)〕」東洋文庫訳では『あなごもり』とルビする。

「山蛩〔(さんきよう)〕」「蛩」単字では、「廣漢和辭典」では実在生物等として、「蟬の抜け殻」・「蟋蟀(こおろぎ)」・「蝗(いなご)」を挙げた後に、『やすで。また、げじげじ』(太字はママ)を挙げるから、これはゲジ類を含むヤスデ類の総称としてよい(但し、ゲジは唇脚(ムカデ)綱ゲジ目 Scutigeromorpha であるから分類学上は全く別種群である。ゲジは次の次の項で出る)。中文サイトで調べると、「山蛩」は別名「北京山蛩虫」と称し、フトマルヤスデ目マルヤスデ科 Spirobolus  Spirobolus bungii を指すことが判った。

「細く黃色なる者」黄色い縞を持つ種はいるが、完全に黄色い種はピンとこない。中国には普通にいるのか?

「阿末比古〔(あまびこ)〕」「雨彦」ヤスデの古名。よく雨後に出てくることに由来する。知られたところでは、平安後期に成立した異色短編集「堤中納言物語」の「虫めづる姫君」に、虫取りに雇った童子にニック・ネームを附すシーンで、「螻蛄男(けらを)、ひくさ麿(まろ)、いなかだち、蝗麿(いなごまろ)、雨彦(あまびこ)なむ、名と付けて召し使ひ給ひける」と出る(「ひくさ」は蟇蛙(ひきがえる)であるが、「いなかだち」は不詳)。「あまびこ」には他に本邦固有に妖怪(ウィキの「アマビエを参照されたい)の名でもあるが、無関係であろう。狭義の和名種群としては、沖縄諸島に棲息するババヤスデ科アマビコヤスデ属Riukiaria がある。

『形、織(ぬのを)る梭(さを)に似る。故に俗に呼びて「梭蟲(をさむし)」と曰ふ【「乎左無之」。】』前の「おさむし」の注を参照されたい。

「黃色」本邦の場合、普通に最も見ることが多い、時に大量発生するヤスデ、例えば、オビヤスデ目ヤケヤスデ科ヤケヤスデ Oxidus gracilis などは、褐色或いは赤茶色である。先に挙げたキシャヤスデなどは、八~九月頃は肌色で、十月に入るって朱色の地に焦げ茶色の縞模様が目立つようになるが(先のリンク先の記載を援用)、これは遠目に見ると、黄色いようには見えないことはない。

「俗、「百足」を以つて「蜈蚣〔(むかで)〕」と訓ずるは非なり」良安先生、快哉!]

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