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2017/10/04

和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 田父(へびくいがえる)


Hebikuigaeru

へびくひかへる   【音論】

田父

          【閉比久比加閉流】

テン フウ

 

本綱田父蝦蟇大者也能食蛇蛇行被逐殆不能去因銜

其尾久而蛇死尾後數寸皮不損肉已盡矣文字集畧云

蝦蟇也大如履能食蛇卽此也蓋蛇吞鼠而有食蛇之

鼠蛇制豹而有噉蛇之豹則田父伏蛇亦此類耳非恠也

△按説文云【音倫】蛇類黑色潛於神泉能興雲雨異於前

 説同名異品未詳

――――――――――――――――――――――

谿狗 【乎奈加加閉流】生南方溪澗中狀似蝦蟇尾長二四寸

山蛤 有山石中藏蟄似蝦蟇而大黃色能吞氣飮風露

 不食襍蟲山人食之能治疳疾

 

 

へびくひかへる   【音、論〔(リン)〕。】

田父

          【閉比久比加閉流。】

テン フウ

 

「本綱」、田父は蝦蟇〔(かへる)〕の大なる者なり。能く蛇を食ふ。蛇、行きて逐はるゝに、殆んど去ること、能はず。因りて、其の尾を銜〔(は)〕み、久しくして、蛇、死す。尾の後〔(しり)〕へ、數寸、皮、損ぜず〔に〕、肉、已に盡〔(つ)〕く。「文字集畧」に云はく、『は蝦蟇〔(かへる)〕なり。大いさ、履〔(くつ)〕のごとく、能く蛇を食ふ』といふは、卽ち、此れなり。蓋し、蛇、鼠を吞(の)み、而〔も〕、蛇を食ふ鼠、有り。蛇は豹を制して、而〔も〕、蛇を噉〔(くら)〕ふ豹、有るときは、則ち、田父の蛇を伏〔(ぶく)〕すも亦、此の類〔ひ〕と〔す〕るのみ。恠〔(あや)〕しむに非ざるなり。

△按ずるに、「説文」に云はく、『【音、倫。】、蛇の類にして、黑色。神泉に潛みて、能く雲雨を興〔(おこ)〕す』とあり。前の説に異〔なる〕なり。同名異品か。未だ詳かならず。

――――――――――――――――――――――

谿狗〔(けいく)〕 【「乎奈加加閉流〔(をながかへる)〕」。】南方〔の〕溪澗の中に生ず。狀、蝦蟇〔(かへる)〕に似、尾の長さ、二~四寸。

山蛤〔(さんかふ)〕 山石の中に有り。藏蟄〔(ざうちつ)〕〔せるは〕蝦蟇〔(かへる)〕に似て、大なり。黃色。能く氣を吞み、風・露を飮み、襍蟲〔(しふちゆう)〕を食はず。山人、之れを食ふ。能く疳疾を治す。

 

[やぶちゃん注:これは所謂、「大蝦蟇(おおがま)」で、無尾目アマガエル上科ヒキガエル科 Bufonida の巨大個体とするしかあるまい。本邦ならば、既に「蟾蜍」で候補提示した、本邦固有種と考えられているヒキガエル科ヒキガエル属ニホンヒキガエル Bufo japonicus(亜種ニホンヒキガエル Bufo japonicus japonicus・亜種アズマヒキガエル Bufo japonicus ormosus)であるが、記載自体が「本草綱目」等に占められており、良安ももてあましていることは見え見えである。無論、「ヘビクイガエル」等という和名の種はいない。大型のヒキガエル類を食う蛇は本邦でも普通におり、特に毒蛇であるヤマカガシ(有鱗目ヘビ亜目ナミヘビ科ヤマカガシ属ヤマカガシ Rhabdophis tigrinus)はヒキガエルの毒に耐性があると推定され、好んで捕食し、それどころか、ヤマカガシの頸部等から分泌される毒はヒキガエルの毒を貯蓄して利用していることが判っている。逆に「蛇食い蛙」となると、小型の蛇ならばヒキガエルでも食うが、大型の蛇(例えば先のヤマカガシ)を食う蛙となると、本邦では外来種の、カエル目ナミガエル亜目アカガエル科アカガエル亜科アカガエル属 Aquarana 亜属ウシガエル Rana catesbeiana が挙げられる。しかし、東京帝国大学教授で殖産のために外来種持ち込みを積極的に行ったことで悪名高い動物学者渡瀬庄三郎が日本に食用として本種を持ち込んだのは大正七(一九一八)年であるから、ここに候補として出すことは出来ない因みに、持ち込まれた場所は私の住む大船であり、その餌としてやはり持ち込まれたのが、アメリカザリガニであって、それらが洪水によって全国にばら撒かれてしまったのである(このことは、何時か、別なところでテツテ的に糾弾したいと思っている)

 

」「音、論〔(リン)〕」大修館書店「廣漢和辭典」に、「」の原義は『うねり行くさま』で、第二義に『蝦蟇(がま)・へびくいがま』とし、第三義に『蛇の一種。神蛇という』としながら、続いて『また、へびくいがま』とする。孰れの場合も音は「リン」である。「論」の字は、通常音は「ロン」であるが、「筋道」の意で用いる時には、同辞典に『倫に通ずる』とある。本文でも後の「説文」で「音、倫」とするところから、ここは「リン」とした。東洋文庫訳でも「リン」とルビする

「文字集畧」梁の阮孝緒(げんこうちょ 四七九年~五三六年:彼は三国時代の「竹林の七賢」の一人でその指導者的人物であった阮籍(二一〇年~二六三年)の後裔である)の撰になる字書。

「蓋し、蛇、鼠を吞(の)み、而〔も〕、蛇を食ふ鼠、有り。蛇は豹を制して、而〔も〕、蛇を噉〔(くら)〕ふ豹、有るときは、則ち、田父の蛇を伏〔(ぶく)〕すも亦、此の類〔ひ〕と〔す〕るのみ。恠〔(あや)〕しむに非ざるなり。」訓読が不全である(私が補ったものを完全にカットして、訓読通りに示すと、「蓋し、蛇、鼠を吞(の)み、蛇を食ふ鼠、有り。蛇は豹を制して、蛇を噉ふ豹、有るときは、則ち、田父の蛇を伏すも亦、此の類とるのみ。恠しむに非ざるなり。」となって如何にもおかしいことが判然とする)。ここは、

「蓋し、蛇、鼠を吞めども、蛇を食ふ鼠も有り。蛇は豹を制すれども、蛇を噉ふ豹も有り。則ち、田父の蛇を伏すも亦、此の類ひとするのみ。恠しむに非ざるなり。」

とでも訓じないと、日本語としては不十分であると私は思う。意味は、

「思うに、蛇は鼠を丸呑みするが、蛇を食う鼠もいる。また、蛇は豹を威嚇して襲うことがあるが、蛇を食う豹もいる。思うに、この田父(へびくいがえる)が蛇を咬み押さえて食うという行動もまた、これに類するごく当たり前のことに過ぎない。怪しむに足らぬことなのである。」

の謂いである。

「神泉に潛みて、能く雲雨を興〔(おこ)〕す」中国お得意の神仙幻獣物へのスライドである。「前の説に異〔なる〕なり。同名異品か。未だ詳かならず」とわざわざ附す良安の気が私は知れない。

「谿狗〔(けいく)〕」(「ク」は呉音。漢音なら「コウ」。東洋文庫は後者で振る)これは「本草綱目」の蛙類の独立項で、「蝌斗」と次の「山蛤」の間に配されてある。「蝦蟇〔(かへる)〕に似、尾の長さ、二~四寸」(六・一~十二センチメートルほど)とあって、良安がわざわざ和名を「乎奈加加閉流〔(をながかへる)〕」とする以上、原典が「蝌斗」の後でもあり、大型の蛙類の一種の、オタマジャクシからの変態過程の後期の一状態を指して独立種と誤認しているに過ぎぬのではなかろうか?

「山蛤〔(さんかふ)〕」「蝦蟇〔(かへる)〕に似て、大なり。黃色。能く氣を吞み、風・露を飮」むとするのでは何をか言わんやであるが、「山人、之れを食ふ。能く疳疾」(「驚風」と同じく、小児が「ひきつけ」を起こす病気の称。現在の癲癇(てんかん)症や髄膜炎の類に相当する)「を治す」とする以上は実在種である。食用にする点では以前に挙げた、俗に「水鶏」「田鶏」と呼ばれるカエル亜目アカガエル科アカガエル亜科アカガエル属トラフガエル Rana tigerina、カエル亜目ヌマガエル科ヌマガエル属ヌマガエル Fejervarya kawamurai などが想起されるものの、これらは水辺に棲息するので、条件に合わない。そこで調べて見ると、Majin氏の個人サイト「ドダン・ブーファンのポトフ」の食用カエル」に出る(リンク先には捌いた蛙の生肉の写真もあるのでクリックはくれぐれもご注意あれかし!)「山鶏(サン・ジー/石鶏(シー・ジー)」が最も相応しい候補のように思われた。そこには(学名は斜体に直し、一部、命名者名を学名の一部とした箇所をカットさせて貰った)、『アカガエル科。見た目は、ヒキガエルに似ているが、別種のようだ』。『動物学上の中国語名は棘胸蛙、和名はスピノーザトゲガエル、英名はジャイアント・スピニー・フロッグ(Giant Spiny Frog)、学術名はパー・スピノザ(Paa spinosa)。他には、ラナ・スピノザ(Rana spinosa)』『との記述も見られる』。『別名石鶏(シー・ジー)とも呼ばれ、中国南部からベトナム北部の山間の冷涼な渓流に住む。成長すると、ウシガエルほどの大きさになるそう』で、『田鶏より、さらに美味いとされ、特に、黄山で獲れたものは、味が良く珍重される』。『乱獲のため、絶滅に瀕しているため、現在盛んに養殖されている』とある。但し、英語版ウィキのQuasipaa spinosaによれば(本種はRana latransRana spinosaPaa spinosa をシノニムとするとある)、本種はアカガエル科ではなく、ヌマガエル科ヌマガエル亜科 Quasipaa 属スピノーザトゲガエル Quasipaa spinosa とされてある。

「藏蟄〔(ざうちつ)〕」東洋文庫訳では『あなごもり』とルビする。

「襍蟲〔(しふちゆう)〕」「襍」は「入り混じる」の意であるが、普通の蛙が捕食する「種々雑多な」虫類(この場合は本草上の爬虫類や両生類(蛙類には共食いをする種も多い)も含んだ広義のそれ)の意。]

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