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2017/10/17

和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 蝸牛(かたつむり)


Katatumuri

 

かたつふり  蠡牛 蚹羸

       蝓 山蝸

       蝸羸 蜒蚰羸

蝸牛    土牛兒

       【和名加太

        豆不利】

コウ ニウ

本綱蝸牛生池澤草樹間形似小螺白色頭形如蛞蝓但

背負殼耳頭有四黒角行則頭出驚則首尾俱縮入殻中

其身有涎能制蜈蝎夏熱則自懸葉下往往升高涎枯則

自死也此蟲有角如牛故得牛名

     夫木牛の子にふまるな野へのかたつふり角あれはとて身をはたのみそ

                   寂蓮

△按蝸牛【俗出出蟲】有而四角二者其短其短者非角露眼之

 甚者也物觸則縮角出入最速

 莊子所謂有國于蝸牛左角者曰蠻民國于右角者曰

 觸氏爭地而戰伏尸數萬者是也蓋蟭螟蟲窠蚊睫之

 類共是寓言耳

蝸牛 治小便不通者搗之貼臍下以手摩之【加麝香少許更妙】

 又治脱肛【虛冷毎因大便脱肛】用蝸牛【燒灰】豬油和傅立縮

緣桑蠃 【一名桑牛又名天螺】

本綱此螺全似蝸牛黃色而小雨後好緣桑上者取用藥

正如桑螵蛸之意主治大腸脱肛及驚風

かたつぶり  蠡牛〔(れいぎう)〕

       蚹羸〔(ふるい)〕

       
蝓〔(いゆ)〕

       
山蝸〔(さんくわ)〕

       蝸羸〔(くわるい)〕

       蜒蚰羸〔(えんゆるい)〕

蝸牛    土牛兒

       【和名、「加太豆不利」。】

コウ ニウ

「本綱」蝸牛は池澤・草樹の間に生ず。形、小さき螺〔(にな)〕に似て、白色。頭の形、蛞蝓(なめくぢ)のごとし。但し、背に殻を負ふのみ。頭に四つの黒き角、有り。行くときは、則ち、頭を出だす。驚くときは、則ち、首尾、俱に縮(ちゞ)まり、殻の中に入る。其の身に涎〔(よだれ)〕有りて、能く蜈(むかで)・蝎(さそり)を制す。夏、熱するときは、則ち、自〔(みづか)〕ら葉の下に懸かり、往往〔にして〕高きに升(のぼ)る。涎、枯るれば、則ち、自〔(おのづか)〕ら死す。此の蟲、角、有りて、牛のごとし。故に牛の名を得。

「夫木」

 牛の子にふまるな野べのかたつぶり

     角あればとて身をばたのみそ

                 寂蓮

△按ずるに、蝸牛【俗に「出出蟲〔(ででむし)〕」。】四つの角有りて、二つは短かし。其の短かき者は角に非ず、露-眼(でめ)の甚しき者なり。物に觸れて、則ち、縮(ちぢ)んで、角を出入すること、最も速し。

「莊子」に所謂〔(いはゆ)〕る、『蝸牛の左の角に國〔(くに)〕有るをば「蠻民」と曰ふ。右の角に國ある者を「觸氏」と曰ふ。地を爭ひて戰ふ。尸〔(しかばね)〕を伏すること、數萬』といふは、是れなり。蓋し、蟭螟蟲〔(せうめいちゆう)〕、蚊の睫(まつげ)に窠(すく)ふの類〔(たぐひ)〕、共〔(とも)〕に是れ、寓言〔たる〕のみ。

蝸牛 小便の通ぜざる者を治す。之れを搗きて臍の下に貼(つ)けて、以つて手〔に〕て之れを摩つ【麝香、少し許り、加〔ふれば〕、更に妙なり。】。又、脱肛を治す【虛冷〔にして〕毎〔(つね)〕に大便に因りて脱肛〔せるもの〕。】蝸牛を用ひて【灰に燒く。】豬〔(ぶた)〕の油に和して、傅く。立〔ちどころに〕縮むる。

緣桑蠃(くはのきのかたつぶり) 【一名、「桑牛」、又、「天螺」と名づく。】

「本綱」、此の螺、全く、蝸牛に似て、黃色にして小さし。雨の後に、好んで桑の上に緣(はひのぼ)る者、藥に取り用ふ。正に桑螵蛸〔(さうへうせう)〕の意ごとし。大腸脱肛及び驚風を治することを主〔(つかさど)〕る。 

 

[やぶちゃん注:軟体動物門 Mollusca 腹足綱 Gastropoda有肺目Pulmonata の内の陸生有肺類で貝殻を持つ種群(貝殻を失ったナメクジを除く)であるが、一般的には殻が細長くないものを指すことが多い。或いは真有肺亜目柄眼下目マイマイ上科 Helicoidea或いはそのマイマイ上科 Helicoidea オナジマイマイ科 Bradybaenidae マイマイ属 Euhadra に属する種群(模式(タイプ)種はミスジマイマイ(三条蝸牛)Euhadra
peliomphala
。樹上性で、関東地方南部から中部地方東部に分布する日本固有種。関東地方南西域・中部地方南東部・伊豆諸島の神津島以北に分布)が我々日本人が「かたつむり(蝸牛)」と称しているものをほぼ包括すると言ってよかろう。

「かたつぶり」ウィキの「カタツムリ」の「名称」によれば、『日本語における名称としてはカタツムリの他に、デンデンムシ、マイマイ、蝸牛(かぎゅう)などがある。語源については諸説がある』とし、「カタツムリ」は『笠つぶり説、潟つぶり説、片角振り説など諸説ある』が、『「つぶり」は古語の「つび(海螺)」で巻貝を意味する』ところはほぼ確定的と私は思っている。「デンデンムシ」は『子供たちが殻から出ろ出ろとはやし立てた「出ん出ん虫」(「出ん」は出ようの意)であるとの説があ』り、「マイマイ」は『「デンデンムシ」と同様に子供たちが』「舞え! 舞え!」『とはやし立てたことに由来するとの説がある』。また、漢名「蝸牛」は『動作や頭の角がウシを連想させたためとみる説がある』。『柳田國男はカタツムリの方言(デデムシ、マイマイ、カタツムリ、ツブリ、ナメクジ)の分布の考察を通して、『蝸牛考』において方言というものは時代に応じて京都で使われていた語形が地方に向かって同心円状に伝播していった結果として形成されたものなのではないかとする「方言周圏論」を展開した』ことで知られるが、『晩年の柳田は方言周圏論の問題点を認識するようになっていた』と附す。私はこの柳田國男の「蝸牛考」が好きで、既にその初版をブログのカテゴリ「柳田國男」で総て電子化注している(二〇一五年二月二十四日から二〇一六年二月十三日までの二十八回分割)ので、関心のある方は、是非、お読み下さると幸いである

「蚹羸」「本草綱目」原典や東洋文庫版では「蚹蠃」とし、後者はルビを『ふら』とする。但し、中文本草を調べる限り、「羸」でも誤りではない。それでも、「蠃」は巻貝を指す一般的な字であるから、こちらの方が判り易いことは事実である。

蝓」東洋文庫は「蝓」に作るが、同字。「本草綱目」も「」となっている。

「蝸羸」「蚹羸」と同じく「本草綱目」原典や東洋文庫版では「蝸蠃」で、ルビを『から』とする。同じく「蠃」の方が判り易い。以下、「蜒蚰羸」「蝸羸」「蜒蚰羸」の「羸」も同前。

「其の身に涎〔(よだれ)〕有りて、能く蜈(むかで)・蝎(さそり)を制す」一部の海産巻貝の外套膜から分泌される粘液に弱毒性があるやに記憶しているが、カタツムリのそれが有毒で、ムカデやサソリまでもがそれを忌避するというのは聴いたことがない(但し、カタツムリ類に寄生する寄生虫は非常に危険で、ヒトに日和見感染して脳に入り込んだりした場合には重い症状を呈することはある)。

「升(のぼ)る」「昇る」。

「牛の子にふまるな野べのかたつぶり角あればとて身をばたのみそ」「夫木和歌抄」の「卷廿七」の「雜九」に載る寂蓮法師の一首であるが、「野べ(野邊)」は「庭(には)」の、「角あればとて」は字余りで「角のあればとて」の誤り。整序して示すと、

 牛の仔に踏むまるな庭のかたつぶり角(つの)のあればとて身をば賴みそ

である。

「四つの角有りて、二つは短かし。其の短かき者は角に非ず、露-眼(でめ)の甚しき者なり」誤り。カタツムリ類は大触角一対と小触角一対の計四本が通常伸ばしている際には「つの」のように突き出ているが、上方の大触覚の先に眼がある(但し、明暗を認識するだけで、視覚的に像を結ぶことはないと考えられている)。因みに、童謡に出る「やり」は、この「つの」、触角ではなく、恋矢(れんし)と言う交尾管(陰茎)(カタツムリは雌雄同体で、二匹が互いにこれを出し合って角の後方側面にある生殖孔(右巻きでは右側、左巻きでは左側)に互にそれを挿入し合う形で交尾が行われる)で、普段は軟体部中央下部の矢嚢に収納されており、見ることはないが、交尾の際、内部からそれが反転翻出する

『「莊子」に所謂〔(いはゆ)〕る、『蝸牛の左の角に國〔(くに)〕有るをば「蠻民」と曰ふ。右の角に國ある者を「觸氏」と曰ふ。地を爭ひて戰ふ。尸〔(しかばね)〕を伏すること、數萬』』「蠻民」は「觸氏」の誤りであり、「觸氏」は「蠻氏」の誤り。これは「荘子」の「則陽篇」の以下の下線太字部分。全体は、魏の恵王が隣国斉が盟約を破ったことに憤って斉を責めようとしたのを、魏の宰相で荘子の友人であった恵子がそれを押し留めるために魏の賢人戴晋人(たいしんじん)を呼んで、意見を述べさせるシークエンスの譬え話である。但し、恵子は恵王の子の襄王の時の宰相であるから、作り話である。

   *

惠子聞之而見戴晉人。戴晉人曰、「有所謂蝸者、君知之乎。」。曰、「然。」。「有國於蝸之左角者曰觸氏、有國於蝸之右角者曰蠻氏、時相與爭地而戰、伏尸數萬、逐北旬有五日而後反。」。君曰、「噫、其虛言與。」。曰、「臣請爲君實之。君以意在四方上下有窮乎。」君曰、「無窮。」。曰、「知遊心於無窮、而反在通達之國、若存若亡乎。」。君曰、「然。」。曰、「通達之中有魏、於魏中有梁、於梁中有王。王與蠻氏、有辯乎。」君曰、「無辯。」。客出而君惝然若有亡也。

   *

惠子、之れを聞きて戴晋人を見(まみ)えしむ。戴晋人、曰く、「所謂、蝸(くわ)なる者、有り、君(きみ)、之れを知るか」と。曰く、「然り。と。「蝸の左角(さかく)に國(くに)する者有り、『觸氏(しよくし)』と曰ふ。蝸の右角(いうかく)に國する者有り、『蠻氏(ばんし)』と曰ふ。時に相ひ與(とも)に地を爭ひて戰ひ、伏尸(ふくし)、數萬、北(に)ぐるを逐(お)ひて旬(じゆん)有(いう)五日(ごにち)[やぶちゃん注:十五日。]にして、後(のち)反(かへ)る。」と。君、曰く、「噫(ああ)、其れ、虛言ならんか。」と。曰く、「臣、請ふ、君の爲に之れを實にせんを[やぶちゃん注:では、私めは、本当のことを王のために言わせて貰いたく存じます。]。君、四方上下[やぶちゃん注:全宇宙。]を在(み)るに、窮まり有りと以-意(おも)ふや。」と。君、曰く、「窮まり無し。」と。曰く、「心を無窮に遊ばしむるを知りて、反(かへ)つて通達の國[やぶちゃん注:実際に道が通っていて行くことが出来る国。]を在(み)れば、存(そん)するがごとく亡きがごときか。」と。君、曰く、「然り。」と。曰く、「通達の中(うち)に、魏、有り。魏の中に於いて、梁[やぶちゃん注:魏の首都。]、有り。於梁の中に於いて、王、有り。王と蠻氏と、辯(わきまへ)有るか。」と。君、曰く、「辯へ、無し。」と。客、出でて、君、惝然(しやうぜん)として亡(うし)なふもの有るがごとし。

   *

「蟭螟蟲〔(せうめいちゆう)〕、蚊の睫(まつげ)に窠(すく)ふ」先行する蚊(か) 附 蚊母鳥の本文の「蟭螟」及び私の注を参照。

「寓言」譬え話。

「摩つ」送り仮名はママ。「まつ」と読んでいるか。東洋文庫訳は『摩擦する』とある。擦り撫でる。

「麝香」哺乳綱鯨偶蹄目反芻亜目真反芻亜目ジャコウジカ科ジャコウジカ亜科ジャコウジカ(麝香鹿)属 Moschus のジャコウジカ類の成獣のには、を誘うための性フェロモンを分泌する麝香腺が陰部と臍の間にあるが、これは、その嚢を抜き取って乾燥させたもの。一般には媚薬として珍重される。

「虛冷」腹の中が精気がなくなって冷えている状態。

「大便に因りて脱肛〔せるもの〕」大便の排泄時に限って脱肛する症状。

「灰に燒く」十分に焼いて灰にする。

「縮むる」脱肛が戻る。

「緣桑蠃(くはのきのかたつぶり)」「桑牛」「天螺」この「蠃」はママ。浜田善利難波恒雄論文「生薬牛の研究) 縁桑螺の基源動物について」(『薬史学雑誌』1990Vol. 25No.1(PDF)の十四ページから開始)という恐るべき詳細な考証によって、これは有肺目真有肺亜目柄眼下目マイマイ上科オナジマイマイ科オナジマイマイ属の Bradybaena ravida 亜の亜種群に同定されている。

「桑螵蛸〔(さうへうせう)〕」東洋文庫注に『螵蛸はかまきりが木の上に卵を生んでつくる房のこと。桑の木の上にある正にものが薬用としてよいものとされる』とある。

「の意ごとし」東洋文庫訳では『の場合とよく似ている』とする。

「驚風」複数回既出既注であるが、再掲する。一般には小児疾患で「ひきつけ」を起こす病気の称。現在の癲癇(てんかん)症や髄膜炎の類に相当する。]

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