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2017/10/16

和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 蚯蚓(みみず)


Mimizu

 

みみす  螾 

     曲蟺 寒

 蟺 堅蚕

蚯蚓

     歌女。地龍子

     【和名美々須】

キウイン

 

本綱平澤地中有之四月始出十一月蟄結雨則先出晴

則夜鳴其鳴長吟故曰歌女其行也引而後申其塿如丘

故名蚯蚓或云結時能化爲百合也與𧒂螽同穴爲雌雄

今小兒陰腫多以爲此物所吹如咬人形如風眉鬚皆

落惟以石灰水浸之良

蚯蚓【鹹寒有小毒】 路上踏殺者名千人踏入藥更良蓋性寒

而下行性寒故能除諸熱疾下行故能利小便治足疾通

經絡也【孟子所謂蚓上食稿壤下飮黃泉故性廉而寒】

蚯蚓屎曰六一泥以其食細泥無沙石也性畏葱及鹽鹽

之日暴則須臾成水亦安葱内亦化成水也

△按蚯蚓其老大者白頸【和名可布良美々須】一種有青白色縱黒

 文者人觸急動走今人は用蚯蚓【去泥】生以酒呑之以爲

 聲音藥最有効然本草不載爲聲音藥且性寒有小毒

 不熱症人漫勿用蓋據長吟歌女之名義者乎

 爲蚯蚓及蟻所吹小兒陰腫者以火吹簡令婦人吹之

 或用蟬蛻煎水洗仍服五苓散卽腫消痛止

深山中有大蚓丈余者近頃丹波柏原遠坂村大風雨後

 山崩出大蚯蚓二頭一者一丈五尺一者九尺五寸人

 爲奇物也異國亦有大蚓出

 東國通鑑云髙麗太祖八年宮城東蚯蚓出長七十尺

 時謂渤海國來投之應

 

 

みみず  螾〔(きんいん)〕  䏰〔(くじん)〕

     曲蟺〔(きよくぜん)〕 寒〔(かんけん)〕

     䖤蟺〔(ゑんぜん)〕  堅蚕〔(けんさん)〕
蚯蚓
     歌女〔(かぢよ)〕   地龍子〔(ちりやうし)〕

    【和名、「美々須」。】

キウイン

 

「本綱」、平澤・地中に之れ有り。四月、始めて出づ。十一月、蟄結〔(ちつけつ)〕す。雨ふるときは、則ち、先づ、出で、晴るるときは、則ち、夜る、鳴く。其の鳴くこと、長吟す。故に「歌女」と曰ふ。其れ、行くことや、引きて、後〔(のち)〕、申〔(の)〕ぶ。其の塿〔(つち)〕、丘のごとし。故に「蚯蚓」と名づく。或いは云ふ、結〔(けつ)〕する時、能く化して百合と爲る〔と〕。𧒂螽〔(いなご)〕と穴を同〔じく〕し、雌雄を爲す。今、小兒〔の〕陰、腫るること、多くは以つて此の物の爲に吹かるゝごとし。人を咬めば、形、大風〔(たいふう)〕のごとくにして、眉・鬚、皆、落つ。惟だ、石灰の水を以つて之れを浸して、良し。

蚯蚓【鹹、寒。小毒有り。】 路上に踏み殺さるゝ者を「千人踏〔(せんにんたう)〕」と名づく。藥に入るるに、更に良し。蓋し、性、寒にして下行し、性、寒なる故、能く諸熱の疾を除く。下行する故に、能く小便を利し、足の疾を治し、經絡を通すなり【「孟子」に所謂〔(いはゆ)〕る、『蚓〔(いん)〕は、上は稿壤〔(こうじやう)〕を食ひ、下は黃泉〔(くわうせん)〕を飮む』〔と〕。故に、性、廉〔(つつまし)くし〕て寒なり。】。

蚯蚓の屎(くそ)を「六一泥〔(りくいつでい)〕」と曰ふ。以其れ、細かなる泥を食ひて、沙石無きを以つてなり。性、葱及び鹽〔(しほ)〕を畏る。之れに鹽(しほ)〔を〕つけ、日に暴〔(さら)〕せば、則ち、須臾〔にして〕水と成る。亦、葱の内に安(を)きても亦、化して水と成るなり。

△按ずるに、蚯蚓、其の老いて大なる者は「白頸」なり【和名、「可布良美々須〔(かふらみみず)〕」。】一種、青白色にして縱(たつ)に黒き文〔(もん)〕の者、有り、人、觸るれば、急に動き走る。今、人は蚯蚓を用ひて【泥を去る。】、生〔(なま)〕にて、酒を以つて之れを呑めば、以つて聲音の藥と爲り、最も、効、有り。然れども、「本草」に聲音の藥たること載せず。且つ、性、寒、小毒、有〔れば〕、熱症ならざる人、漫(みだり)に用ふること勿〔(な)〕かれ。蓋し、長吟〔より〕「歌女」の名義に據〔(よ)〕る者か。

 蚯蚓及び蟻の爲めに吹かれて、小兒〔の〕陰、腫るる者は、火吹簡(〔ひふき〕だけ)を以つて婦人をして之を吹かしむ、或いは蟬蛻〔(せんぜい)〕を用ひて、水に煎じて、洗い、仍〔(すなは)〕ち、五苓散〔(ごれいさん)〕を服すれば、卽ち、腫れ、消え、痛み、止〔(や)〕む。

深山の中に、大蚓〔(おほみみず)〕、丈余の者、有り。近頃、丹波柏原遠坂〔(かいばらとをさか)〕村、大風雨の後、山、崩れ、大蚯蚓二頭を出〔(いだ)〕す。一つは一丈五尺、一つは九尺五寸。人、奇物と爲すなり。異國にも亦、大蚓出〔(いづ)〕ること有り。

「東國通鑑」に云はく、『髙麗太祖八年、宮城〔(きうじやう)〕の東に、蚯蚓、出づ。長さ七十尺。時に渤海國來投の應なりと謂ふ。 

[やぶちゃん注:環形動物門 Annelida 貧毛綱Oligochaeta のミミズ類。本邦で一般的に知られる種はナガミミズ目ツリミミズ科 Eisenia 属シマミミズ Eisenia fetida である。

「みみず」勘違いしている方も多いので言っておくと、歴史的仮名遣でも「みみず」であって、「みみづ」ではない。これは有力な語源説である「目不見(めみえず)」からも立証出来る

螾〔(きんいん)〕」以下の別名の読みは東洋文庫を参考に歴史的仮名遣で示した。

「平澤」平地の沢。

「蟄結す」穴籠りする。

「夜る、鳴く。其の鳴くこと、長吟す」既に何度も述べた通り、ミミズに発声器官はなく、鳴かない。直翅(バッタ)目剣弁(キリギリス)亜目コオロギ上科ケラ科 Gryllotalpidae のケラ(螻蛄)類の鳴き声の誤認である。しかし、「歌女」という別名は、何とも、いい。

「申〔(の)〕ぶ」「伸(の)ぶ」(伸びる・伸ばす)に同じい。

「塿〔(つち)〕」東洋文庫訳の読みを援用した。

「結〔(けつ)〕」先の「蟄結」の意。

「能く」しばしば。

「化して百合と爲る」これなら「歌女」の異名もしっくりくる。

𧒂螽〔(いなご)〕」既出項。直翅(バッタ)目バッタ亜目イナゴ科 Catantopidae のイナゴ類。それにしても「穴を同〔じく〕し、雌雄を爲す」という説は驚き桃の木山椒の木だね!

「小兒〔の〕陰」小児の陰部。ほれ、ミミズに小便かけるとおちんちんが腫れる、だ! 凄いね、中国の本草書に早くからかく書かれていたんだね。

「以つて此の物の爲に吹かるゝごとし」このミミズに毒の気を吹きかけられたために発症したのである、という意味。

「人を咬めば」ミミズは人を咬みません! 何か、別種の蠕動性の生物類(ムカデ等)を誤認しているように思われる。

「大風」東洋文庫訳では、『風寒・風熱等が原因となっておこる病気の重症のもの』とするが、漢方で「大風」と言った場合、圧倒的にハンセン病のことを指す。顔面の体毛が殺げ落ちるというのは、後者の症状の一様態とした方が腑に落ちる。

「千人踏」千人の人の影の精気をその死骸に受けることによる呪的霊力を保持すると考えたのである。

「寒」エネルギ属性が下位の、陰気を主とする属性。

「下行」漢方で総ての下に向かう流れ(運動方向・推移様態・現象傾向)を指す。

『「孟子」に所謂〔(いはゆ)〕る、『蚓〔(いん)〕は、上は稿壤〔(こうじやう)〕を食ひ、下は黃泉〔(くわうせん)〕を飮む』〔と〕』「孟子」「滕文公章句下」の最終章に出る。斉の匡章(きょうしょう)が孟子に自国の斉の陳仲子(ちんちゅうし)を清廉の士として讃えたの対して孟子が反論した一節に出る。

   *

孟子曰、於齊國之士、吾必以仲子爲巨擘焉、雖然仲子惡能廉、充仲子之操、則蚓而後可者也、夫蚓上食槁壤、下飮黃泉、仲子所居之室、伯夷之所築與、抑亦盗跖之所築與、所食之粟、伯夷之所樹與、抑亦盗跖之所樹與、是未可知也。

(孟子曰く。「齊國の士に於ては、吾、必ず仲子を以つて巨擘(きよはく)とせん。然りと雖も、仲子惡(いづく)んぞ能く廉ならん。仲子が操を充つるときは、則ち、蚓(いん)にして後に可なる者なり。夫(そ)れ、蚓は、上、槁壤を食らい、下、黃泉を飮む。仲子が居る所の室は、伯夷が築く所か。抑々(そもそも)、亦、盜跖〔(たうせき)〕が築く所か。食らふ所の粟は、伯夷が樹(う)うる所か。抑々、亦、盜跖が樹うる所か。是れ未だ知んぬべからず、と。)

   *

「巨擘」手の指の親指の如く突出した人物。「稿壤」は乾いた土のこと。「黃泉」は濁った地下の水。ここでの孟子は孝・忠の原則を自然でないとして独り清廉に生きん者ならば、それはミミズにでもなれらねば達成できぬことだと論破しているのであるが、このシークエンスでの孟子は如何にも厭な感じがする。

「廉〔(つつまし)くし〕て」読みは東洋文庫訳のルビを参考にした。清廉にして。多分に前の「孟子」の謂いが影響した謂いである。

「六一泥〔(りくいつでい)〕」東洋文庫注に『泥が六、沙石が一の割合ということであろうか。『本草綱目』には陶弘景の言として「入合丹据釜用」とあるので、道教で丹を調合するとき、調合薬を入れた釜を泥封するのに用いるということであろう。しかし、六一泥にはもう一つあり、それは雌黄・牡蠣殻・胡粉・石灰・赤石脂・食塩末など六つの材料各一両を水で調合したものをいう。『抱朴子』(金丹)に出てくる、金丹をつくるために調合した薬材を泥封するに用いる六一流とは、こちらの方のようである』とある。

「之れに鹽(しほ)〔を〕つけ、日に暴〔(さら)〕せば、則ち、須臾〔にして〕水と成る」こりゃ、ナメクジみたようだが、塩をかけて日光に曝せば、ミミズは体液を水のように吸い出されて確実に死ぬ。しかし、水になるわけでは、無論、なく、雨後に溺死した死骸として長く見かけるように、干からびても外皮のクチクラ層はしっかり残る。

「葱の内に安(を)きても亦、化して水と成る」ミミズの飼育サイトに餌として絶対に入れてはいけないものとして「辛いもの・塩分の濃いもの」としてネギが挙げてある。しかし、Q&Aサイトのネギ農家の質問で、収穫した葱のゴミの部分を畑の中に山のように置いているが、その下に多数のミミズが棲息しているとあるから、ミミズがネギを忌避するとは思われない

「白頸」以下に和名を別に出す以上は「はつけい(はっけい)」と読むべきか。これは所謂、成体のミミズの頭部方向に存在する「環帯」のことを指していよう。個体によってこの部分は他の体節より色が薄く、この名が腑に落ちるからである。ウィキの「ミミズ」によれば、『成熟したミミズは、体の前の方にいくつかの体節にまたがった肥大した帯状部分を持つ。この部分は外見では中の体節が区別できなくなっているから、そこだけ幅広く、また太くなった節があるように見える。これを環帯と呼んでいる。多くの大型ミミズ類では、環帯より前方の腹面に雄性生殖孔が、環帯の腹面に雌性生殖孔がある。なお、多毛類においては生殖腺はより多くの体節にまたがって存在する例が多い。ミミズにおいてそれがごく限られた体節にのみ存在することは、より異規体節制が進んだものとみなせるから、より進化した特徴と見ることができる』とある。

「可布良美々須〔(かふらみみず)〕」これは前に「老いて大なる者は」という属性から、日本におけるミミズの最大種(最大長四十センチメートルにも達する)の一つで、西日本の山林に棲息する青紫色の光沢を持った、環形動物門貧毛綱ナガミミズ目フトミミズ科フトミミズ属シーボルトミミズ Pheretima sieboldi を想定してよいかと思われる(後に別に「一種、青白色にして縱(たつ)に黒き文〔(もん)〕の者」を挙げているが、ここは以下の名称から、同じ種を記載していると読むこととする)。その特異な光沢色に言及していないのが残念である)。ウィキの「シーボルトミミズ」によれば、『山ミミズなどの異名も知られる。なお、目立つものであるためか各地に方言名が多く残っている。四国ではカンタロウと言われることがあちこちに記されている。和歌山県でもカンタロウと呼ばれる他、カブラタとの呼称も知られる』とある。ここに出る本種の地方名「カブラタ」は「可布良美々須」(東洋文庫は『かぶらみみず』とルビする)とほぼ一致する。ここで良安が別種として示すその種の色を「青白色」としているのはまさに本種の特徴である。「縱(たつ)」(たて)「に黒き文〔(もん)〕」があるとするが、同種には黒い紋は普通はない。しかし、強い青の金属光沢を持つ本種は、背部中央の光沢が見方によっては有意な縦筋に見えないことはないから、おかしいとは言えない。なお、巨大種としては別にジュズイミミズ目ジュズイミミズ科ジュズイミミズ属ハッタジュズイミミズ Drawida hattamimizu がおり、体長は六十センチメートルほどであるが、よく伸びると一メートルにも達して見える(但し、本種は少なくとも現在は石川県河北潟周辺、滋賀県の琵琶湖周辺、それに福井県の三方五湖周辺にのみに限定棲息している)

「人、觸るれば、急に動き走る」ウィキの「シーボルトミミズ」によれば、運動性能はミミズ類の中では非常に高い部類に属し、『地上での動きは意外に素早』く、『また、季節によって大きく移動することも知られている。夏場には尾根筋から斜面にかけて広く散らばって生活するのに対して、それらの個体全てが越冬時には谷底に集まる。つまり、春には谷から斜面に向けて、秋には斜面から谷底に向けて移動が行われる』。『これに関わってか、本種が身体の前半を持ち上げるようにして斜面を次々に滑り降りる様や、林道の側溝に多数がうじゃうじゃと集まっている様子などがしばしば目撃され、地元の話題になることなどがある』。『このような現象の理由や意義は明らかにされていないが』、研究者は『天敵であるだろう食虫類は常時多量の餌を求めることから、このような習性はこの種の現存量が一定しないだけでなく、大きな空白期間を作ることになるので、この種を主要な餌として頼れない状況を作ること、また同じく天敵となるイノシシに対してはその居場所が一定しないことになるので餌採集の場所を学習することを困難にしているのではないかと』いう仮説を立てている、とある。因みに、本種には粘液を噴射する能力があり、『本種を見つけた際に素手で掴んだところ、ミルクのような白い液が飛び出し、顔や眼鏡にかかったという』研究者の報告があり、『恐らくは背孔から発射されたものと思われ、タオルで拭った後には特に変化はなかったという。国外ではミミズにそのような能力がある例が幾つか知られ、例えばオーストラリアの Didynogaster sylvaticus はフンシャミミズの名で呼ばれ、別名を「水鉄砲ミミズ」と言い、時に粘液を』六十センチメートル『も飛ばすという。本種では他に聞く話ではないので、本種にその能力はあるもののいつも使うわけではないのだと思われる』とある。これは先の所謂、ミミズに小便の伝承との連関性が感じられるようにも思われるが、以上の記載から見ても、当該噴出液に毒性は認められないと言ってよかろう

「生〔(なま)〕にて、酒を以つて之れを呑めば、以つて聲音の藥と爲り、最も、効、有り。然れども、「本草」に聲音の藥たること載せず。且つ、性、寒、小毒、有〔れば〕、熱症ならざる人、漫(みだり)に用ふること勿〔(な)〕かれ。蓋し、「長吟」・「歌女」の名義に據〔(よ)〕る者か」既に薬効は示されているが、ウィキの「ミミズ」によれば、『漢方薬では「赤竜」・「地竜」』『または「蚯蚓(きゅういん)」と称し、ミミズ表皮を乾燥させたものを、発熱や気管支喘息の発作の薬として用いる。なお、民間療法が、日本各地に伝承している』。『また、特定のミミズには、血栓を溶かす酵素を持つことも知られている』。『血栓を溶かす酵素を持つミミズであるルンブルクスルベルス』(オヨギミミズ目オヨギミミズ目 Lumbriculidae 科ルンブリクス属 Lumbricus rubellus:ヨーロッパ原産のミミズの一種。「赤ミミズ」などと呼ばれることもある。学名は「ルンブリクス」と読むのが正しい)『の粉末を入れた健康食品(ルンブロキナーゼ)が発売されている。日本の医師の研究で、臨床試験されて効果も発表されている』。『そのための専用のミミズを育成している。その発表で血管にできたプラークをも溶かすと言われているが、広く認められたものではない』とある。

「吹かれて」毒気を吹きつけられて。

「火吹簡(〔ひふき〕だけ)」火吹き竹。

「婦人をして」女性だから優しく吹くのが効果的という意味ではなく、恐らくは陰気の生物である蚯蚓を、同じ陰の属性を持つ人間の女性が吹くことで、その症状を癒す力があると考えたものと私は解釈する。

「蟬蛻〔(せんぜい)〕」蝉の抜け殻。漢方では「蝉退(せんたい)」と称する生薬で、鎮痛・消炎・解熱・痙攣鎮静作用があり、アレルギーにも有効とされる。湿疹・蕁麻疹・汗疹(あせも)・アトピー性皮膚炎に効く消風散などにも含まれている。

「五苓散〔(ごれいさん)〕」猪苓(チョレイ:菌界担子菌門真正担子菌綱チョレイマイタケ目サルノコシカケ科チョレイマイタケ属チョレイマイタケ Polyporus umbellatus の菌核。消炎・解熱・利尿・抗癌作用等がある)三分(ぶん)・茯苓(ブクリョウ:アカマツ・クロマツなどのマツ属の植物の根に寄生する菌界担子菌門菌じん綱ヒダナシタケ目サルノコシカケ科ウォルフィポリア属マツホド(松塊)Wolfiporia extensa の菌核。利尿・鎮静作用がある)三分・蒼朮(ソウジュツ:キク目キク科オケラ属ホソバオケラ(細葉朮)Atractylodes lancea の根茎。中枢抑制・胆汁分泌促進・抗消化性潰瘍作用等がある)または白朮(ビャクジュツ:キク目キク科オケラ属オケラ Atractylodes japonica の根茎。健胃・利尿効果がある)三分・沢瀉(タクシャ:水生植物である単子葉植物綱オモダカ目オモダカ科サジオモダカ属ウォーター・プランテーン変種サジオモダカ Alisma plantago-aquatica var. orientale の塊茎。抗腎炎作用がある)五分・桂皮(ケイヒ:桂枝とも。クスノキ目クスノキ科ニッケイ属(シナ)ニッケイ Cinnamomum sieboldii の樹皮。(シナモン Cinnamomum zeylanicumは近縁種)発汗・発散作用・健胃作用がある)二分の調剤物(「一分」は三十七・五ミリグラム)。利尿効果が主で、吐き気・嘔吐・下痢・浮腫(むくみ)・眩暈(めまい)・頭痛などに適応する。

「丹波柏原遠坂村」不詳。現在の兵庫県丹波市柏原町(かいばらちょう)はここ(グーグル・マップ・データ)。しかし、「遠阪川」の名が残るものの、そこはここより遙かに北で、現行、加古川から分岐する遠阪川の分岐地点の原住所は、兵庫県丹波市青垣町西芦田で、現在の柏原町中心部から直線でも十二キロメートル以上も離れる。ここ(グーグル・マップ・データ)。ちょっと不審である。旧柏原藩内のようなので、こうした村名となったものであろうとは思う。

「一丈五尺」四メートル十八センチメートル。

「九尺五寸」二メートル八十八センチメートル弱。孰れもデカ過ぎ。誇大風聞で、実態は先に示したシーボルトミミズであろう。

「東國通鑑」一般に「とうごくつがん」と読まれる。朝鮮半島の編年体の歴史書。李氏朝鮮の世祖の時代に着手され、徐居正らにより成宗時代の一四八四年に成立した。外紀一巻・本文五十六巻。檀君に始まって箕子・衛満ら、漢四郡、三国時代、新羅を経て、高麗末期までを対象とするが、内容は既存の「高麗史節要」や「三国史節要」及び中国の史書などを流用しているものの、誤りも多いため、現在は歴史史料として重視されていないが、本邦では上記の史書「高麗史」「三国史記」などが稀覯本扱いであったため、徳川光圀が寛文七(一六六七)年に本書を出版したことから、長らく、朝鮮半島史についての基礎文献であった。現代の韓国の民族主義の基幹をなす「檀君紀元」は本書での即位年の記述が元となっている(以上はウィキの「東国に拠る)。

「髙麗太祖八年」九二五年。

「宮城」この当時の高麗の首都は現在の朝鮮民主主義人民共和国南部にある開城(ケソン)市。(グーグル・マップ・データ)。

「七十尺」二十一メートル強。

「時に渤海國來投の應なり」「來投」は「降服」の意。「應」の「まさに~べし」の再読文字の意味から分かる通り、「事前の兆し・予兆」の意。八世紀から十世紀にかけて中国東北地方を中心に沿海州から朝鮮半島北部に亙って栄えた渤海国(六九八年にツングース系靺鞨(まっかつ)族の首長大祚栄が建国。唐の制度・文物を摂取して仏教を保護し、日本とも国交があった)は、まさに、この翌九二六年、契丹(モンゴル系でツングースとの混血種族)に滅ぼされているのである。]

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