和漢三才圖會 禽類 始動 総論部及び「目録」
寺島良安「和漢三才図会」の「卷四十一」から「卷四十四」に至る「禽部」(私が日常的に観察する生物の中で最も個体識別を苦手とする鳥類である)の電子化注を、新たにブログ・カテゴリ「和漢三才圖會 禽類」を起して始動する。
私は既に、こちらのサイトHTML版で、
卷第四十 寓類 恠類
及び
卷第四十五 龍蛇部 龍類 蛇類
卷第四十六 介甲部 龜類 鼈類 蟹類
卷第四十七 介貝部
卷第四十八 魚類 河湖有鱗魚
卷第四十九 魚類 江海有鱗魚
卷第五十 魚類 河湖無鱗魚
卷第五十一 魚類 江海無鱗魚
及び
卷第九十七 水草部 藻類 苔類
を、また、ブログ・カテゴリ「和漢三才圖會 蟲類」で、私が生理的に最も苦手とする虫類、
卷第五十二 蟲部 卵生類
卷第五十三 蟲部 化生類
卷第五十四 蟲部 濕生類
を完全電子化注している。余すところ、同書の動物類は「卷三十七 畜類」「卷三十八 獸類」「卷三十九 鼠類」と、この「卷四十一 水禽類」「卷四十二 原禽類」「卷四十三 林禽類」「卷四十四 山禽類」のみとなった。
思えば、私が以上の中で最初に電子化注を開始したのは「卷第四十七 介貝部」で、それは実に九年半前、二〇〇七年四月二十八日のことであった。当時は、偏愛する海産生物パートの完成だけでも、正直、自信がなく、まさか、ここまで辿り着くとは夢にも思わなかった。それも幾人かの方のエール故であった。その数少ない方の中には、チョウザメの本邦での本格商品化飼育と販売を立ち上げられながら、東日本大地震によって頓挫された方や、某国立大学名誉教授で日本有数の魚類学者(既に鬼籍に入られた)の方もおられた。ここに改めてその方々に謝意を表したい。
総て、底本及び凡例は以上に準ずる(「卷第四十六 介甲部 龜類 鼈類 蟹類」を参照されたい)が、HTML版での、原文の熟語記号の漢字間のダッシュや頁の柱、注のあることを示す下線は五月蠅いだけなので、これを省略することとし、また、漢字は異体字との判別に迷う場合は原則、正字で示すこととする。また、私が恣意的に送った送り仮名の一部は特に記号で示さない(これも五月蠅くなるからである。但し、原典にない補塡字は従来通り、〔 〕で示し、難読字で読みを補った場合も〔( )〕で示した(読みは注を極力減らすために本文で意味が消化出来るように恣意的に和訓による当て読みをした箇所がある。その中には東洋文庫版現代語訳等を参考にさせて戴いた箇所もある)。原典の清音を濁音化した場合も特に断らない)。ポイントの違いは一部を除いて同ポイントとした。本文は原則、原典原文を視認しながら、総て私がタイプしている。活字を読み込んだものではない(私は平凡社東洋文庫版の現代語訳しか所持していない。但し、本邦や中文サイトの「本草綱目」の電子化原文を加工素材とした箇所はある)。「蟲類」同様、ゆっくらと、お付き合い戴ければ幸いである。【2017年10月30日始動 藪野直史】
和漢三才圖會卷第四十一目録
禽部
時珍曰凡二足而羽曰禽飛禽總名曰鳥羽蟲三百六十
毛恊四時色合五方○山禽岩棲○原鳥地處○林鳥朝
○水鳥夜㖡○山禽咮短而毛修水禽咮長而尾促矣
其交也或以尾臎或以睛睨或以聲音或合異類【雉與蛇交之類】
其生也或以翼孚卵或以同氣變【鷹化鳩之類】或以異類化生
【田鼠化鴽之類】或變入無情【雀入水爲蛤之類】噫物理萬殊若此其可不
致知乎○天産作陽羽之類則陽中之陽也
周禮庖人掌六禽六畜六禽者鴈鶉鷃雉鳩鴿是也六畜
者馬牛未豕犬雞是也【雞則鳥而可以豢養故爲畜類】
*
「和漢三才圖會卷第四十一」目録
禽部
時珍曰く、『凡そ二足にして羽あるを、「禽〔(きん)〕」と曰ふ。「飛禽」の總名を「鳥」と曰ふ。羽ある蟲〔(ちゆう)〕、三百六十。毛は四時に恊(かな)ひ、色は五方に合ふ。「山禽」は岩に棲(す)み、「原鳥」は地に處〔(よ)〕る。「林鳥」は朝に嘲(な)き、水鳥は夜に㖡(な)く。「山禽」は咮(くちばし)短くして、毛、修(なが)く、「水禽」は咮長くして、尾、促(ちゞ)まる。其れ、交(つる)むや、或いは尾・臎(しりばね)を以つてし、或いは睛-睨(ひとみ)を以つてし、或いは聲音を以つてし、或いは異類に合ふ【雉と蛇と交むの類ひ。】其の生(こをう)むや、或いは翼を以つて卵(たまご)を孚(かへ)し、或いは同氣を以つて變ず【鷹、鳩に化すの類ひ。】。或いは異類を以つて化生〔(けしやう)〕す【田鼠〔(もぐらもち)〕の鴽〔(ふなしうづら)〕に化する類ひ。】或いは變じて無情に入る【雀、水に入りて蛤〔(はまぐり)〕と爲るの類ひ。】。噫(あゝ)、物理萬殊、此くのごとし。其れ、知ることを致さざらんや。天産を陽と作〔(な)〕し、羽あるの類は、則ち、陽中の陽なり。』〔と〕。
「周禮」、『庖人〔(はうじん)〕、六〔(りく)〕禽六畜を掌(つかさど)らしむ』〔と〕。「六禽」とは鴈〔(かり)〕・鶉〔(うづら)〕・鷃〔(ふなしうづら)〕・雉・鳩・鴿〔(いへばと)〕、是れなり。「六畜」とは、馬・牛・未・豕〔(ぶた)〕・犬・雞〔(にはとり)〕、是れなり【雞は、則ち、鳥なれども、以つて豢養〔(かんやう)〕すべき故に、畜類と爲す。】
[やぶちゃん注:動物界 Animalia 脊索動物門 Chordata 脊椎動物亜門 Vertebrata 四肢動物上綱 Tetrapoda 鳥綱 Aves の鳥類の総論部。
「時珍曰く」以下の引用は無論、何時もの通り、「本草綱目」から。「禽部」の巻四十七の目録部分からの引用。
「毛は四時に恊(かな)ひ」羽毛は四季に合わせて適切に変化適応し。「恊」は「協」と同じで「適(かな)う」の意。
「色は五方に合ふ」それぞれの種の毛や体色は、悉く「五方」(東西南北と中央の空間位置)にぴったりと適合している。前の四季との附合と合わせて、ここは上辺の視覚上のことを言っているのではなくて、陰陽五行説に完全に適った、生物界選り優りの優等生たる「陽」の生物であることを説明しているのである。でなくてどうして、最後に「天産」(自然が生み出した産物。東洋文庫訳は割注で『動物』とするが、従えない。ここは自然界を一般的に尋常に構成している生物群全般(道家的本草学的には、ある種の生物や魑魅魍魎の類いには例外的に陰気のみの存在もある)を指す)を陽と作〔(な)〕し、羽あるの類は、則ち、陽中の陽なり」とまで賞揚しない。
「原鳥」野原をテリトリーとする鳥類。
「交(つる)むや」交尾行動に際しては。
「異類に合ふ」鳥類でない別な生物と交合する。
「雉と蛇と交むの類ひ」本邦の国鳥ともされる鳥綱キジ目 Galliformes キジ科 Phasianidaeキジ属
Phasianus キジ Phasianus versicolor は鳥類の中では成体の蛇を好んで摂餌することで知られる。そうした現場を見て、交尾行動と見誤ったのであろう。
「(こをう)む」「子を産む」。
「同氣を以つて」同じ強力な陽気を持った広義の同じ「鳥類」としての不思議な影響力。
「田鼠〔(もぐらもち)〕」: 脊索動物門脊椎動物亜門哺乳綱 Mammalia トガリネズミ形目 Soricomorpha モグラ科 Talpidae のモグラのこと。
「鴽〔(ふなしうづら)〕」ここは東洋文庫訳のルビを参考にした。フナシウズラは「鶕」鳥綱チドリ目 Charadriiformesミフウズラ(三斑鶉)科 Turnicidaeミフウズラ属 Turnixミフウズラ Turnix suscitator の旧名。中国南部から台湾・東南アジア・インドに分布し、本邦には南西諸島に留鳥として分布するのみ。
「無情」通常は、仏教に於いて精神や感情などの心の働きを有しないと考えられた下等生物及び物質及び観念的存在。
「雀、水に入りて蛤〔(はまぐり)〕と爲る」ハマグリの殻の模様がスズメに似ていることが誤認の濫觴と思う。
「物理萬殊」この宇宙を支配している絶対真理による形態的生態的変容(メタモルフォーゼ)。
「其れ、知ることを致さざらんや」反語。この時珍の言いは、そうした宇宙の生成運行消滅(存在と虚無)を支配する絶対的根本原理の核心は人間には、到底、窺い知ることは出来ないという考え方は、すこぶる道家的である。
以下目録が続くが、原典では罫線入り三段組の縱順列(縦三段を読んで左へ移る順列)であるが、一段で示した。また、幾つかの漢字と訓は現行の呼び方一致しないが、それは各項で考証する。まあ、ご覧あれ。一つ残らず即座に現行の鳥類種に比定出来る方は、超達人クラスであると私は思う。ここでは目録のみの提示とし注は附さない。「鸂鶒(大おしどり)」のルビ内の「大」はママ。「おほおしどり」(大鴛鴦)である。]
卷第四十一
水禽類
鶴(つる)
鶬鷄(おほとり)
鸛(こふ) 【しりくろ】
鵚鶖(とつしう)
䴌䴀(もうどう)
鴈(かり) 【がん】
鴻(ひしくひ)
鵞(たうがん)
鴇(のがん)
天鵞(はくちやう)
鶩(あひろ)
鳬(かも)
鸍(こがも) 【たかべ】
味鳬(あぢかも)
鵜鶘(がらんちやう)
鸕鷀(う) 【しまつとり】
鷁(げき)
鴗(かはせび)
鸊鷉(かひつぶり) 【にほ】
鴛鴦(おしどり)
鸂𪄪(大おしどり)
鵁鶄(ごいさぎ)
旋目鳥(ほしごい)
䲱(おすめどり) 【みおぞごい】
鷺(さぎ)
白鶴子(だいさぎ)
蒼鷺(あをさぎ)
朱鷺(つき) 【とき】【唐がらす】
箆鷺(へらさぎ)
鸀鳿(がくさく)
鷗(かもめ)
善知鳥(うとう)
蚊母鳥(ぶんもてう)
鷭(ばん)
河鴉(かはがらす)
計里鳥(けり)
水雞(くひな)
鵠(くぐひ)
鶺鴒(せきれい)
鴴(ちどり)
割葦鳥(よしはらすゞめ)
都鳥(みやこどり)
鷸(しぎ)
嗽金鳥(さうきんちやう)