ジョナサン・スイフト原作 原民喜譯 「ガリヴァー旅行記」(やぶちゃん自筆原稿復元版) 飛ぶ島(ラピュタ)(5) 「四章 發明屋敷」(2)
この學士院は〔、〕全體が一つの建物になつてゐるのではなく、往來の兩側に並んだ建物がずつと並んでゐました。
私は〔が訪ねて行くと、〕院長には大變喜んでくれました。私は何日も何日も〔、〕學士院へ出かけて行きました。どの部屋にも〔、〕企劃士が〔一人以上二人〕ゐました。私が見た部屋は五百〔は凡そ五百ぐらい〕の部屋を見て步きました。
[やぶちゃん注:「企劃士が」はママ。現行版では『発明家が』となっている。]
最初に會つた男は〔、〕手も顏も煤だらけで、髮は蓬々と伸び、それに〔、〕ところどころ燒〔け〕焦げがありました。〔そして〕服もシヤツも〔、〕皮膚と同じ色でした〔なのです。〕
彼は〔なんでももう八年間〕〔、〕胡瓜から〔、〕日光を引き出す計畫を〔、〕やつてゐるのださうです。なんでも〔、も〕う八年間このことばかり考へてゐるのださうです。それは、つまり〔、〕この胡瓜からひきだした日光を壜づめにしておいて、夏のじめじめする日に、空気を暖めるために使はうといふのです。
「もうあと八年もすれば、〔これは〕きつとうまくできるでせう」と彼は私に云ひました。
「しかし〔今〕困るのは、胡瓜がの値段が今たいへん〔非常に〕高いことです。どうか〔一つこの〕發明をたすけるために〔いくらか〕寄附して頂けないでせうか。」
と彼は手を差出しました。私はいくらか彼に〔お金を〕やりました。學士院では見物人を見るとすぐ物をねだるくせがあると、私は太公からきいて〔知つて〕ゐましたので
次の部屋に入ると、悪臭がむんと鼻をつきました。〔びつくりして〕私は飛出したのですが、案内者がひきとめました。〔て、囁〕小声でかう云ひました。
「〔どうか〕向の〔先方の〕気を損ねるやうなことは〔を〕しないで下さい。ひどく腹を立てますから。」
それで〔、〕私は鼻をつまむことも〔わけに〕も行かないのです。この室の企劃士は〔、〕顏も鬚も黄色で〔に〕なり、手や着物は汚れた色がついてゐます。彼の研究といふのは、人間の排泄したものを、〔もう一度〕もとの食物になほすことでした。
[やぶちゃん注:「それで〔、〕私は鼻をつまむことも〔わけに〕も行かないのです。」現行版は『それで、私は鼻をつまむわけにもゆかず困ってしまいました。』となっている。]
それから〔、〕別の部屋に入ると、氷を燒いて火藥にすることを〔、〕工夫してゐる男がゐました。
それから〔、〕非常に器用な建築家もゐました。彼が思ひついた新しい考へによると、〔家を建てるには〕『一番はじめに屋根をつくり、そしてだんだん下の方を作つて行くのがいいといふのです。その証し〔こ〕には、蜂や蟻〔など〕こんな〔れと〕同じやり方でやつてゐる〔ではないか〕と〔、〕彼は云ひます。
[やぶちゃん注:二重鍵括弧の閉じるがないのはママ。現行版は二重鍵括弧はない。]
〔ある部屋には、〕生れながらの盲人が、盲人を〔の〕弟子に〔を〕使つてゐました。彼等の仕事は〔畫家のために〕繪具を混ぜることでした。この先生は、指と鼻で色が見わけられるといふのです。しかし私が訪ねた時は、先生は殆ど間違つてばかりゐました。
また別の部屋には、鋤や家畜のかはりに、豚を使つて土地を耕す〔ことを〕發見したといふ企劃士〔男〕がゐました。
それはかうするのです、まづ一エーカーの土地に六吋おきに八吋の深さに、どんぐり、なつめ、やし、栗その他、豚の好きさうなものを澤山うめておきます。それから、六百頭あまりの豚を〔、〕そこへ追ひこむのです。すると二三日もすれば、豚どもは食物を探して〔、〕隅から隅まで掘りかへすし、それに〔、〕豚の糞が肥料になるので、あとは〔もう〕種を蒔まけばいいばかりになります〔です。〕もつとも、これも實際に〔は→をやるには〕やるには〔お金と人〕手がかかるばかりで、作物は殆どとれなかつたといふことです。
[やぶちゃん注:「一エーカー」四千六十四平方メートル。
「六吋」六インチは約十五センチメートル。
「八吋」約二十センチメートル。]
〔さて、〕その次の部屋に行つてみる〔く〕と、壁から天井から〔、〕蜘蛛の巣だらけでした〔、〕〔やつと〕人一人が出入りできるだけの狹い路がついてゐました。私が入つて行くと、
「くもの巣を破つては駄目だ。」
と、いきなり大声で怒鳴られました。それから相手は私に〔こんなことを〕話してくれました。
「そもそも蜘蛛〔といふ→といふもの〕蠶などよりずつと立派な昆蟲なのです。〔だよ■→なのだ。〕蜘蛛は糸の〔を〕紡ぎ方〔ぐだけでなく〕織り方までちやんと心得てゐる。だから、蠶のかはりに蜘蛛を使えば、絹を染める手數が省けることになる」
さういつて彼は、非常に美しい蠅を澤山取出して見せてくれました。つまり、蜘蛛にこの〔美しい〕蠅を食べさせると、くもの糸にその色がつくのださうです。それに彼はいろんな色の蠅を飼つてゐましたが、もしこの蠅の餌に〔として〕、何か糸を強くさすものを〔が■→ないかしら→見つからないか〕と〔を〕硏究してゐるのでした。
それから私は、もう一人、有名な人を見ました。〔この人は、もう三十年間といふものは、人類の生活活を改良さすことばかり考へつづけてゐるのです。〕彼の部屋は奇妙な品物で一ぱいにでしたが、五十人の男たちが、彼の指図で働いてゐます〔ました。〕
ある者は〔、〕空氣を乾して塊りにすることを硏究してゐました。また、ある者は、石をゴムのやうに柔〔軟〕かにして枕に〔を〕こしらへようとしてゐました。生きた馬の蹄のところを石に■〔す〕ることを考へてゐる者もいました。
それから、〔これは〕私にはどうもよく分らないのですが、〔この有名な人は〔學者は〕畑に籾殻を蒔まくことと、羊に毛の生えない藥を塗ることを〔目下〕、しき〔■→しきりに〕研究してゐるのでした〔るのださうです〕。
[やぶちゃん注:次に一行空けの記号があるが、現行版には行空きはない。]