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2017/11/16

江戸川乱歩 孤島の鬼(47) 刑事来る

 

   刑事来る

 

 私たちは無事に井戸を出ることができた。久し振りの日光に、眠がくらみそうになるのを、こらえこらえ、手を取り合って諸戸屋敷の表門の方へ走って行くと、向こうから見馴れぬ洋服紳士がやってくるのにぶつかった。

「オイ、君たちはなんだね」

 その男は私たちを見ると、横柄(おうへい)な調子で呼び止めた。

「君は一体誰です。この島の人じゃないようだが」

 道雄が反対に聞き返した。

「僕は警察のものだ。この家を取り調べにやってきたのだ。君たちはこの家と関係があるのかね」

 洋服紳士は思いがけぬ刑事であった。ちょうど幸いである。私たちは銘々名を名乗った。

「噓を言いたまえ。諸戸、蓑浦の両人がここへ来ていることは知っている。だが、君たちのような老人ではないはずだよ」

 刑事は妙なことをいった。私たちをとらえて「君たちのような老人」とは一体何を勘違いしているのだろう。

 私と道雄とは不審に堪えず、思わずお互いの顔を眺め合った。そして、私たちはアッと驚いてしまった。

 私の眼の前に立っているのは、もはや数日以前までの諸戸道雄ではなかった。乞食みたいなボロボロの服、垢(あか)ついた鉛色の皮膚、おどろに乱れた頭髪、眼は窪み、頰骨のつき出た骸骨のような顔、なるほど刑事が老人と見違えたのも無理ではない。

「君の頭はまっ白だよ」

 道雄はそういって妙な笑い方をした。それが私には泣いているように見えた。

 私の変り方は道雄よりひどかった。肉体の憔悴(しょうすい)は彼と大差なかったが、私の頭髪は、あの穴の中の数日間に、全く色素を失って、八十歳の老人のようにまっ白に変っていた。

 私は極度の精神上の苦痛が、人間の頭髪を一夜にして白くしたという不思議な現象を知らぬではなかった。その実例も二、三度読んだことがある。だが、そんな稀有の現象がかくいう私の身に起ころうとは、全く想像のほかであった。

 だが、この数日間、私は幾度死の、或いは死以上の、恐怖に脅かされたことであろう。よく気が違わなかったと思う。気が違う代りに頭髪が白くなったのだ。まだしも、仕合わせといわねばならない。

 同じ人外境を経験しながら、諸戸の頭髪に異常の見えぬのは、さすがに私よりも強い心の持ち主であったからであろう。

 私たちは刑事に向かって、この島にくるまでの、また来てからの、一切の出来事を、かいつまんで話した。

「なぜ警察の助けを借りなかったのです。君たちの苦しみは自業自得というものですよ」

 私たちの話を聞いた刑事が、最初に発した言葉はこれであった。だが、むろん微笑しながら。

「悪人の丈五郎が、僕の父だと思い込んでいたものですから」

 道雄が弁解した。

 刑事は一人ではなかった。数人の同僚を従えていた。彼はその中の二人に命じて、地底にはいり、丈五郎と徳さんとを連れてくるように命じた。

「しるべの縄はそのままにしておいてください。金貨を取り出さなければなりませんから」

 道雄がその二人に注意を与えた。

 池袋署の北川という刑事が、例の少年軽業師友之助の属していた尾崎曲馬団を探るために、静岡県まで出かけ、苦心に苦心を重ね、道化役の一寸法師に取り入って、その秘密を聞き出したことは、先に読者に告げておいた。その北川刑事の苦心が功を奏し、私たちとは全く別の方面から、ついにこの岩屋島の巣窟をつき止め、かくは諸戸屋敷調査の一団が乗りこむことになったのであった。

 刑事たちがきて見ると、諸戸屋敷で、男女両頭の怪物が烈しい争闘を演じていた。いうまでもなく、それは秀ちゃんと吉ちゃんの双生児だ。

 ともかく、その怪物を取り鎮めて、様子を聞くと、秀ちゃんのほうが雄弁にことの仔細を語った。

 私たちが井戸にはいったあとで、私と秀ちゃんのあいだを嫉妬した吉ちゃんが、私たちを困らせるために、丈五郎に内通して、土蔵の扉をひらいたのだ。むろん秀ちゃんは極力それを妨害したが、男の吉ちゃんのばか力にはかなわなかった。

 自由の身になった丈五郎夫妻は、鞭をふるって、たちまち片輪者の一群を、反対に土蔵に押しこめてしまった。吉ちゃんが功労者なので、双生児だけは、その難を免(まぬが)れた。

 それから、丈五郎は吉ちゃんの告げ口で私たちの行方を察し、不自由なからだで自から井戸にくだり、私たちの麻縄を切断しておいて、別の縄によって迷路に踏み込んだのであろう。丈五郎の佝僂女房と啞のおとしさんがその手助けをしたにちがいない。

 それ以来、秀ちゃんと吉ちゃんは、かたき同士であった。吉ちゃんは秀ちゃんを自由にしようとする。秀ちゃんは吉ちゃんの裏切りをののしる。口論が嵩じて、からだとからだの争闘がはじまる。そこへ刑事の一行が来合わせたわけである。

 秀ちゃんの説明によって、事情を知った刑事たちは、ただちに丈五郎の女房とおとしさんに縄をかけ、土蔵の片輪者たちを解放し、丈五郎を捕えるために地底にくだろうと、その用意をはじめているところへ、ちょうど私たちが現われたのだ。

 刑事の物語によって以上の仔細がわかった。

 

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