犬 村上昭夫
犬 村上昭夫
犬よ
それがお前の遠吠えではないのか
また荒野の呼び声と伝えられる
月に向って吠えるのだと言われる
それがお前の不安な遠吠えではないのか
お前の遠吠えする声の方向に
死なせるものや愛させるもの
別れさせるものが
目も眩むばかりにおいてあって
お前はそれを誰も知らない間に
密かに地上に呼んでいるのではないか
だがお前はひるになると
まるでそ知らぬ顔をして
尾をふったり飛びついたり
愛くるしい目を向けたりする
真実忠実な犬でしかないように
噓の姿を見せるのだ
死なせるものや愛させるもの
別れさせるものが
目も眩むばかりにおいてあって
お前はそれを誰も知らない間に
密かに地上に呼んでいるのではないか
だがお前はひるになると
まるでそ知らぬ顔をして
尾をふったり飛びついたり
愛くるしい目を向けたりする
真実忠実な犬でしかないように
噓の姿を見せるのだ
*
先月二十六日に旅立ったアリスに――この詩を捧げる――
「これはね、お前のためにずっと昔に、ある詩人が詠んでくれた詩だったんだね…………」