老媼茶話巻之六 血氣の勇
血氣の勇
もろこしに血氣の勇者、有(あり)。或夜の夢に、人、有て、彼(かの)ものゝつらへ、つばきをはきかけ、散々に訇(ののし)り、惡口す。
夢さめて、口をしさ、限りなし。
「夢に似たる人あらば、其者を打(うち)ころし、夢の恥辱をすゝがむ。」
と目をいからし、こぶしを握り、市中を、曉より日暮るゝ迄、尋(たづね)ありきけれども、夢に似たる人、なかりければ、是非なく、宿へ歸りけるが、いかりの氣、猶、やまず、怒悶(フンモン)のあまり、終(つゐ)に、みづから、首を刎(はね)、しゝたりけんとなん。
[やぶちゃん注:何だか、伝奇か志怪小説で確かに読んだ記憶はあるのだが、原典不詳。識者の御教授を乞う。
「怒悶(フンモン)」漢字も読みも原典のママ。]