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2017/12/25

原民喜作品集「焰」(正規表現版) 夜

 

      

 樟(くすのき)の大きな影が地面を覆つて、薄暗い街燈が霧で曇つてゐた。雨に濡れた落葉がその邊には多いい。月が雲の奔流に乘つて、時々奇妙な光線を投げかける。そこは坂を登つて、橫に折れた路で、人はあんまり通らなかつた。
 しかし、今誰かやつて來るらしい靴の音がきこえる。すると今度は反對の方角からまた靴の音がする。と、二つの音は互に一寸立留る。一方が立留つたのと同時に一方も立留つた。それから一方が進み出すと、むかふからも進んで來る。生憎、月が隱されてしまつたので、相手の姿が何かけしからん塊りのやうに想へる。しかし兩方から今度は決然と進んで來る。靴の音がはつきりと近づいてしまふ。その時、チラリと月の光が地面に落ちた。
 「キヤツ!」
 「キヤツ!」
 二人は同時に電流に打たれたやうに飛上ると、互に反對の方向へ逃げ出してしまふ。相手の逃げて行く跫音がこちらを追跡するやうに響いて、とにかく大通りまでは一呼吸に逃げる。
 大通りへ出てしまふと、一人の紳士は早速流しの自動車を呼び留める。それからもう一人の紳士はぶるぶる顫へながら支那そばの屋臺店へ首を突込む。

 

[やぶちゃん注:原本では、第二文の「多いい」はママ。青土社版全集も「青空文庫」版も「多い」であるが、私は誤記・誤植でない可能性を考える。私自身も、会話中で、時々、強調形として「多(おお)いい」と無意識に使うことがあることと、西日本の方言(例えば鳥取弁)に「多いい」が現存するからである。

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