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2017/12/04

ジョナサン・スイフト原作 原民喜譯 「ガリヴァー旅行記」(やぶちゃん自筆原稿復元版) フウイヌム 馬の主人 (その3) / 馬の主人~了 

 

 三哩ほど行くと、長い厩のやうな→一つの〕建物がありました。それは材木を地に打込んで、橫に木の枝を渡したもので、屋根は低く、藁葺でした。

[やぶちゃん注:「三哩」四キロ八百二十八メートル。]

 馬は私に先に入れと合図しました〔す〕。

 なかに入つてみると、下の床は滑らかな粘土のたたきになつて〔ででき〕ていて、壁〔に〕は大きな秣草棚や秣草槽がいくつも並んでゐます。そこには仔馬が三匹と、牝馬が二匹ゐましたが、〔ゐます。〕別に物を食べてゐるのでもなく、ちやんと、腿を折りおしりを床の上につけて、坐つてゐるのす。〔です。〕私はびつくりしました。

 もつと驚いたのは、他の馬たちが、みんなせつせと家の仕事をしてゐることでした。見たところ普通の家畜とちがはないのに、なにしろ、馬をこんな風に教え、しこむことのできる人間なら、餘程偉い人間〔主人〕にちがいないありません。→ないと、〕と、思つて、私はこの家の主人に感心してゐました。

[やぶちゃん注:現行版では「見たところ普通の家畜とちがはないのに、」はカットされている。]

 その時、私の後から入つて來た靑毛の馬が何か命ずるやうに五六土いななきました。すると他の馬はみんな何かそれに答へてゐました。

[やぶちゃん注:以上の一段落は全体に、×と抹消の斜め線二本が上に引かれてあり、現行版では存在しない。]

 この部屋の向には、まだ三つ部屋がありました。二つ目〔私たちは二つ目〕の部屋〔を通つて、〕三つ目の部屋へ近づいて行きましたが、〔。〕靑毛〔は〕、そこで〔私に〕待つてをるやうに〔れ〕〔と〕合圖して〔ました。〕私は戸口で待ちながら、この家の主人〔と〕奧さんに贈るつもりで、小刀を二つ、眞珠の腕環を三つ、小さな鏡、それから〔眞〕珠の首飾などを用意しておきました。

 靑毛は、その部屋に入つて、三四度いなないて 〔き〕ました。すると、彼の声よりもつと甲高い声で、誰かがいなないて〔き〕ました。人間の声はまだ聞えません。しかし、私は向の部屋に、どんな貴い人が住んでゐるのだらうか、と考へはじめました。てゐました→ました。〕面会を許してもらふのに、こんな手數がかかるのでは、この國でも、よほど位のいい人がゐる〔な〕のでせう。だが、それにしては、そんな貴い人が、馬だけを〔家來に〕使つてゐるのは、少し変におもはれます。〔です。〕

[やぶちゃん注:「誰かがいなないて〔き〕ました」の箇所は実際には「誰かがいなないて〔き〕ました」である。恐らくは「誰かがいなないて」を「いななき」に訂する際に「て」の字に筆を加えて「き」にしたのまでは良かったが、うっかりその前の箇所を消すのを忘れたものと断じ、民喜に好意的にかく示した。]

 これは私の頭の方がどうかしたのではないかしらといふ氣がして來ました。〔おもひました。〕私は〔今〔、〕立つてゐる〕部屋のなかを〔よく〕よく見廻してみました。〔入口部屋 の模樣は最初の部屋とあまり違つてゐませんでした。〕〕何度、眼をこすつてみても、そこは前と変らないのです。夢ではないかしらと思へるので、眼が覺めるやうに、〔脇〕腹を抓つてみました。が、夢でもなささう〔いの〕です。それでは、これはみんな魔法使の仕業にちがいない、と私はきめました。

 丁度その時、靑毛が戸口から顏を出して、私にはいれと合図しました。私はなかに入つて〔みて、私は〕驚きました。上品な牝馬が一匹、それに仔馬が一匹、小ざつぱりした筵の上にきちんと坐つてゐるのです。

 牝馬は筵から立ち上ると、私の傍へ來て、私の手や顏をジロジロ眺めまはしてゐました。それから、いかにも私を馬鹿に侮蔑馬鹿→輕蔑〕するやうな顏つきで、靑毛の

 「ヤーフ」とつぶやきました。そして〔、〕靑毛の方を顧みると→ては〕、お互に何回となく、このヤーフといふ言葉を繰り返しました〔てゐるのです〕。私は一番はじめに覺えたこの言葉の〔何の意味だかまだこの時はさつぱ〕りわからなかつたのですが、その後間もなく、ヤーフといふ意味がわかつてみると、これは實に厭な厭なものでした。

[やぶちゃん注:この段落の最後の一文は現行版では完全にカットされている。]

 靑毛は私の方へ首をむけて、フウン、フウンと頻りにくりかへしました。これは、ついてこい、といふ合図なのでした。そこで私は彼について、中庭のところへ出ました。家から少しはなれたところに、また一棟、建物がありました。そこへ入つてみて、私はびつくり〔あツと思ひま〕した。

 私が上陸してすぐ出くはした、あの厭つたらしい動物が、〔ゐたのです。〕その三匹の動物は〔が〕、今、木の根つこや、何か動物の生肉をしきりに食つてゐました。彼等〔三匹〕は頸のところを丈夫な紐でくくられ、〔柱〕につながれたまま、食べものを左右の前足の爪で摑んでは、齒でひきさいてゐるのです。

 主人の馬は、召使の馬に命じて、三匹〔こ〕の〔動物の〕なかから一番大きい奴を、とり〔ひつぱ〕はずして、庭のなかへ連れて來させました。私とこの動物〔と〕は、一ところに並んで立たされました。〔そして→れから〕主人と召使の二人は〔、〕私たち〔の〕顏を〔じつとよく〕見比べてゐましたが、その時もまたしきりに「ヤーフ」といふ言葉がくりかへされたのです。

 私はそばにゐる厭らしい動物が、そつくり人間の恰好をしてゐるのに氣がついて、ハツと〔どきつ→びつくり〕しました。この動物〔は〕顏が〔人間より少し〕平たく、鼻は落込んでゐて、唇が厚く、口は廣く割れてゐます。だが、これくらいの違ひなら、野蠻人にだつてあるはずです。ヤーフの前足〔は〕私の前足の違ふところは〔より〕、爪〔が〕長さとと〔くて〕、掌が粗くゴツゴツしてゐて、色がちがつてゐました。〔とにかく〕この動物は人間より毛深くて〔皮膚の〕色が少し変つてゐるだけで、あとは身躰中すつかり人間とちがはないのです。

 だが、二匹の馬には、私が洋服を着てゐるので、ヤーフとは違つてゐるやうにおもへたのです。〔この〕洋服といふものを、馬は〔まるで〕知つてゐないのでした。で、どうも〔ので、〕〔彼等は〕非常に 合點〔合點〕がゆかないのやうでした。

 そこで〔ふと〕栗毛の子馬が、木の根つこを一本、私の方へ差出してくれました。私は手にとつて、一寸臭を嗅いでみましたが、すぐ叮嚀に返してやりました。

 すると、彼は今度はヤーフの小屋から、驢馬の肉を一片持つて來てくれました。これは臭くてたまらないので、私は顏をそむけてしまひました。しかし彼がそれをヤーフに投げてやると、ヤーフはおいしそうに食べてしまひました。

 その次には乾草を一束とからす麥を私に見せてくれました。しかし、私はどちらも〔自分の〕食物ではないことを示すために〔と〕、首を振つてみせました。私はもしこれで同じ人間に出會はなかつたら、いづれ餓死するのではないかと、そのことが心配になりだしました。

[やぶちゃん注:最後の削除されている一文は、現行版では、ほぼ同じような、

   *

私はもしこれで同じ人間に出会わなかったら、いずれ餓死するのではないかと心配になりました。

   *

で、復活している。]

 すると〔この時、〕主人の馬は蹄を口許へ持つて行つて、私に、どんなものが食べたいかといふやうな身振りをしました。だが、なにしろ私は相手にわかるやうな〔に〕返事ができません〔でした〕。

 ところが丁度いいことに、〔いま〕表を一匹の牝牛が通りかかりました。そこで、私はそれを指ざしながら、一つ牛乳をしぼらせてくれといふ身振りをしました。これが相手にわかつてもらへたのです。彼は私を家の中へつれて帰ると、澤山の牛乳が陶器や木の器に入れて、きちんと綺麗に並べてある部屋へつれて行きました。そして大きな茶碗に牛乳を一杯注いでくれました。私はグツと一息に飮み干すと、はじめて生返つたやうな氣持がしました。

 正午頃、一臺の車が〔、〕四人のヤーフに曳かれて家の前に着きました。車の上には身分のいいらしい老馬が乘つてゐました。彼は左〔の〕前足を怪我してゐたので、後足から先に降りました。

 老馬〔彼〕は非常にていねいに迎へられて、一番いい部屋で〔みんなは〕食事することになりました。部屋の眞中に秣桶を円く並べ、みんなはそのまはりに、藁蒲團を敷き、尻餅をついたやうにその上に坐るのでした。そして〔、〕馬〔ど〕もは、それぞれ、自分の乾草や燕麥と牛乳の煮込みなどを、行儀よくキチンと食べるのでした。

 仔馬でも非常に行儀がいいのです。〔とくに〕お客をもてなす主人夫妻のやりかたは、〔とても〕快活で、ていねいで、氣持のいいものでした。〔そのうち→ふと〕靑毛が私〔を〕ところへやつて來て、〔招いて、〕〔こちらへ來て〕立てと命じました。客たちは〔、〕しきりに私の方を見ては、ヤーフといふ言葉を云つてゐます。〔これは〕私のことを今いろいろ話しあつてゐるのでせう。

 丁度、その時、私が牛袋を〔は〕めてゐました。それを主人が見つけて、不思議でたまらないらしく、蹄で三四度、牛袋に觸りました。そ〔こ〕で私は牛袋をとつて、ポケツトにおさめました。〔私が〕こんなことをするのが、みんなをすつかり喜ばしたのです。

[やぶちゃん注:以上の段落は全体が現行版には存在しない。]

 彼等は私に知つてゐる言葉を云つてみよといひます。そして、主人は食卓の上にある、〔まはりにある、〕燕麥、牛乳、火、水などの名前を教へてくれました〔す〕。私はすぐ彼の後について云へるやうになりました。

 食事がすむと、主人の馬は私を脇へ呼びました。そして言葉やら身振りで、私の食いものがないのが、とても心配だといひます。燕麥は、この國私は燕麥のことをフルウンと呼ぶのをいふのだと教へられ燕麥〔のことは〕フルウンと呼ばれてゐます〔るのでした〕。そこで、私は二三度 「フ

 「フルウン、フルウン」

と呼んでみました。〔これは燕麥のことです。〕はじめ私は燕麥など、とても食べられさうになかつたのですが、これでなんとかパンのやうなものをこさへようと考へついたのです。

[やぶちゃん注:現行版はダブりが整序されて、

   *

 食事がすむと、主人の馬は私を脇へ呼びました。そして言葉やら身振りで、私の食物がないのが、とても心配だと言います。私はそこで、

「フルウン、フルウン」

 と呼んでみました。『フルウン』というのは、『からす麦』のことです。はじめ私はからす麦など、とても食べられそうになかったのですが、これでなんとか、パンのようなものをこさえようと考えついたのです。

   *

となっている(太字は傍点「ヽ」)。]

 すると主人は、召使に云ひつけて、木の盆に燕麥をどつさりのせて持つて來させました。私はこれを〔はじめ、〕火でよく暖めて、もんで殼を〔と〕りました。〔、〕それから〔それを〕石で擂りつぶし、水を混ぜて、お菓子のやうに〔して〕火でやいて、牛乳と一緒に食べました。

 これははじめは、とても、まづくて食べにくかつたのですが、そのうちに、どうにか我慢できるやうになりました。〔そして私はこの國にゐた間ぢう、身躰の工合が悪かつたことなど一度もなかつたのです。〔私は〕たまには、兎や鳥を捕へて〔つて〕食べたり、藥草を集めてサラダにして食べたこともあります〔ました〕。一番〔私がこの國へ來た〕はじめ頃は〔頃は〕、塩がないので〔私は〕大変困りました。が、それも慣れてしまふと、〔間もなく氣にならなくつてしまひました。〔あまり不自由ではなかつたのです。〕

 夕方近くなると、主人の馬は、私の寢る場所をきめてくれました。それは家から六ヤードばかり離れてゐましたが、ヤーフどもの小屋とは別になつてゐました。私は藁を少し貰ひ、洋服を上にかけて、ぐつすり眠りました。

[やぶちゃん注:この最後の段落も現行版ではカットされている。]

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