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2017/12/27

原民喜作品集「焰」(恣意的正字化版) おふくろ

 

 おふくろ

 

わたしはからくりめがねの夢になつてしまふたのです

紺の筒袖と色黑ばばさんと

暗いカンテラと

お寺の甃石と

緋の着物に紅繻子の帶を締めた子娘と

さうして五厘の笛と

唐獅子と

わたしはお母さんに抱かれて居たいのです

風船玉が逃げぬやうにぢつと握つてゐたいのです

                 (錢村五郎)

 

 前吉は家へ歸つて來ると、老眼鏡を懸けて新聞を讀んでゐる、おふくろの肩を小突いた。と、力が餘つて、おふくろは橫に倒れさうになつた。

「何を無茶するか。」おふくろは一寸怒つて前吉の腕を抓つた。と、彼は暫く痛いのを我慢してゐたが、急に腕をはづして逆におふくろの腕を抓つた。

「これ、痛いよ、お母さんを何と思ふのだ。」と、おふくろは前吉の脛をビシャビシャ叩いて悲鳴をあげる。

「俺だつていてえや。」と前吉はおふくろの頰ぺたに平手打ちを加へる。

 到頭、おふくろは眼鏡をはづして興奮し出した。

「お母さんにむかつて何をするのさ、私は心臟が弱いからあんまり怒らすと死ぬるよ。」

 おふくろは形相を變へて眼には淚を滲ませる。

「ババア」

「婆がどうしましたか、こののら息子め、身體ばつかし大きななりして、まるで餓鬼ぢやないか。」

「ええ、クソババア。」

「おのれ、まだよさぬか。」

 それから暫くは小競合ひが續いてゐたが、不意と前吉は默つて行つてしまふ。

 

 表に出て近所で煙草を買ふと、四五町さきの喫茶店へ入つて、彼は無表情な顏で煙草に火をつける。おふくろはほんとに慍(おこ)つたのかしら……と彼は少しづつ氣になる。しかし家へ歸ればまた喧嘩しさうなのですぐには歸れない。前吉はソーダ水をストローで攪(かきま)ぜて、ぢつと考へ込む。

 

[やぶちゃん注:「甃石」「しきいし」(敷石)。

「紅繻子の帶」「べにしゆす(べにしゅす)」。紅色の繻子織り(しゅすおり:経(たて)糸と緯(よこ)糸の交わる点を少なくして布面に経糸或いは緯糸のみが現われるように織ったもの。布面に縦又は横の浮きが密に並んで光沢が生すると同時に肌触りもよい高級織布)の帯。

「錢村五郎」広島時代からの原民喜の友人。慶応大学文学部予科予科に入学(四月)した大正一三(一九二四)年の初頭に広島で謄写版刷同人誌『少年詩人』に参加するが、その同人の中には盟友となる長光太とともに彼の名も見え、特にこの銭村とは親しく交わった、と青土社版全集年譜にある。大正一五(一九二六)年一月発行の同人誌『春鶯囀』(資料には読みが振られていないので「しゆんあうてん(しゅんおうてん)」と読んでおく)や、同年暮れに創った手書き原稿回覧雑誌『四五人會雜誌』のメンバーにも名を連ねているが、生没年やそれ以外の事蹟を知り得ない。ネット検索を掛けると、私の過去記事が出る始末で、識者の御教授を乞う。

「ビシャビシャ」ママ。オノマトペイアなのでママとした。]

 

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