ジョナサン・スイフト原作 原民喜譯 「ガリヴァー旅行記」(やぶちゃん自筆原稿復元版) フウイヌム たのしい家 (1)
たのしい家
[やぶちゃん注:現行版では柱は『三、楽しい家庭』である。]
ある朝、早く迎への使が、私のところへやつて來ました。行つてみると、主人が、
「まあ、そこに坐れ」
といひます。
「〔これまで〕お前からきいた〔話は、〕お前その後まじめに考へてみたが、どうも、お前たちは、どういふ風の吹廻しか、たまたま爪の垢ほどの理性を持つてゐる一種の動物らしい。ところが、お前たちは折角、自然があたへてくれた立派な力は、捨てて見むきもしようとしないで、もとからもつてゐる欠点ばかりを増やそうとしてゐる。わざわざ骨を折つては、欠点を殖やす工夫や發明をしてゐるみたいなものだ。
また、お前だけを〔例にとつて〕考へてみると〔ても、〕お前は、お前はヤーフ共の力も〔なければ〕敏捷さも〔が〕ない。後足で妙な步き片をしてゐるし、どうしたことか爪は何の役にも立たないやうになつてゐるし、顎の髯も消えてしまつてゐる。それのお前はこの國のヤーフ共〔ど〕ものやうに、早く走ることもできなければ、木に登ることもできないではないか。」
[やぶちゃん注:以上の段落(馬の主人の台詞中の最後の形式段落は現行版では完全にカットされており、次の一行もカットされて、改行で台詞が続いている。]
それから主人はまた、こんなことを言ひました。
「お前は、お前の國のヤーフ〔ども〕の生活〔暮し〕や、行ひ〔生活をいろい〕ろ話してくれたが、お前たちと、この國のヤーフとは身躰ばか〔の恰〕好だけでなく、〔ばかりででなく、〕心もよく似てゐると思へる。ヤーフどもがお互に憎みあふのは、みんな
よく知られてゐることだが、〔ほかの動物には見られないほど猛烈なもので、それは〕〔誰でも知つてゐることなのだが、〕、この國のヤーフと〔ど〕もの爭も、お前が言つたお前たちの〔その〕爭いも、つまりは同じ〔やうに似たもの〕原因のものらしい。〔〔どちらも〕どうもよく似てゐるのだ。〕
もし、ここにヤーフが五匹ゐるとして、そこへ五十人分ぐらゐの肉を投げてやるとする。すると、彼等はおとなしく食べるどころか、一人で全部をとらうとして、たちまち、ひどい摑み合ひがはじまる。だから、彼等が外で物を食べる時には、召使を一人そばに立たせておくことにするし、家にゐる時はお互ひ遠くへ離してつないでおく。
また、牛が死んだりした場合、それをフウイヌムが家のヤーフのために買つてもどると、間もなく近所のヤーフどもがおしかけて來〔群をなして〕盜みに來る。そして、お前が言つたと同じやうな戰爭がはじまる。爪でひつかきあつて大怪我をする。ただ幸なことに、お前たちの發明したやうな人殺し器械はないので、滅多に死ぬやうなことはない。また、ある時は、何の理由もないのに、近所同士のヤーフ共が〔、〕同じやうな戰爭をはじめる。つまり近所同志で、折もあらば不意を襲つてやらうと、隙をねらつてゐるのだ。」
それから、主人は更らに、次のやうな〔珍しい〕話をしてくれました。
この國の、ある地方の野原には、さまざまの色に光る石があつて、これがヤーフどもの大好物なのです。もし、この石が〔、〕地面から半分ほど〔、〕のぞいてゐたりすると、ヤーフどもは何日でも、朝から晩まで爪で掘返してゐます。そして家に持つて帰ると、〔それを〕小屋の中に〔そつと〕隱しておきますが、まだそれでも、もしか仲間に嗅ぎ出されはしないかと、ギヨロギヨロと眼を見はつてゐます。
主人は、どうしてまたこんな石が〔を〕ヤーフどもの〔に→が〕役立つのか〔大切にがるのか〕、さつぱりわからなかつたのですが、私が〔話した〕人類の〔金錢のこと〕欲ばりなこと〔人類→人類の欲ばりなことと全くよく似てゐる〕を話したので、それで、あれと同じことなの■だらうと思ひました〔つたさうです〕。
[やぶちゃん注:これだけ苦吟しているのに、現行版では、『主人は、どうしてまたこんな石をヤーフどもが大切がるのか、さっぱりわからなかったのですが、』だけで、後は全部カットされて、ここでは改行されている次の頭の部分に『一度試しに』で続いている。]
一度など 召使のヤーフが〔主人は〔一度試しに〕ヤーフが〕埋めてゐる場所から、そつとこの石を取つて〔りのけ〕ておきました。すると、このさもしい動物は、宝がなくなつてゐるのに気づいて、大声で泣きわめき、仲間をすつかりそこへ呼び集めました。そしてさも哀れげに悲しんでゐるかとおもふと、忽ち誰彼の区別もなく嚙みついたり、引掻きま〔い〕たり大騷ぎをしました〔す〕。それからだんだん元気がなくなつて、物も食べなければ、眠りもしません。そこで、主人はその石をまたもとのところへ返してやりました。する〔石が〕それを見るとヤーフはすぐ機嫌もよくなり、元気になつたといふことです。
この光る石が澤山出る土地にかぎつて、ヤーフどもは、たえず、そこを〔■■■→の土地〕を爭ひあつて〔お互に〕、戰爭をします。〔また〕二匹のヤーフが野原でこの石を見つけると、兩方で〔互に〕睨みあつて爭ひます。そこへもう一匹のヤーフが現れて、橫どりすることもあるさうです。
それから、ヤーフといふ奴は時々、気が変になるらしく、ただ隅つこに引込んでしまひ、ねころがつて、吠えたり、唸つたり、誰かそばへ寄ると、忽ち蹴とばしてしまひます。まだ年も若いし、肉付もいいのです。〔し、〕別に食べものがほしいわけでもないのです。いつたいどこが悪いのか、さつぱりわかりません。ところが、こんな場合、ヤーフを〔つかまへて〕無理にどんどん働かせると、この病気はケロリとなほるさうです。

