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2017/12/27

原民喜作品集「焰」(恣意的正字化版) 殘雪

 

 殘雪

 

 靑空に風呂屋の煙突がはつきり聳えてゐた。その左の方に外苑の時計臺と枯木の梢が茫と冬日に煙つてゐた。もつと近いところには屋根の入り亂れた傾斜が、一方に雪を殘して續いてゐた。雪があるので、そこの二階の緣側からは景色が立體的に見えた。立體的と云へば、この景色を眺めて爭つてゐる二人の男の對比もまたさうであつた。

 一人はこの春さきの景色が煽情的だと云つて頻りに嬉しさうに眺め𢌞した。一人は彼がそんなに景色にまで愛戀を感じるのがをかしいと云つてそれを笑ひこけた。そして二人はとりとめもなく、こんにやく問答をしながら、ネクタイを結んで出勤の用意をした。

 それから二人は電車に乘つても依然として爭つてゐた。一體、何がそんなに問題の中心になつてゐるかと云へば、ことの起りは、一人が女を大へんいいと云ひ、一人が女を大へんつまらないと云ひ出したことからであつたが、――かう云ふことを問題にさすに應はしい二月の午後でもあつた。

 一人は、海邊で桃の花と牛を眺めながら如何に中學時代恍惚としたか、無人島の松林の蟬の聲に如何に魂を奪はれたかと云ふやうな話まで揷入した。そして二人は東京驛で下車すると、八重洲口の方へ地下道を步いた。その時、

「何とか彼とか云ひながら、男が金を稼ぐのは、つまり女房のために生活をより修飾するためなのだね。」と一人が云つた。

「さうではない、それは大へん面白くないことだ。」と相手が大反對を唱へた。そこで二人のあげつらひは急激に縺れて行つた。階段を降りて驛を出ると、もうお互に時間がなかつた。で、一人が云つた。

「つづまるところ君は肯定狂だよ、何でも彼でも、いい、いい、いい、いい、いい、いい、と云ふぢやないか。」

「何だい、それなら君こそ否定狂さ、一から拾まで、否(いや)、否、否、否、否だ。」

「ハハハハハ」

 そして二人は別れた。肯定狂は美人グラフへ、否定狂はダンスホールへ、それぞれ職場を持つてゐた。

 

[やぶちゃん注:「美人グラフ」美形女性の写真を主とした雑誌・画報の出版社か。]

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