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2017/12/27

原民喜作品集「焰」(恣意的正字化版) 酸漿

 

 酸漿

 

 結婚式の二時間前、彼女は疊に落ちてゐた酸漿を拾つて鳴らして捨てた。

 朝、夫が役所へ出て行くと、彼女はもう一度寢床に潛り込んで、晝過ぎに起きた。それから煎餠を嚙りながら新聞を讀んだ。それから夕方まで鏡臺に對つてぽかんと暮した。

 

 夫が出張で三日も歸らないと、彼女はふらりと街へ出掛ける。夜遲くそこの窓のカーテンには男の影が大きく映つたりした。

 

 彼女の生んだ赤ん坊が這ひ出す頃、その子は、ほほづきを拾つて食べて、呼吸がつまつて死んだ。子を失つた彼女は奇妙に若返つた。若くなるためには、人知れぬ工夫がされた。しかし何よりもいけないのは、他人が彼女の齡を註文よりも老けてみることだつた。さうした場合、彼女は癇癪が起きて、咽喉が塞がりさうになつた。

 

[やぶちゃん注:「酸漿」「ほおづき(ほおずき)」。ナス目ナス科ホオズキ属ホオズキ変種ホオズキ Physalis alkekengi var. franchetii の果皮。]

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