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2017/12/27

原民喜作品集「焰」(恣意的正字化版) 鳩

 

 

 

 鶉居山房と私とは路傍に屈(かが)んで洋服屋の若旦那を待つてゐた。別に用事なんかなかつたのだが、待つてゐるうちに歸るのがめんどくさくなつた。若旦那は今朝から留守なのださうだから、なかなか歸つては來まい。そこの通りは人通りも稀れで靜かだつた。私達は煙草を吸つてぼんやりしてゐた。その時學校から歸る二人連れの小學生がすぐ側を步いてゐた。そして、小學生の肩の邊に鳩がたまたま飛んで來た。すると小學生は帽子を脱いで鳩を掬はうとした。鳩は大きな羽ばたきを殘して屋根に舞上つた。卽ち鶉居山房はからからと噱(わら)ひ出した。「蝶々ぢやあるまいし、わーい、わーい。」と彼が嬉しがると、小學生はてれてしまつた。これで私達は洋服屋の若旦那に逢はないで歸れる機運が生れた。ところが翌日、その洋服屋は何處かへ夜逃げしてしまつたのだつた。

 

 私が洋服屋の若旦那に逢へたのは、それから四五年後のことだつた。ひどい春雨が降りまくる日、思ひきつて彼を訪れてみると、彼はアパートの六疊で運のよくならないのを喞(かこ)つてゐた。「早い話が、君。」と彼は云つた。「この部屋だつて屋根が漏るんだからね。」と、彼が天井を見上げると、ひどい降りが亞鉛(とたん)屋根にあたる音とともに、ぽたぽたと疊に落ちて來る。暫くの間、さうして彼は怨しげに天井と疊を見較べてゐたが、不圖雨が漏らなくなつたのに氣づいた。

「おや、こいつは變だな、たしかに今雨は降つてゐるのだがね。」

 彼が訊ねるまでもなく亞鉛屋根は烈しく鳴つてゐた。

「すると、大きな鳥でも來て屋根に留まつたのかな。」さう云つて彼はひよいと晴やかな顏をした。

 

[やぶちゃん注:「鶉居山房」邸号を雅号とした鶉居山房主人というところであろうが、「鶉」(訓:うずら)は呉音が「ジュン」・漢音が「シュン」である。取り敢えず「じゆんきよさんばう(じゅんきょさんぼう)」と読んでおく。]

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