芥川龍之介 手帳7 (15) 京劇観賞
○斷密洞(隋唐演義) 瘋僧掃秦 潞安州 淸宋靈(説岳金傳) 落馬湖 連環套(施公案) 摘星樓
[やぶちゃん注:「斷密洞」京劇の題名にこの名があるから、「隋唐演義」(清初の褚人獲(ちょじんかく)によって書かれた通俗歴史小説。全二十巻百回。「隋唐志伝」「隋煬帝艶史」「隋史遺文」などを下敷きとして、唐宋の伝奇小説や筆記及び民間の伝承文芸から素材を集めて作られた。隋の文帝が陳を滅亡させたところから始まり、「安史の乱」の後、唐の玄宗が長安に戻るところで終わっている。雑多で思想的統一性のなさが指摘されるが、隋末反乱の場面で描かれる秦瓊・単雄信・程咬金・羅成といった瓦崗寨の人物が個性的に描かれている。ここはウィキの「隋唐演義」に拠る)に基づくそれか。以下も京劇の題名であるから、これは芥川龍之介がそれらを観劇したことを意味するものと思われる。
「瘋僧掃秦」「ほうそうそうしん」(現代仮名遣)と読んでおく。これも京劇の演目。ここで映像が見られる。中文サイトに解説が数多あるが、中国語は読めぬので、悪しからず。
「潞安州」これも京劇。千田大介氏のサイト「電脳瓦崗寨(でんのうがこうさい)」のこちらのページによれば、金国王『完顔阿骨打は北宋侵略を決意、練兵場での武芸比べの結果、王子の兀術が元帥に選ばれ、兵を率いて潞安州に攻め掛かる。潞安州総鎮の陸登は敵わず城内に撤退するとともに、両狼関総鎮韓世忠に救援を求める。韓世忠は趙徳勝を使者に派遣、陸登と敵を挟み撃ちにしようとする。しかし、趙徳勝は金に捕らえられ、密書を得た金軍の軍師哈密蚩は趙徳勝に扮して城に潜入する。しかし、陸登はそれを見破り、哈密蚩の鼻をそいで送り返す。兀術は激怒して城を攻撃、陥落する。陸登は自刎して果てたが、遺体は立ったままであった。兀術がその面前で遺児陸文龍の養育を誓うと、ようやく声に応じて倒れる』というストーリーで、物語は小説「説岳全伝」に見える、とある。
「淸宋靈」不詳。並びからは京劇の演目と思われるが、似たようなものを全く見出せない。岩波旧全集編者の三字ともに誤判読かも知れぬ。
「説岳金傳」前の前の注から、これは岩波旧全集編者が「説岳全傳」を誤判読したものと思われる。
「落馬湖」京劇の演目にあり。
「連環套」京劇の演目にあり。先の千田氏の「電脳瓦崗寨」のこちらのページによれば、『清代、連環套』砦(とりで)の城主、竇爾墩(とうじとん)は『黄三太と宿敵であった。大尉の梁九公が長城の外まで清帝から賜った御馬を携えて狩りに行くと聞き、竇は深夜』、『馬を盗み、黄三太の名の書かれた書き付けを遺し、黄を陥れようと図った。そのとき』、『三太は既に死んでおり、官府は黄の子、天覇を配した。黄天覇は用心棒に姿を変えて、連環套を訪ね竇に会ってみると、果たしてその仕業であった。黄は本名を明かして竇を挑発し、馬を賭けて翌日試合を行うことを約した。竇は二本の鈎』(かぎ)『の使い手だったが、黄の友人の朱光祖は夜山砦に忍び込んで双鈎を盗み、また黄の刀を机の上に刺して、竇を殺す意志の無いことを示した。翌日、竇は恩を感じて、御馬を差し出し、黄に従って自首した』とあり、小説「施公案」(次注参照)からと記しておられる。
「施公案」清朝後期に犯罪とその裁判をもとにした公案小説集(一種の探偵・推理小説の類)。ネットを検索すると、有名な清の裁判官施公をモデルとしたものらしい。
「摘星樓」京劇の演目にあり。]
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