芥川龍之介 手帳8 (11) 《8-11》
*
《8-11》
○同窓會 菓子一圓 すし四十踐
○佐世保より昨日つきけふ來る
○ムスコ外游中よめの候補者に皆のむすめの寫眞を貰ふ
OK博士を love して得なかつた人とその未亡人
〇三十年(秦明小學校の先生) 夏中休暇と共にやめ月〻30圓外に3000圓貰ふ
[やぶちゃん注:「秦明小學校」は現在の東京都中央区銀座にある中央区立泰明小学校。明治一一(一八七八)年創立。]
○夫に對する嫉妬
○アナタイツモオ若イノネ
○小石川白山御殿町
○不同社舍
[やぶちゃん注:以上の二条(「小石川白山御殿町」と「不同舍」)は旧全集にはない。恐らくは現在の東京都文京区白山四丁目のこの辺り(グーグル・マップ・データ)。「不同舍」は画家小山正太郎(次条注参照)が明治二〇(一八八七)年に創設した画塾のことか。最盛期には三百人を数え、中村不折・青木繁などを輩出した。参照したウィキの「小山正太郎」によれば、彼は『人によって指導の仕方を変え、自らの作品に弟子達が影響を受けないようにするため、自筆の油彩画を見せることは殆どなかったと』いう。『「不同舎」の名は塾の近所』であった『本郷区団子坂界隈の不動坂に由来するとも言われるが、それよりも弟子たちの個性を尊重した小山の指導理念を示したものだろう』とある。但し、団子坂は白山御殿町よりやや東北にずれる。]
○Kent 鉛筆――drew
[やぶちゃん注:「Kent」はケント紙(高級紙の一種。純白で紙質は硬く締っている。イギリスのケント地方で初めてつくられたので、この名がある。現在は化学パルプで作るが、ごく高級なものは木綿など天然繊維を加えることもある。図画・製図用の他、名刺などにも用いる)であろう。]
○小山正太郎
モデル三河島田
>la souce Vénus de Milo 髮桃割
○Millet
+チヨンチヨン=ホ惚ナリ
[やぶちゃん注:底本では「小山正太郎」と「モデル三河島田」と、「Millet」と「+チヨンチヨン=ホ惚ナリ」はそれぞれ大きな長方形の枠で囲まれている。その四角の下から長い。斜線が伸びて中央下で繫がり、「la souce Vénus de Milo 髮桃割」と下に書かれてある。
「小山正太郎」(こやましょうたろう 安政四(一八五七)年~大正五(一九一六)年)は旧越後国長岡藩の藩医の惣領で洋画家であるが、画家としてよりも教育者として知られる。
「三河島田」島田髷の型の一種の通称であろう(地名ならば福島県耶麻郡西会津町新郷大字にある)。
「la souce Vénus de Milo」フランス語。ギリシャ彫刻の名品でパリのルーヴル博物館所蔵の『「ミロのヴィーナス」を源泉とするもの』という意。
「Millet」既出既注。
「チヨンチヨン=ホ惚ナリ」意味不明。以下、一行空き。]
○天草四郎時貞の史劇 faith―worldly―vanity―faith and death
[やぶちゃん注:「信仰―世俗の―虚栄―信仰と死」の意か。]