続きが見たい夢
本未明、二時前に久々に続きが見たい夢を見た……
私は18で、教え子のO君と一緒に京都の大学に合格している。二人で学生相手の私設の木賃宿舎に入る。私は芥川龍之介全集を始めとして本を山のように持って来ていたが、置き場がないので、部屋の中の壁際にドミノのピースのように並べ、O君は「サンダーバード2号」の見たこともないプレミアム・ポッドの中に彼の好きなエヴァンゲリオンのフィギアが満載しているという奇体なもの広げては「どうだ!」という風に微笑んだ。
六畳一間に二人でなかなかに狭い。
最初の一夜、私は廊下に近いところに雑魚寝をしている。
何か夢を見ているような気になって、ふと目が覚めると(夢の中の私が、である)、廊下と隔てる襖が少し開いていて、そこから若い女の生白い腕がさし入っており、私の蒲団からはみ出た右手の人差し指に、その女の人差し指が載っている。と見たら、ゆっくりとその女の腕は廊下の方へと引っ込んでゆく。
襖の隙間からそっと覗いてみると、そこには16、7の若い女たちが、煎餅布団を強いて、廊下に川の字になって寝ているのであった。彼らは皆、貧しい家庭から、この宿屋に女中奉公をしに来ている少女らで、それは昼のうちに見かけて知っていた。一番近い、則ち、私と指と指を重ねていたのは香代という娘であった。目を閉じてはいるものの、起きているように思えたが、私はそっと襖を閉じた。
数日経って、宿舎の中で出しているという、手書きの回覧雑誌が回って来た。
開いて見ると、中に「K女」と署名のある小説があった。
それは、一人の宿屋の奉公人の少女が、そこに泊まっている青年と恋仲になり、夕餉の買い物に出かける時、青年と踏切のところで落ち逢って宿へ戻るまで一緒に歩くという、束の間の逢引きを描いた掌品であったが、そこで最後に踏切の所で別れる際、彼女が右手の人差し指を青年に指し出し、青年がやはり自分の人差し指をそれに接するというシーンで終わっているのであった。
その途端、私は何か非常な切なさを感じ、部屋の壁と言わず、宿中の壁という壁に筆で訳のわからぬ言葉を書きまくり始め、O君を始めとする下宿学生たちがそれを必死で押し留めようとする……
*
というところで眼が覚めてしまった。小便をしに下に降りると、妻はカウチに寝っ転がってテニスを見ていた。
また、寝床に戻って思わず『続きが見たい!』と思った(これほど切にそう思った夢は今までの60年間の夢見の中でも数回しかない)が、この数年、一度目が醒めると、私は最早、二度寝出来ない体質になってしまっており、その「夢」は叶わなかったのであった――