芥川龍之介 手帳7 (20) 万里の長城・張家口
○轎を下り川を渡る 路は石磊々 居庸關 民家の土壁 石のアアチの浮彫を半かくす(象にのれる人) 支那同行二人 〇五柱頭山洞(隧道)の右に彈琴峽 藻の花あり 岩上に廟 栗鼠 蜥蜴 「請勿揳折」の札 門に「居庸外關」の字あり 子供の荷もち バツタ 虫聲 松葉 百合ノ花 花なきヒアフギ 燕 山はgreen and brown. Wallはgrey. 瓦かけ狼籍 ○Edelweisz (Edelwise) みゆき草 Alpenヘ登る人が持ち歸る草 ○山に石灰にて白き線をひきあるは造林の爲なり
[やぶちゃん注:「居庸關」(きょようかん)は北京市昌平区にある「万里の長城」上に設けられた関所兼要塞。「天下第一雄関」とも呼ばれ、難攻不落の九塞に数えられた。北京市街から北西約五十キロメートルの、八達嶺長城へ向かう途中の峡谷にある。ここ(グーグル・マップ・データ)。
「五柱頭山洞」「彈琴峽」居庸関の西北八・五キロメートルほどの位置にある、北京市延慶県の「八達嶺長城」附近の長城の景勝名。
「Edelweisz (Edelwise)」ドイツ語表記は正しくは“Edelweiß”。中国産はキク亜綱キク目キク科ウスユキソウ属(中文分類名・菊目菊科火絨草屬)Leontopodium sp. で、エーデルワイス(ウスユキソウ)Leontopodium
alpinumの亜種と思われる。
「請勿揳折」「請勿」は「~しないで下さい」という禁止の丁寧な言い回し。「揳折」はよく判らぬが「揳」は「叩く・打つ」の意味だから、以下の、木製の門扉が老朽化しているため、「打ったり叩いたりしないで下さい」というのであろうか?
「brown」褐色。
「Wall」この場合は「万里の長城」の「城壁」の意であろう。
「ヒアフギ「単子葉植物綱キジカクシ目アヤメ科アヤメ属ヒオウギ(檜扇)Iris
domestica。「Alpen」アルペン(ドイツ語)。英語の「Alps」(アルプス」)に当たる。]
○張家Kalgan. 車の右に陰山山脈見ゆ 山頂低し 西洋人福音書をくばる 蒙古の天晴れ 支那の天黑し 豪雨すぎし後と見えて路川の如し 柳 風強し 馬
[やぶちゃん注:「Kalgan」カルガンは「Zhangjiakou」(張家口)の旧称。ウィキの「張家口市」によれば、河北省北西部に位置して内モンゴル自治区と境界を接する現在の張家口市は、『古くはモンゴル語で万里の長城の「門」をあらわすハルガhālga またはカルガ kālga(その元の形はkaghalga)から、カルガン(Kalgan)の名でも知られていた。『北京の北門』とも呼ばれ』る。ここ(グーグル・マップ・データ)。
「陰山山脈」中国北部の内モンゴル自治区(一部は河北省)にある山脈。ウィキの「陰山山脈」によれば、『黄河屈曲部北端の北側に、黄河に沿って東西に走る。南側に急峻な断層崖があり北斜面は緩い傾動地塊である。北側はゴビ砂漠に続く山脈でハンギン後旗狼山から始まり、東西』千二百キロメートル、南北の幅は五十から百キロメートルに及ぶ。山脈の平均標高は千五百~二千三百メートル。『最高峰は、狼山西部にある呼和巴什格』(フーへバシゲ)山で標高二千三百六十四メートル。]
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