芥川龍之介 手帳12 《12―21》
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《12―21》
○Croce : Æthetic as science of expression
& general linguistics
[やぶちゃん注:ヘーゲル哲学と〈生の哲学〉を結びつけ、ヨーロッパ思想界に大きな影響を与えたイタリアの哲学者・歴史学者ベネデット・クローチェ(Benedetto Croce 一八六六年~一九五二年)の一九〇二年の著作“L'Estetica come scienza dell'espressione e linguistica generale”(「表現の科学及び一般言語学としての美学」)の英訳(以上はウィキの「ベネデット・クローチェ」を参考にした)。英訳全文をこちら(PDF)で読める。芥川龍之介よ、凄い時代になったろ?]
○Stevenson Thrawn Janet
[やぶちゃん注:「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」(“The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde”(一八八六年出版)で知られるイギリスの作家ロバート・ルイス・バルフォア・スティーヴンソン(Robert Louis Balfour Stevenson 一八五〇年~一八九四年)が一八八一年に発表した短篇怪談「捩じけ首のジャネット」。彼の作品の中でも秀逸のホラーである。]
○6月14日
[やぶちゃん注:今までの記載から見て、恐らくは、予定していた洋書の注文日。]
○Russe1, Engravings of W. B.
○同上
[やぶちゃん注:編者注で『W.B. は William Blake の略』とある。イギリスの詩人で画家(銅版画家)として知られるウィリアム・ブレイク(William Blake 一七五七年~一八二七年)の「Engravings」はここでは銅版画。イギリスの美術史家アーキバルド・ジョージ・ブラームフィールド・ラッセル(Archibald George Blomefield
Russell 一八七九年~一九五五年)の一九一二年の著作。]
○Naidu : Golden Threshold
{Mysteries of Paris Eugéne Sue
{Wanderring Jew Eugéne Sue
Thomas
Y. Crovell & Co. (The Popular Library of Notable Books)
[やぶちゃん注:二つの「{」は底本では大きな一つ。
「Naidu」インドの女流詩人で政治(活動)家でもあったサロージニー・ナーイドゥ(Sarojini Naidu 一八七九年~一九四九年)。個人ブログ「トーキング・マイノリティ」の「インドの女性活動家たち」によれば、彼女は『ベンガル出身のバラモン女性で、南インドの非バラモンと恋愛結婚』したが、当時、『異なるカースト間の結婚でも』、『女のカーストが高い場合は逆毛婚と呼ばれ』て、『特に忌み嫌われたにも係らず、自分の意思を貫いた』人物で、『イギリス留学中から詩人として有名とな』り、『ガンディーの信奉者として民族運動に参加』、一九二五年の『インド女性初の国民会議派議長に選出され、インドにおける女性運動の指導者でもあった』とある。彼女はその詩によって「インドのナイチンゲール」と呼ばれたという。
「Golden Threshold」(「黄金の敷居(戸口)」)は彼女の一九〇五年にイギリスで刊行した詩集。“Internet Archive”のこちらで英語原典が読める。
「Mysteries of Paris」「Eugéne Sue」はフランスの小説家ウージェーヌ・シュー(Eugène Sue 一八〇四年~一八五七年:ウィキの「ウージェーヌ・シュー」によれば、パリ生まれで、父はナポレオン軍の軍医として知られ、ジョゼフィーヌ皇后が名付け親となったとされる。後、自身も海軍の軍医として働き、一八四二年から翌年にかけて新聞で連載したこの「パリの秘密」(Les
Mystères de Paris)で絶大な人気を博した。同作は『パリの貧民や下層社会を描いた社会主義的な作品で、当時』、『その人気はアレクサンドル・デュマ』に匹敵したが、『大衆小説作家とみなされ、その後』は『あまり読まれなくなった』とある(下線やぶちゃん)。
「Wanderring Jew」「彷徨(さまよ)えるユダヤ人」。ウージェーヌ・シューの一八四四年から翌年にかけて発表された小説。芥川龍之介には同伝承を素材とした、大正六(一九一七)年六月『新潮』発表の、ペダンチックな随想「さまよえる猶太人(ゆだやじん)」(ルビは以下に示した同作本文に拠る)があり、その冒頭で(岩波旧全集を用いた)、
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基督教國にはどこにでも、「さまよへる猶太人(ゆだやじん)」の傳説が殘つてゐる。伊太利でも、佛蘭西でも、英吉利でも、獨逸でも、墺太利でも、西班牙でも、この口碑が傳はつてゐない國は、殆一つもない。從つて、古來これを題材にした、藝術上の作品も、澤山ある。グスタヴ・ドオレの畫は勿論、ユウジアン・スウもドクタア・クロリイも、これを小説にした。モンク・ルイズのあの名高い小説の中にも、ルシフアや「血をしたたらす尼」と共に「さまよへる猶太人」が出て來たやうに記憶する。最近では、フイオナ・マクレオドと稱したウイリアム・シヤアプが、これを材料にして、何とか云ふ短篇を書いた。
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と、彼の名(ユウジアン・スウ)を出している。同随想は「青空文庫」のこちらで読める(但し、新字新仮名)。
「Thomas Y. Crovell & Co.
(The Popular Library of Notable Books)」最初は出版社名で、括弧内は叢書名(「著名書の大衆図書館」?)であろう。]
○Félicien Rops: Verlag von
Maroquardt & Co. Berlin
[やぶちゃん注:ベルギーのエッチングやアクアチント技法を得意とした版画家で、世紀末の象徴主義やデカダン派の文学運動と関係を持ち、そうした作家たちの詩集にイラストを好んで描いたフェリシアン・ロップス(Félicien Rops 一八三三年~一八九八年)の画集か評論書であろう。後半はベルリンの書店であるが、恐らくは「Maroquardt」の綴りはは「Marquardt」が正しい。]
○7月15日
[やぶちゃん注:同じく注文予定日と推測される。]
○Ricket : Pages on Art
○Ricket : Gustave Moreau
○Ricket : Degas
[やぶちゃん注:綴りが違うが、イギリスのイラストレーターとしてビアズリーと並称される画家チャールズ・リッケッツ(Charles de Sousy Ricketts 一八六六年~一九三一年)ではなかろうか? 英文のグーグルブックスの複数の本の注リストに、彼と思しい名とともに一九一三年の著作として“Pages on Art”、一八九三年の著作として“A Note on Gustave Moreau”を見出せるからである。「Degas」はフランスの印象派の画家エドガール・ドガ(Edgar Degas 一八三四年~一九一七年)であろう。]
○Butcher : Some Aspects of Greek
Genius
[やぶちゃん注:アイルランドの古典学者で政治家でもあったサミュエル・ヘンリー」ブッチャー(Samuel Henry Butcher 一八五〇年~一九一〇年)の一九〇四年の著作(「ギリシャ精神の諸相」)。]
○Andreev, The sorrow of Belgium Mac millan
[やぶちゃん注:ロシアの作家で第一革命の高揚とその後の反動の時代に生きた知識人の苦悩を描き、当時、世界的に有名な作家となったレオニド・アンドレーエフ(Леонид Николаевич Андреев:ラテン文字転写:Leonid Nikolaevich Andreev 一八七一年~ 一九一九年)の一九一七年(?)の戯曲「ベルギーの哀しみ」(侵攻するドイツに果敢に戦ったベルギーを讃えたもの)。最後は書店名。]
○308 急 1932
[やぶちゃん注:意味不明。]
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