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2018/02/26

博物学古記録翻刻訳注 ■17 「蒹葭堂雑録」に表われたるギンザメの記載

 

「蒹葭堂雑録」に表われたるギンザメの記載

 

Gizame

 

[やぶちゃん注:「蒹葭堂雑録(けんかどうざつろく)」(正字表記「蒹葭堂雜錄」)は既に本ブログの『海産生物古記録集■3 「蒹葭堂雑録」に表われたるスカシカシパンの記載』(「海産生物古記録集」は本シリーズの旧標題)で述べたが、改めて記す。大坂の文人・画家・本草学者にしてコレクターであった木村蒹葭堂(元文元(一七三六)年~享和二(一八〇二)年:家は大坂北堀江瓶橋北詰の造り酒屋で、後に大坂船場呉服町で文具商として財をなした。蔵書家としても知られ、彼の死後、その膨大な蔵書は幕命によってほとんどが昌平坂学問所に納められた)の著になる、安政六(一八五九)年刊の五巻から成る考証随筆。各地の社寺に蔵する書画器物や、見聞した珍しい動植物についての考証及び珍談奇説などを書き留めた原稿を、著者没後、子孫の依頼を受けた大坂の著述家暁鐘成(あかつきかねなり)が整理抜粋したもの。池大雅の印譜や下鴨神社蔵三十六歌仙絵巻などの珍品が雑然と紹介されており、挿画は大阪の画家翠栄堂松川半山の筆になる(以上は主に「世界大百科事典」及びウィキの「木村蒹葭堂」に拠った)。

 本記載は同書の「二之卷」の五項目に「阿州異魚之圖」(目次は「阿波國異魚之圖」)として見開きで載る。ここではその見開き全体の画像を国立国会図書館デジタルコレクションのこちらにある原典画像を冒頭に掲げた(トリミングしてある)。魚体が左右に切れてしまっているのが悩ましい。実は私の所持する吉川弘文館随筆大成版(第一期十四巻)では、ほこの項の本文を含めた全体がそのまま図版の形で例外的に掲載されており、しかも、そこでは魚体が非常に綺麗に接合されており、一枚の絵として気持ちよく視認出来るのであるが、同書は無断で複写複製(コピー)を禁じていることから、その図をお示し出来ないのは非常に残念ではあるが、致し方ない。先の『海産生物古記録集■3 「蒹葭堂雑録」に表われたるスカシカシパンの記載』の方では、同書の挿絵を利用したのに今回それをやめた理由は、この魚体の接合されている部分には編集権が発生していると私が考えたからで、これは、パブリック・ドメインの絵図を平面画像としてただ写し撮っただけの果実には著作権は発生しない、という文化庁規定は適応出来ないと私が認識したためである。また、そのままでは裏の文字が透けて見えてしまうため、強い補正をかけた。右ページが黄変しているが、これぐらい補正をかけないと、原図の薄い部分がより薄くなってしまい、視認での細部の観察が甚だ難しくなってしまうからである。

 以下、本文箇所は吉川弘文館随筆大成版も参考にしながら、電子化した。最初に原典のルビ附きの本文を完全に電子化した「□本文1」を、次に、難読と判断される箇所以外のルビを排除し、逆に読みの一部を本文に出したり、〔 〕で読みや本文を補い、記号も挿入して整序した「□本文2」の二種を配した。字の一行字数は「□本文1」では一行字数を原典に一致させ、「□本文2」では続く箇所は改行せずに示して、読み易さを考え、禁欲的に句読点を打った。略字か正字か迷うもの及び表現不能な略字体の箇所は正字化した。「ハ」「ミ」がカタカナらしく見えはするが、総て平仮名として判読した。]

 

□本文1

阿州異魚之圖(あしうゐぎよのづ)

 

長二尺四五寸許(ばかり)首(かしら)は方(かた)にして

匾(ひらたき)身(み)あり全體(ぜんたい)白(しろき)光(ひかり)有(あり)て

太刀魚(たちうを)の如(ごと)し目睛(めのひとみ)黄(き)にして

鮫目(さめのめ)に似(に)たり一説(いつせつに勢州(せいしう)

津(つ)の方言(はうげん)には箔鮫(はくさめ)と云

紀州(きしう)にて天狗鮫(てんぐざめ)といふ

卽(すなはち)劍尾沙魚(けんびざめ)の属(たぐひ)

      なり

[やぶちゃん注:以下、キャプション(一キャプション毎に頭に※を打った)を右から左へ電子化した。]

※此(この)鰭(ひれ)鳥(とりの)翎(はね)の

  ごとし

※肉色(にくいろ)

※薄白(うすしろ)

※此(この)鰭(ひれ)背(せ)白(しろ)く縁(ふち)より紅(あかみ)あり

※此(この)黒條(くろすぢ)少(すこ)し

     勒(きざ)あり

 

[やぶちゃん注:上記のキャプションは、ただ、魚体の中央下部に書かれており、他のキャプションと異なり、指示線が全くない。しかし、これが見開きに中央であること、本異魚の側線らしき部分が濃い黒で、しかも波を打ってギザギザに描かれているのが視認出来ることから、これはこの側線らしき箇所へのキャプションと私は推定している。

※腹(はら)白(しろ)し

※歯(は)白(しろ)く微(すこし)青(あをみ)を帶(を)ぶ

※鼻頭(はなかしら)白く微(すこし)紅(あか)を帶(を)ぶ小孔(ちいさきあな)数点(かず)あり

 條(すぢ)を貫(つらぬ)きたる孔(あな)は條(すぢ)なき孔(あな)より少(すこ)し大(だい)なり

 

 

□本文2(ルビを概ね排除し、句読点を打ったもの)

阿州異魚之(の)圖

 

長〔ながさ〕、二尺四、五寸許(ばかり)。首(かしら)は、方(かた)にして、匾(ひらたき)身あり。全體、白き光り有りて、太刀魚の如し。目の睛(ひとみ)、黄(き)にして、鮫の目に似たり。一説に、勢州津の方言には「箔鮫(はくさめ)」と云〔ふ〕。紀州にて「天狗鮫(てんぐざめ)」といふ。卽ち、「劍尾沙魚(けんびざめ)」の属(たぐひ)なり。

※此の鰭、鳥の翎(はね)のごとし。

※肉色。

※薄白。

※此の鰭、背、白く、縁(ふち)より紅みあり。

※此の黒條(くろすぢ)、少し勒(きざ)あり。

※腹、白し。

※歯、白く、微(すこ)し青を帶ぶ。

※鼻頭(はなかしら)、白く、微し紅(あか)を帶ぶ。小さき孔(あな)、数-点(かづ)あり。條(すぢ)を貫きたる孔は、條なき孔より、少し、大なり。

 

[やぶちゃん注:これはもう、脊索動物門 Chordata脊椎動物亜門 Vertebrata軟骨魚綱 Chondrichthyes全頭亜綱 Holocephaliギンザメ目 Chimaeriformesギンザメ科 Chimaeridaeギンザメ属 Chimaeraギンザメ Chimaera phantasma Jordan and Snyder, 1900(英名:Silver chimaera)に同定してよい。全頭亜綱ギンザメ目(Chimaeriformes)にはギンザメ科 Chimaeridae とテングギンザメ科Rhinochimaeridae の二科があるが、後者は先頭部が天狗の鼻のように異常に長く張り出しているから、ここは間違いなく前者である。また、本邦に棲息するギンザメ科は八種が確認されているが、最も普通に見かけるのは本種であるから、それに同定した。

 同種は地方名では「ギンブカ」(或いは単に「フカ」)「ウサギザメ」「ウサギ」などとも呼ばれる。英名は「銀色のキマイラ」(chimaera Chimaira と同じ)で、「銀色をした妖獣キマイラ」(キマイラはギリシア神話のハイブリッドの怪物で、ライオン・山羊・蛇の三つの頭を持ち、口から火を吐く。小アジアのカリア地方に住んでいて周辺の土地を荒したが、リュディア王イオバテスの命を受けたベレロフォンが、天馬ペガソスの助けを借りて退治した)の意。但し、私はくるんとした丸い目といい、とても可愛いと思う。事実、荒俣宏氏の「世界大博物図鑑2 魚類」の「ギンザメ」によれば、ギンザメ類をノルウェーでは『体色の美しさから〈金銀魚〉とよぶ』とさえある。

 和名は無論、「銀鮫」であるが、「さめ」がついているが、軟骨魚綱 Chondrichthyes板鰓亜綱 Elasmobranchiiサメ類とは異なり、実はより原始的な全頭亜綱 Holocephali(軟骨魚類の中で古くに板鰓類(サメ・エイ類)と分かれて出来たグループ。分岐年代は定かではないが、古生代デボン紀(約四億千六百万年前から三億五千九百二十万年前)にはこの全頭類の化石が見つかっているから、それより以前である。そもそもが現生の全頭類はこのギンザメ目のみである。板鰓類との大きな相違は鰓の開口部の形状で、板鰓類が鰓裂を五対以上持つのに対し、全頭類では鰓を一枚の鰓蓋が覆い、鰓裂は一対である)に属する「生きている化石」クラス(実際、私の小学校時代の魚類図鑑にはそう書いてあった)である。以下、ウィキの「ギンザメ」によれば、『太平洋北西部に広く分布し、水深』五百メートル『以浅で見られる。また』、『インド洋東部やニューカレドニア近海にも分布するが、太平洋の個体群よりも』、『やや深い所に生息する。日本近海では、日本海を含む北海道以南に分布する』。属名は前に記した通りで「キマイラ」に由来し、『種名 phantasma は、「幽霊」「幻影」といった意味』である。全長は七十センチメートル(ぼうずコンニャク市場魚貝類図鑑」ギンザメ」の数値)から一メートル十センチメートルほどで、『体色は銀白色』で、既に述べた通り、『サメやエイなどの板鰓類と異なる点は、鰓孔(外鰓孔)を一対しかもたないことである。大きな胸鰭をもち、海底付近を上下に羽ばたくようにして遊泳する。背鰭前縁に』一『本の毒腺のある棘をもつ。刺されると痛むが、人に対する毒性は弱い。歯は癒合し、硬いものをすり潰すのに適している。餌は底性の貝や甲殻類である』。『卵生』で、『雄の頭部には鈎状の突起があり、交尾時に雌を押さえ付けるのに用いられる』とある。荒俣宏氏の「世界大博物図鑑2 魚類」の「ギンザメ」によれば、この鉤状突起はの頭部額部分にあるとあり、とすると、本図は有意な突出点が見当たらないことから、ギンザメのである可能性もでてくるとも言える。『底引き網などにかかることがあるが、水産上は重要でな』く、『かまぼこや練り製品になる』。『深海底に生息しているため、生きている姿を目にすることは稀である。水圧等の影響により水から揚げると死んでしまうことが多い』。第一『背鰭にある棘は大きく、毒をもつので取り扱いには注意を要する』とある。珍しい生体動画は(水族館)。

・「阿州」阿波国。現在の徳島県。

・「二尺四、五寸」七十三~七十五・七五センチメートル。

・「首(かしら)は方(かた)にして」頭部は方形であって。事実、ギンザメ類は頭部は左右に角ばっている(特に鰓孔辺りで)が、それより以下の体幹は上下に平べったい。

・「太刀魚」条鰭綱スズキ目サバ亜目タチウオ科タチウオ属タチウオ Trichiurus lepturus

・「目の睛(ひとみ)、黄(き)にして」生体のそれは黄色くないように思われる。或いは死んで、腐敗が始まって水晶体に濁りが生じていたものかも知れない。

・「勢州津」伊勢国の津。現在の三重県津市。

・「箔鮫(はくさめ)」銀箔で腑に落ちる。

・「紀州」紀伊国。現在の和歌山県。

・「天狗鮫(てんぐざめ)」単に本種だけを見ても目が大きく、それより前の頭部の突出は鼻に擬え得るから、本ギンザメ科 Chimaeridae をかく呼んでもおかしくはない。しかし前に述べた通り、テングギンザメ科Rhinochimaeridae のテングギンザメ類のフォルムを見てしまうと、これはそっちに譲りましょうという気にはなる。はレアな自然状態のギンザメの動画であるが、これはその鼻部から見てテングギンザメ科Rhinochimaeridae の一種のように思われる。グーグル画像検索「Rhinochimaeridae」(テングギンザメ科を示しておく。

・「劍尾沙魚(けんびざめ)」これは本ギンザメを指す名として、後の栗本宝暦六(一七五六天保五(一八三四(リンク先は国立国会図書館デジタルコレクションの画像。必見!)として出る。

・「翎(はね)」羽に同じい。以下、細部の形状と色は、かなり正確に記述している。グーグル画像検索「Chimaera phantasmaの各画像と比較されたい。

・「肉色」ピンク色。

・「勒(きざ)」刻み。凸凹。「勒」には「刻む・彫る」の意がある。

・「数-点(かづ)あり」二字でかく当て読みしている。数多くある。]

 

□現代語訳

阿波の国で捕れた異魚の図 

長さは二尺四、五寸ほど。首の部分は角ばっていて、それに平たい身が続いている。全体に白い光りがあって、太刀魚(たちうお)のようである。目の瞳は黄色で、鮫の目に似ている。一説に、伊勢の国の津の方言では、この魚を「箔鮫(はくさめ)」と言うとも伝える。また紀伊の国では「天狗鮫(てんぐざめ)」と称するとも言う。ともかくも則ち、これらは皆、「劍尾沙魚(けんびざめ)」の類いである。

※ここの鰭は鳥の羽に似ている。

※肉色を呈する。

※薄い白色。

※ここの鰭は、背の部分が有意に白く、その縁(ふち)の部分からグラデーションがかかって赤みがかっている。

※この黒い筋状の線には、少し刻みがある。

※腹は白い。

※歯は白く、少し青みを帯びている。

※鼻頭(はながしら)の部分は白く、少し赤みを帯びている。頭部には小さな孔(あな)が数多く開(あ)いている。その内、表面に筋があってそこを貫いて体(頭部内部)に開いている孔は、頭部の筋のない孤立した単独の孔よりも、少し大きい。

 

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