栗本丹洲 魚譜 波マクラ (ネコザメの卵鞘と胎児)
[やぶちゃん注:図版は国立国会図書館デジタルコレクションの「魚譜」から。]
□翻刻1(原則、原典のママ)
波マクラ鯊魚腹中ヨリ出
螺ノ如ク巻ク内ハ平ニシテ黒色ナリ
此中ヨリサメノ子出臍蔕アリ
胞衣付ケリ乾枯スレハ堅シ其ヤ
ハラカナルトキハ雞蛋ノキミノ如シ
志村愛輔親シク目擊シテ手写ス
ル処ナリ
□翻刻2(今まで通り、読み易く約物を正字化し、推定訓読して整序した)
「波マクラ」
鯊-魚(さめ)の腹中より出づ。螺(にな)の如く巻く。内は平(たひら)にして、黒色なり。此の中より、「サメ」の子、出づ。臍蔕(さいたい)あり。胞衣(えな)、付きけり。乾枯(かんこ)すれば堅(かた)し。其のやはらかなるときは、「雞蛋(けいたん)のきみ」の如し。志村愛輔、親しく目擊して、手写(しゆしや)する処なり。
[やぶちゃん注:卵生である軟骨魚綱板鰓亜綱ネコザメ目ネコザメ科ネコザメ属ネコザメ Heterodontus japonicus の卵(卵鞘)及び、その中の卵黄に繋がった胎児個体二尾。ウィキの「ネコザメ」によれば、本邦では三月から九月にかけて産卵が行われ(三~四月が最盛期)、♀は卵を一度に二個ずつ、合計六個から十二個産む。卵は螺旋状の襞が取り巻いた独特の形状を成す。これは『岩の隙間や海藻の間に産み落とされた卵を固定する役割がある。仔魚は卵の中で約』一『年かけて成長し』、約十八センチメートルに達すると孵化する。♂は六十九センチメートルで成熟する、とある。先行する「ウミヅル (卵生サメ・エイ類の卵鞘の付属器と同定)」の私の注及びリンク先の画像・動画なども是非参照されたい。板鰓亜綱テンジクザメ目テンジクザメ科テンジクザメ属イヌザメ Chiloscyllium punctatum のものであるので卵鞘の形状が異なるが、癒乃さえり氏の「サメの卵を買って来たよ!そして産まれる日までまとめたよ!」という動画が非常によい。卵鞘の中での胎児の動きから、孵化までの様子が見られる。必見!
「波マクラ」「波枕」。何と、風雅な名であることか。
「螺(にな)」広義の巻貝(腹足類)のこと。
「内は平(たひら)にして」スクリューやドリル状に見えるが、鞘の中央内部は管を巻いているのではなく、平らな一つの空間になっていることを言っている。
「臍蔕(さいたい)」「臍蔕」の二字で「へそ」と読んでいる可能性もあるが、後の「胞衣(えな)」(胎児が生み出た後に排出される胎盤・卵膜などの付属物)の表現から「臍帯」と同じ音で読んでおいた。
「乾枯(かんこ)すれば堅(かた)し」主語は卵鞘。
「雞蛋(けいたん)」「鷄卵」に同じい。鶏の卵。
「きみ」黄身。卵黄。
「志村愛輔」不詳。呼び捨てにしているから、栗本丹洲の弟子であろう。
「手写(しゆしや)」現場で即席にスケッチしたものという謂いであろう。或いは、それをそのままここに張り込んだ、則ち、丹洲が再描せずに、或いは、墨の単色スケッチ画に丹洲が志村愛輔に訊ねながら彩色を加えたものかも知れぬ。]
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