栗本丹洲 魚譜 異魚「ツノジ」の類 (ギンザメ或いはニジギンザメ)
[やぶちゃん注:図版は国立国会図書館デジタルコレクションの「魚譜」から。元画像は、魚体が頭部及び胴前方・胴部後方及び尾部根元・尾部尖端に痛ましく分解されているので、三枚の画像をソフトで合成して一体の完品像として見られるように加工した。]
□翻刻1(原則、原典のママ)
此鮫水府海中ヨリ獲タリ
漁子モ其名ヲ不知但ツノジノ
類ナラン寛政初年ノヿナリ
□翻刻2(今まで通り、読み易く約物を正字化し、推定訓読して整序した)
此の鮫、水府(すいふ)海中より獲りたり。漁子(れふし)も其の名を知らず。但し、「ツノジ」の類ひならん。寛政初年のことなり。
[やぶちゃん注:全体に体色が真っ黒なのは不審であるが、額部の突起物から♂は決まり。また、側線が前半から中央にかけて小刻みに波打っているところからは、
軟骨魚綱全頭亜綱ギンザメ目ギンザメ上科ギンザメ科ギンザメ属ギンザメ Chimaera phantasma
が同定候補となるのだが、尾鰭と区別可能な尻鰭がないという点と、棘の後ろが鋸状になっておらず、円滑であるという点では、
ギンザメ科アカギンザメ属ニジギンザメ Hydrolagus eidolon の♂も挙げておく必要があろうかとも思われる。しかし、乾燥標本(この黒い色は経年劣化かも知れぬ。後注参照)にした結果、鰭などが毀損したとも考えられぬでもない。
「水府(すいふ)」水戸の異称。
「漁子(れふし)」漁師。
「ツノジ」既にギンザメ類の異名として多数既出。
「寛政初年」寛政元年は一七八九年。例えば、前の図は文化一四(一八一七)年の図であるから、単にそこと比較しても二十八年も隔たりがある。但し、本巻子本は新旧の図譜のランダム(少なくとも編年的構成要素は全くない)張り混ぜの魚譜であるから、この図が描かれたのはもっと前で、期間はずっと短くなる可能性も無論、有意にあるとは言える。]
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