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2018/03/15

栗本丹洲 魚譜 ヒツウオ (考証迷走の果てにアカザとした)

 

Gigi

 

[やぶちゃん注:図版は国立国会図書館デジタルコレクションの「魚譜」からトリミングした。本巻子本「魚譜」の中では特異点の単色素描図である。実際には前のチョウザメの鱗三種の図の後、後にある『ウミヅル漢名不詳』とするものの右半分の真上の空隙に記されてある。]

 

□翻刻1(一行字数を合わせたママのもの)

丹波亀山保津川産

 ヒツウオ ナマヅノ子ノ如シ

 上唇ヒゲ四本アリハラノヒレ

 尖刺アリテ人ヲサス

 

□翻刻2(総て同ポイントにし、概ね、カタカナをひらがなに、句読点・記号を打ち、一部に推定で読みを添えて、二行名以下を連結させた)

丹波亀山保津川産。

 「ヒツウオ」 「ナマヅ」の子の如し。上唇(うはくちびる)に、ひげ四本あり。はらのひれに、尖(と)き刺(とげ)ありて、人を、さす。

 

[やぶちゃん注:以下で同定経緯を示すが、思ったより、困難を極めた。最終的に辿りついた最有力同定候補は、

条鰭綱ナマズ目アカザ科アカザ属アカザ Liobagrus reini

である。

 当初は、産地「丹波亀山保津川」(京都府を流れる淀川水系の桂川の内、亀岡市保津町請田から京都市嵐山までの流域呼称)、ナマズの子に似ている、棘があって人を刺す、という三点から直ちに、

ナマズ目ギギ科ギバチ属ギギ Pelteobagrus nudiceps

を想起したのであるが、本種はギギ科 Bagridae の中でも、最も尾鰭が深く切れ込むことで有意に区別されるのであるが、本図の尾鰭は中央に全く切れ込みがないことから、ギギではない

 次に尾部の形状がより図に近い同ギギ科の他の三種を検証してみたが、まず同属の、

ギバチ Pseudobagrus tokiensis

は、分布域が神奈川県・富山県以北の本州であって、産地が外れ、同属の、

アリアケギバチ Pseudobagrus aurantiacus

九州各県の一部に限定されるのでアウトとなり、同じく、ギギ科では最小種である、

ギギ科 Pseudobagrus 属ネコギギ Coreobagrus ichikawai

も、東海地方(かつては広く東海地方に分布していたが、現在は愛知県・岐阜県・三重県の伊勢湾・三河湾流入河川とされる)の固有種なので、同定候補足り得ないことが判った。

 因みに困ったところで、苦し紛れに思い出したのは、汽水域にも入り込む海水魚ナマズ目ゴンズイ科ゴンズイ属ゴンズイ Plotosus japonicus であるが、保津川は完全な内陸の桂川中流域しか指さないからゴンズイでは絶対にあり得ない。言う必要もないが、そもそも海水魚のゴンズイを山間の淡水魚と仮に誤認したのだとしても、ゴンズイに特徴的な両体側に尾部に向けて入る二本の黄色線を丹洲が見逃す(キャプションで語らない)はずもないのである。

 そこではたと思い当ったのが、冒頭のアカザ(赤佐)である。ウィキの「アカザ」によれば(下線太字やぶちゃん)、『胸鰭と背鰭に鋭く毒のある棘条があり、その棘条に刺されると痛いことからつけられたアカザスが転訛してこの名になったとされている。他には、アカネコ、アカナマズの名がある。日本固有種で、秋田県、宮城県以南の本州と四国、九州に分布する』。『ナマズの仲間としては小型で、体長は最大』でも十センチメートル前後で、『ドジョウのように円筒形の細長い体型をしており、英名でもLoach catfish(ドジョウナマズ)と呼ばれる。体色は、やや赤色がかるが』、『地域変異が大きい。生息域の重複や頭部の形状などの特徴からギギやギバチに若干似るが、以上のような特徴から識別は容易である。また、他種と比べて頭部が小さく』、『側線が胸鰭の後ろ近辺までしかないという違いがある』(これは一見、本図に齟齬するように見えるが、反証を後で示す)。『口ひげは上顎に』二『対、下顎に』二『対の計』八『本である』(これもキャプションの「四本」と齟齬するわけだが、実は丹洲は「上唇」に四本と言っているので、あまり問題はないと私は考えている。そもそもが上に考証候補として出したギギ類やゴンズイも八本の鬚を有する。そしてその鬚は口吻上部(「上唇」である)に四本、下顎下部に四本(或いは丹洲のもとに本種がもたらされた時には腐敗或いは乾燥が進み、下部の鬚が脱落していたか、乾燥して腹部に張り着いて癒着してしまっていた可能性もある)。『胸鰭に』一『本ずつ、背鰭に』一『本の刺条を持つ。刺条には毒腺があり、刺されると痛む。背鰭の後部には脂鰭があるが』、『その基底は長く、後端で尾鰭と連結する。尾鰭の後縁は丸く扇形になる』。『水温の低い河川の上流域下部〜中流域、渓流部の清澄な水底に生息する。高温に弱く、水温が』摂氏二十五『度以上になると』、『死亡個体が出始める』。『夜行性』で、『日中は水底の浮き石の下、岩の隙間などに隠れており、夜間や水の濁った時に活動する。形態と同様、動作もドジョウに似ており、水底の石の間を伝いぬうように動き回る。肉食性で、主に水生昆虫を捕食する』。『卵はゼリー状の物質に守られ、ひとかたまりに産み付けられる』とある。

 以上の記載から、丹洲の図とキャプション、特に本図の魚の産地(棲息域)と「アカザ」の分布は合致する

 問題は『側線が胸鰭の後ろ近辺までしかない』とする記載と図との不一致に見える点であるが、アカザについての恐らく最も詳しい解説と複数生体個体のカラー画像がある、サイト「雑魚の水辺」の「アカザ Liobagrus reiniをご覧戴きたいそこにある豊富な画像を見て戴くと、実際には側線染みたものが、尾部まであるように見える個体がかなりあるのである。さらに言うなら、丹洲の図は側線というよりも、本種独特の側線相当部分から体幹の上下方向に走る線上の模様或いは皺(彼はナマズであるから、鱗はない)を描いたのではないかと思われてくるし、また、この如何にも側線染みたものは実は死亡後の乾燥による体表面の収縮による体側面に出来た皺とも考えられるように私には思われる。

「ヒツウオ」不詳。「ウオ」はママ。当初、ギギを同定候補として考えていた時には、よく知られるように、彼らが音を出す(腹鰭の棘と基底骨を擦り合わせて「ギーギー」と低い音を出す。和名はそのオノマトペイアである)から、「ヒツ」は「しつ」で楽器の「瑟」ではないかと考えた(瑟は中国古代の弦楽器の一つで、箏(そう)の大きなもの。柱(じ)で調弦し,弦を抓んで奏する。二十五弦・二十三弦・十九弦などがあり、琴とともに奏されたが、現在は廃れた)。則ち、琴「瑟」(きんしつ)の弦を引っ掻くような音を出す「魚」である。ただ、アカザがギギ同様に鳴くかどうかは、確認出来なかった。ギギの発音行動から考えると、アカザも鳴いてもおかしくはないが、アカザが鳴くとする明確な記載を発見出来なかった。鳴くのであれば、これで注は終りとしてよいと思うが、もし鳴かないとなれば、最後に私の最終推理を示しておこう。「ヒツ」はやはり「シツ」で「瑟」のままである。但し、形、である。瑟は琴と読み換えてよい。そうして、再度、サイト「雑魚の水辺」の「アカザ Liobagrus reiniの画像をご覧戴きたいのだ。どうです、飴色に古色蒼然とした古い時代の琴(瑟)のような形をしているじゃあ、ありませんか!

 

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