栗本丹洲 魚譜 鮫魚ノ子 (サメの胎児)
[やぶちゃん注:図版は国立国会図書館デジタルコレクションの「魚譜」から。]
□翻刻1(原則、原典のママ)
鮫魚ノ子 何サメナルヤ未詳
日本橋魚肆ニテ
貰ヒ来ルヨシ 雞卵ノ如ニシテ和カ也
色モチヤボノ卵ニ
似タリ
大サ図ノ如シ
但シ口ナシ
□翻刻2(今まで通り、読み易く約物を正字化し、推定訓読して整序した)
「鮫-魚(サメ)」の子 何ザメなるや、未だ詳らかならず。日本橋、魚-肆(さかなや)にて、貰ひ来(きた)る、よし。雞卵の如にして、和(やはら)かなり。色も「チヤボ」の卵に似たり。大いさ、図の如し。但し、口、なし。
[やぶちゃん注:同定は私も不能。入手状況が不詳であるから、範囲を狭めることも難しいが、魚屋が入手したとなると、前に示されたような、所謂、卵生種の鞘に入った胎児ではなく、それなりに大きなサメが入手され、それを解体した際に、♀で、その体内から発見された未成熟胎児であった(口吻部も未だ癒着していて開口していない)可能性が高いようには思われる。縦縞模様が特徴だから、これが決め手になるのかも知れぬが、幼体なので私にはお手上げ。例えば、卵胎生で、日本橋の魚河岸に持ち込まれてもおかしくない、背中に白い縦方向への斑点(星)模様を有意に持つ(或いは胎児はこんな縞々かも知れんという全くの想像)、軟骨魚綱ネズミザメ上目メジロザメ目ドチザメ科ホシザメ属Mustelus
manazo を試みに挙げておく。
「チヤボ」「矮鷄」。ニワトリの一品種であるチャボ。現在、天然記念物。普通の鶏卵の黄身よりも赤味(橙味)が薄く、より黄色に見える。但し、江戸時代の鶏卵と現行のそれはまた、異なるであろうから、これは現行のニワトリの一般的な鶏卵とチャボの違いを述べておいた。]