甲子夜話卷之四 30 宇和嶋侯、御料理頂戴のとき豪飮の事
4-30 宇和嶋侯、御料理頂戴のとき豪飮の事
宇和嶋少將【伊達村侯】壯年の頃か、殿中饗應御料理頂戴ありしとき、御酒の酌に出たる御番衆に向ひ、御祝儀の御饗禮なり、これにて頂戴すべし迚、椀を出されけるに、御給仕の衆つぎかねて扣たるを、恩賜のものなり、是非と申ゆゑ、酌をせしに、滿椀を一息に飮ほし、今一つ迚二椀まで傾たり。その御番衆もあきれて御酌を引しと云。
■やぶちゃんの呟き
「宇和嶋侯」「甲子夜話卷之三 32 伊達村侯【遠江守】、人品の事」と同じく、伊予国宇和島藩第五代藩主伊達村候(だてむらとき 享保一〇(一七二五)年(或いは享保八年とも)生~寛政六(一七九四)年)のことであろう。そこにも『常に酒を好めり』と出る。
「椀を出されけるに、御給仕の衆つぎかねて扣たる」「扣たる」は「ひかへたる」。持参した大振りの茶椀(将軍家より拝領した恩賜の茶椀ではある)で、殿中饗応(将軍家がホスト)の席上では例のない、ある意味でホストへの失礼な仕儀であったことから、相手をした御番方が吃驚し、躊躇もしたのであろう。
「傾たり」「かたむけたり」。
「御番衆もあきれて御酌を引し」「引(ひき)し」。そのマイ椀が相当な量が入るものであったから、それを二杯まで一気飲みされては、万一、酔って粗相があっては酌をした御番方も咎められると考えて、三杯目を所望される前に、そそくさと退いたのだろう。
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