明恵上人夢記 61
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又、夢に、上師、死人(しびと)の頭(かうべ)を持てり。半頭(はんづ)なり。今、之を見るに、汝之(の)母方之(の)祖母之(の)後世(ごぜ)、之を訪(とぶら)ふべしと云々。
[やぶちゃん注:「60」夢に続いており、大項目としての「59」夢の三つ目に当たる。「60」夢の冒頭注と全く同じ様態(状況・属性)である。必ず、「60」夢の冒頭注を参照のこと。
「死人の頭(かうべ)」「かうべ」は私の読み。「かしら」や「あたま」でもよいが、ここは生首ではなく、私は古い頭蓋骨、それも「半頭」、則ち、頭骨、しゃれこうべの上辺の「鉢」の部分だけなのだ、と私は読む。本夢はホラーなのではない。だから、髑髏(どくろ)の左右の半面なんかでは絶対にあり得ないし、一見すると、古い土器のように見えるものなのだと、私は一読した瞬間、イメージされた。明恵の母方の祖母の、既に葬られて久しい以前の、既に朽ち欠けた瓦(かわらけ)のようになった、それなのだ、と私は強く思うのである。そのように訳した。
「汝之母方之祖母」私はここにきて、やはり「上師」を上覚房行慈としてよかったのだと確信した。何故なら、彼は明恵の母方の叔父で、出家当初からの師だからである。]
□やぶちゃん現代語訳
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また、こんな夢も見た。
上覚上師が、その手に、何か瓦(かわらけ)のようなものを持っておられる。
それは、よく見ると、死人(しびと)の小さな髑髏(しゃれこうべ)の一部なのであった。
そうして、それは、髑髏の上の方の半分、鉢のところに当たるものなのであった。
そして、上師が私に、徐ろに命ぜられた。
「――今、私は、この遺骨を見たのであるが、明恵よ、この――汝の母方の祖母の後世(ごぜ)――これを、しっかりと弔わねばならぬ……」…………