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2018/04/23

大和本草卷之十四 水蟲 介類 鱟 附「大和本草諸品圖」の「鱟」の図 参考「本草綱目」及び「三才圖會」の「鱟」の図 一挙掲載!

 

[やぶちゃん注:『栗本丹洲自筆「鱟」(カブトガニ)の図』を電子化注した関係上、ここで、七項目飛ばし、先に「鱟」(カブトガニ)の条を電子化することにした。また、今回は本「大和本草」の附録にある「諸品圖」のブットンだ(まるでご当地ユルキャラ「かぶとがにくん」!)の図も合わせて電子化する。但し、「諸品圖」の方は、底本としている「学校法人中村学園図書館」公式サイト内の宝永六(一七〇九)年版のそれではなく、国立国会図書館デジタルコレクションのこちらの画像(「大和本草
」十六巻附録二巻「諸品図」二巻」とするもの)を底本とし、画像をトリミングして示した。裏の透けがひどいので補正を加えて清拭してあるので、原画よりも明るいものの、線は薄くなっている
。]
 

 

○「大和本草」「鱟魚」本文

鱟(〈右ルビ〉カウ)魚(〈以上の二字に左ルビ〉カブトガニ) 海邊ニアリ西州ニテウンキウト云又カブトガニト云

其形カフトニ似タリ只甲ノ下ニアリ目ハ背中ニアリ左

右隔レリ蟹ノ目ヨリヒキク其形ニハ目小ナリ足ハ腹下ノ

左右ニ各五アリ合十アリ足ノサキニ皆ハサミアリ蟹ノ足

ニ似タリ腹ニ廣キ薄片六アリテカサナリツヾケリ蝦(エビ)ノ腹ノ

薄片ノ如ニ乄大ナリ腰ニツギメアリテテフツガヒノ如ク折(ヲ)レ

カガミ自由ナリ尻ノ方ノメクリニ長キ刺(ハリ)多シ形大ナレトモ

肉少ナシ人食セス海邊往々有之其甲ハ鱉ノ如ク圓

シ又蟹ノ甲ニ似タリ魚ノ類ニハアラス鼈蟹ノ類ナリ本

草ノ圖ニ魚ノ形ニエカケリ非ナリ三才圖繪ニモ同シ但

二書共ニ形狀ヲ説(トケ)ルハカブトカニ也無ㇾ疑只其所ㇾ圖(エカク)ハカ

フトガニヽアラス其形ヲ不見シテ繪カケルニヤ殻ハ用テ

舟ノ中ノ水ヲクム尾長シ尾ノ末用テ燈心ノ枝トス其口

足尾トモニ人ヲ傷ラス雌(メ)ハ雄(オ)ヲ負(ヲ)テ海ニ入ル本草及

三才圖繪等ノ書ニ載ル處ノ鱟魚カブトガニト能合ヘリ

異物ナリ其大七八寸一尺アマリ竪橫同頭ナシ

 

○「大和本草」「鱟魚」本文のやぶちゃんの書き下し整序文(送り仮名ではなく、一部に訓読の便宜のために推定で歴史的仮名遣で語句や読みを補ったところは〔 〕で示した)

 カウ〔ギヨ〕

「鱟魚」

 カブトガニ

海邊にあり。西州にて「ウンキウ」と云ふ。又、「カブトガニ」と云ふ。其の形、「かぶと」に似たり。只、甲〔(かふ)〕の下に〔蟹本體は〕あり。目は背中にあり、左右、隔〔(へだ)た〕れり。蟹の目より、ひきく、其の形〔の割〕には、目、小なり。足は腹の下の左右に各〔(おのおの)〕五つあり、合はせて十あり。足のさきに、皆、「はさみ」あり、蟹の足に似たり。腹に廣き薄片〔(はくへん)〕、六つありて、かさなりつゞけり。蝦(えび)の腹の薄片のごとくにして、大なり。腰につぎめありて、「てふつがひ」のごとく折(を)れ、かがみ〔すること〕、自由なり。尻の方のめぐりに、長き刺(はり)多し。

形、大なれども、肉、少なし。〔故に〕人、食せず。

海邊、往々に之れ有り。

其の甲は鱉〔(すつぽん)〕のごとく圓〔(まろ)〕くし〔て〕、又、蟹の甲〔(かふ)〕に似たり。魚の類ひには、あらず。鼈〔(すつぽん)〕・蟹〔(かに)〕の類ひなり。

「本草」の圖に、魚の形にえがけり。〔然れども、これ、〕非なり。「三才圖繪」にも同じ。但し、二書共に形狀を説(とけ)る〔それ〕は「カブトガニ」なり。〔そは、〕疑ひ無し。只、其の圖(えが)く所は「カブトガニ」にあらず。其の形を見ずして、繪がけるにや。

殻は、用ゐて、舟の中の水を、くむ。

尾、長し。尾の末、用ゐて燈心の枝〔(ささへ)〕とす。

其の口・足・尾、ともに人を傷〔(きづつけ)〕らす。

雌(め)は雄(お)を負(を)ひて海に入る。

「本草」及び「三才圖繪」等の書に載る處の「鱟魚」、「カブトガニ」と能〔(よ)〕く合(あ)へり。

異物なり。其の大いさ、七、八寸〔から〕一尺あまり。竪・橫、同じ。頭、なし。

 

□大和本草」附録「諸品圖」の「鱟魚」のパート画像(国立国会図書館デジタルコレクションより。ちょっと補正をし過ぎた) 

 

Yamatohonzouhuzukabutogani

 

□「大和本草」附録「諸品圖」の「鱟魚」本文(読み以外の訓点は省略)

ウンキウ

鱟魚カブトガニ

 其形狀載在本書

 葢諸州所

 稀有爲異

 物

 

図アシヽ

[やぶちゃん注:以上の一行は板行されたものではなく、誰かが手書きで加えたものである。その証拠に、「学校法人中村学園図書館」公式サイト内の宝永六(一七〇九)年版のそれには、これはない。 

 

□「大和本草」附録「諸品圖」の「鱟魚」のやぶちゃんの書き下し整序文

ウンキウ

鱟魚「カブトガニ」

其の形狀、載せて、本書に在り。葢〔(けだ)〕し、諸州、稀〔(ま)〕れに有る所〔にして〕、異物と爲〔(な)〕す。

 

図、あしゝ。

[やぶちゃん注:節足動物門鋏角亜門節口綱カブトガニ目カブトガニ科カブトガニ属カブトガニ Tachypleus tridentatus

『栗本丹洲自筆「鱟」(カブトガニ)の図』の注でも既に述べているが、再掲しておくと、通常の我々が知っている「蟹」(カニ)類は節足動物門甲殻亜門 Crustacea であるが、本カブトガニ類は鋏角亜門 Chelicerata であって、「カニ」と名附くものの、カニ類とは極めて縁遠く、同じ鋏角亜門 Chelicerata である鋏角亜門クモ上綱蛛形(しゅけい/くもがた/クモ)綱クモ亜綱クモ目 Araneae のクモ類や、その近縁の蛛形綱サソリ目 Scorpiones のサソリ類に遙かに近い種である(鋏角亜門には皆脚(ウミグモ)綱 Pycnogonida も含まれる。なお、現生カブトガニは全四種である)。従って、現代の生物学的知見では「大和本草」がここ(一連の蟹類)に入れているのは致命的な誤りであることにはなる。

 なお、最初の述べておくと、後に示した「大和本草」附録「諸品圖」であるが、これ、少なくとも魚類パートは全体に絵が粗く、博物図としては今一である。しかし、中でも、この「カブトガニ」の図は一際、目立って驚愕的で、パロディかシュールかと言いたくなる破格のスゴさを持つ。解説文があるから、益軒が描いて附けたようにも読めるのだが、私はどうもこの「諸品圖」の魚譜パートは、誰か後代の弟子辺りが大方を附したもののように思われてならない(図はどう見ても専門の絵師によるものとは思われないし、益軒の描いたと思われる簡略ではあるが、それなりに特徴を押さえた草木や鳥類パートとは描き方がやや異なるようにも見える)。因みに、「彩色 江戸博物学集成」(一九九四年平凡社刊)の「貝原益軒」でも、山下欣二氏が、『『大和本草諸品図』の魚類図には、大雑把なものが多い。水棲動物を空気中で描くのだから作画自体が困難ではあるが、これらの絵図は、益軒本人の作なのか、彼の死後余人が描いたものか不明だが、私は後説を採りたい』と述べておられる。以下、本文注をするが、未見の方は、『栗本丹洲自筆「鱟」(カブトガニ)の図』の注を先に読まれたい。そこで考証したことは以下では、原則、繰り返さないつもりだからである。

 なお、益軒はここでかなり詳しいカブトガニの形態や一部の生態(交尾)を述べており、その点では非常に優れた記載となっている。されば、先にウィキの「カブトガニ」にから、形態的特徴と生態を引用しておく(下線は益軒の本文と対応させるために私が引いた)。カブトガニ Tachypleus tridentatus は『カブトガニ類の仲間では日本に産する唯一の種であり、また』、『この類の現生種のうちでもっとも大型になるものである。全長(甲羅の先端から剣状の尾の先端まで)は雄で』七十センチメートル、雌では八十五センチメートルに『達するが、普通はもう少し小さく、それぞれ』雄で五十センチメートル、雌で六十センチメートルほどである。蛛形(クモ)類同様、『体は頭胸部と腹部、それに尾節からなる』。『頭胸部は甲状になっており、両側後方にやや伸びる。背面はなめらかなドーム状で、前方背面の両側と中心にそれぞれ一対の複眼と単眼がある腹面には附属肢などが並ぶ。最前列には腹眼と鋏状の鋏角、その後ろには五対の歩脚状附属肢があり、それぞれの基節には「顎基」(gnathobase)という咀嚼用の突起がある。口はその中心に開口する。最初のものは触肢であるが、特に分化した形ではない。第』一から第四『対の先端が鋏になっているが、雄では第一・第二脚の先端が雌を把持する構造に特化している』(この二対の鉤状爪で雌の甲辺縁の棘のない部分をつかまえて交尾をする)。『干潟で前進する為、後脚の先端はヘラ状となる。後脚の付け根付近には櫂状器があり、書鰓に流れる水流を作り出す』。『腹部は後ろが狭まった台形で、その縁に沿って』六『対の棘がある。雌ではこのうちの後方』三『対が小さくなっている。腹面には蓋板と』五『対の鰓脚が畳んでいる。蓋板の内側基部には生殖孔がある。鰓脚の内側には呼吸用の書鰓があり、鰭状の鰓脚で遊泳を行うこともある。頭胸部との接続部には』一『対の唇様肢(chilaria)という小さな付属肢が口側に向かっている』。以上の『多くの特徴は種としてのカブトガニに限らず、現生カブトガニ類』(他の三種は、カブトガニ属ミナミカブトガニ Tachypleus gigas・カブトガニ科マルオカブトガニ属マルオカブトガニCarcinoscorpius rotundicauda、及びカブトガニ科アメリカカブトガニ属アメリカカブトガニ Limulus polyphemus)『全般の共通性質である。本種の種小名tridentatusは「3つの棘」を意味し、これは本種のみにある腹部の剣尾との接続部に3つの小さな棘が並んでいる特徴に由来する(他種のこの部分は中心1本のみ)。他に腹部背側の黒い突起は他種よりも多く、オス成体の頭胸部前縁に窪みがあるのも本種特有の性質である』とある。以下、「生態」の項。『干潟の泥の溜まった海底に生息する。カブトガニはその体形から』、『泥に沈むことはない。ゴカイなどを餌にする。夏に産卵期を迎え、産卵された卵は数ヶ月で孵化し』、『十数回の脱皮を経て』、『成体になる。カブトガニの幼生は、孵化する以前に卵の中で数回の脱皮を行いながら成長し、それに合わせて卵自体も大きくなっていく特徴がある』。『メスの第一脚と第二脚は鋏状となっているのに対し』、『オスの第一脚と第二脚は鈎状になっていて、繁殖期にはこの脚でメスを捕縛し雌雄繋がって行動する姿が見られる』。『繁殖期以外にもオスはメスやメスと錯覚したカブトガニのオスや大型魚類、ウミガメなどに掴まる習性を持ち、その捕縛力も極めて強い。なお、メスの背甲部の形状全体が円を描くような形なのに対し、オスの背甲部は中央先端部が突き出ていることで区別できる。腹部の棘(縁ぎょく)の付き方も』、『メスが後の方の棘の発達が悪くなるというのも特徴である。これはオスがメスの背中につかまる際に邪魔にならないように適応した結果と思われる』。『瀬戸内海の干潟に生息するカブトガニは、夜間の満潮時に最も活発に活動する。カブトガニの行動は、「休息」、「背を下に向ける反転」、「餌探し・探索」、「砂掘り」の』四『タイプに分類でき』、一『日のうち』、九『割の時間は休息し、断続的な活動の大半はゴカイなどの餌探しに費やす』とある。

 なお、古い仕儀であるが、寺島良安和漢三才圖會 卷第四十六 介甲部 龜類 鼈類 蟹類にある「鱟(かぶとがに)」の項と私の注も是非、参照されたい。そのカブトガニはの図は、ちゃんとカブトガニだからね!

「西州」西海。西日本。ウィキの「カブトガニ」によれば、『日本国内の生息分布は』過去に於いては『瀬戸内海と九州北部の沿岸部に広く生息したが、現在では生息地の環境破壊が進み生息数・生息地域ともに激減した』(私の調べた限りでは、大阪湾(瀬戸内海の内ではある)でも見られた)とあり、『現在の繁殖地は岡山県笠岡市の神島水道、山口県平生町の平生湾、山口市の山口湾、下関市の千鳥浜、愛媛県西条市の河原津海岸、福岡県福岡市西区の今津干潟、北九州市の曽根干潟、大分県中津市の中津干潟、杵築市の守江湾干潟、佐賀県伊万里市伊万里湾奥の多々良海岸、長崎県壱岐市芦辺町が確認されているが、いずれの地域も沿岸の開発が進み』、『最近では生息できる海岸が減少し』、『ほとんど見ることができない』。『日本以外ではインドネシアからフィリピン、それに揚子江河口以南の中国沿岸から知られている。東シナ海にも生息している。インドネシアには』別の『二種も生息している』とある。より詳しい専門家の解説では、清野聡子氏の論文「カブトガニの形態・生態と流れの関係」(PDF)が非常に分かり易く、必読。

「ウンキウ」「カブトガニ」の筑前方言とも。語源は不詳。但し、『栗本丹洲自筆「鱟」(カブトガニ)の図』の「ウジキガニ」の私の注を参照。

「ひきく」低く。

「かがみ〔すること〕」屈むこと。強く折れ曲がる運動をすること。先の清野氏の論文「カブトガニの形態・生態と流れの関係」の『(1)前体と歩脚』を参照。前体部と後体部のジョイント部分で体を屈むように曲げた写真が載る。

「人、食せず」現在も食用にされるが、死に至る危険個体もあるので、例外的に再掲する。中国でカブトガニを食用とするという記事は「本草綱目啓蒙」などの本邦の諸本草書に記載があり、「本朝食鑑」の島田勇雄氏の訳注の第五巻(一九八一年平凡社東洋文庫刊)の「鱟」の最終訳注にも『中国では、小野蘭山の言うように食用に供したものであろう』とある。事実、カブトガニ類は現在も中国(南部)や東南アジアで食用にされている。但し、毒化個体が存在し、死亡例もあるようなので非常に危険である。ウィキの「カブトガニ」によれば、『日本においては』、概ね『田畑の肥料や釣りの餌、家畜の飼料として使われてい』ただけであるが、『中国やタイ等の東南アジアの一部地域ではカブトガニ類が普通に食用にされている。中国福建省では「鱟」(ハウ)と呼び卵、肉などを鶏卵と共に炒めて食べることが行われている。日本でも』、『山口県下関など一部の地域では食用に用いていたこともあったが、美味しくはないと言われている』。『大和本草は「形大ナレトモ肉少ナシ人食セス」、和漢三才図会は「肉 辛鹹平微毒 南人以其肉作鮓醬」としている』。『ただし、外観が似ているマルオカブトガニ』(カブトガニ科マルオカブトガニ属Carcinoscorpius rotundicauda)『など一部の近縁種には、フグの毒として知られるテトロドトキシンを持っており、食用には適さない。上記地域では食中毒事件がしばしば発生している』(下線太字やぶちゃん)。]

「海邊、往々に之れ有り」貝原益軒(寛永七(一六三〇)年~正徳四(一七一四)年)は筑前福岡藩主黒田光之に仕えた儒者で本草家であり、京に遊学したことはあるものの、その生涯の殆んどを福岡で過ごした当地はカブトガニの棲息地であり、益軒も親しく生体を観察出来る環境にあったのであり、ここでの生態上の記載の正確さも、実見ならではの感があるのである。それだけに、反して、「諸品圖」のあの図は、これ、頗るつきで不審と言わざるを得ないのである。

「鱉〔(すつぽん)〕」爬虫綱カメ目潜頸亜目スッポン上科スッポン科スッポン亜科キョクトウスッポン属ニホンスッポン Pelodiscus sinensis。現代中国語でもスッポンを指す。「鼈〔(すつぽん)〕」も同じ。

「本草の圖に、魚の形にえがけり」明の本草学者李時珍(一五一八年~一五九三年)の本草学のバイブルとも言うべき「本草綱目」(一五九六年刊・全五十二巻)に載る「鱟」(カブトガニ)の図。国立国会図書館デジタルコレクションの「本草綱目圖三卷」から画像を示す。キャプションは、

   *

十二足雌負雄行

   *

である(「十二足あり。雌、雄を負ひて行く」)。いやはや! これまた勝るとも劣らぬブッ飛びぶりだ! こりゃ何だ? タガメかいッツ!?! 上の(雄か?)の目がやっぱ、ユルキャラしとるがね! 

 

Onzoukoumokukabutoganizu

 

「本草綱目」の「鱟魚」本文(巻四十五)は以下。漢籍リポジトリものを、一部、漢字等を推定で操作して示した。

   *

鱟魚【音后祐。宋嘉。】

釋名時珍曰按羅願爾雅翼云鱟者候也鱟善候風故謂之鱟

集解藏器曰鱟生南海大小皆牝牡相隨牝無目得牡始行牡去則牝死時珍曰鱟狀如惠文冠及熨斗之形廣尺餘其甲瑩滑靑黑色𨫼背骨眼眼在背上口在腹下頭如蜣蜋十二足似蟹在腹兩旁長五六尺尾長一二尺有三稜如莖背上有骨如角髙七八寸如石珊瑚狀毎過海相負示背乗風而遊俗呼鱟㠶亦曰鱟其血碧色腹有子如黍粟米可爲醯醬尾有珠如粟其行也雌常負雄失其雌則雄卽不動漁人取之必得其雙雄小雌大置之水中雄浮雌沉故閩人婚禮用之其藏伏沙上亦自飛躍皮殻甚堅可爲冠亦屈為杓入香中能發香氣尾可爲小如意脂燒之可集鼠其性畏蚊螫之卽死又畏隙光射之亦死而日中暴之徃徃無恙也南人以其肉作鮓醬小者名鬼鱟食之害人

肉氣味辛鹹平毒藏器曰無毒瘡詵曰多食發𠻳及癬

主治治痔殺蟲【孟詵】尾主治燒焦治腸風血崩中帶下及産後痢【日華】

發眀藏器曰骨及尾燒灰米飮服大主産後痢但須先服生地黃蜜煎等訖然後服此無不斷膽主治大風癩疾殺蟲時珍

附方新一鱟膽散治大風癩疾用鱟魚膽生白礬生綠礬膩粉水銀麝香各半兩研不見星每服一錢幷華水下取下五色涎爲妙【聖濟總録】

殻 主治積年呷𠻳時珍

附方新一積年咳𠻳呀呷作聲用鱟魚殻半兩貝母煨一兩桔梗一分牙皂一分去皮酥炙爲末煉蜜丸彈子大每含一丸嚥汁服三丸卽吐出惡涎而瘥【聖惠】

   *

「三才圖繪」通常は「三才圖會」。明の王圻(おうき)とその次男王思義によって編纂された、絵を主体とした中国の類書(百科事典)。一六〇九年出版。全百六巻。「鱟」は巻九十三の「鳥獸五」に載る。Internet Archive当該の画像を縮小して掲げておく。こりゃまた、魚の二枚重ね! タマリマセンわ!

Sansaizuekabutogani

一応、キャプションを全部繫げて電子化しておく。「※」は(たけかんむり)の下の左に(さんずい)、右に(「果」の下の左右の「はらい」を除去した字)で意味不明であるが、削下の「栰」は「筏」(いかだ)の異体字である。「■」は私には判読不能であるが、どこか「※」の字と似ている気がするので「鱟■」で「鱟」の異名と読める。

   *

 鱟

鱟色青黑十二足足長五六寸悉在腹下舊説過海輒相負於背高尺餘如㠶俗呼爲鱟㠶又其衆如※栰名鱟■其相負則雌常負雄雖波濤終不鮮故號魚媚大率鱟善候風故其音如似

   *

「二書共に形狀を説(とけ)る〔それ〕は「カブトガニ」なり」『「本草」及び「三才圖繪」等の書に載る處の「鱟魚」、「カブトガニ」と能〔(よ)〕く合(あ)へり』上記を見るに(私は中国語は判らぬのだが)、それとなく確かに両書ともに、概ね、カブトガニらしい記述であることぐらいは判る

「其の形を見ずして、繪がけるにや」って益軒先生! 自分の本の図を棚上げしてもらっては困りますッツ!!!

「枝〔(ささへ)〕」推定訓。漢字が違う知れぬが、カブトガニの尾は尖っていて、確かに大きな蠟燭を突き立てるに、これ、もってこいだとは思うのである。

「傷〔(きづつけ)〕らす」「らす」では繋ぎが悪いが、仕方なく、かく訓じた。

「七、八寸〔から〕一尺あまり」二十二~二十四センチメートルから三十センチメートルほど。現在の標準個体よりかなり小振りであるが、尾までの全長ではなく、甲羅長(「竪・橫、同じ」という謂いはそれを強く指示しているように思う)を言っているとすれば、腑に落ちる。

「頭、なし」ヒ、ヒドい! あんまりだわ!]

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