栗本丹洲自筆「蛸水月烏賊類図巻」 ヤリイカ スルメイカ
ヤリイカ
スルメイカ
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらの画像を用いた。掲げた図も同じで、上下左右をトリミングしてある。キャプションは上記二行のみ。二個体の別種。実は私のミスで、この図は先の「タチイカ」(コウイカ Sepia (Platysepia) esculenta に同定)と「(無名イカの図)」(アオリイカ Sepioteuthis lessoniana に同定)の間にある。悪しからず。
しかし、これはキャプション通りには採れない。
まず、上の「ヤリイカ」とする図であるが、頭足綱鞘形亜綱十腕形上目閉眼目ヤリイカ科 Heterololigo 属ヤリイカ Heterololigo bleekeri にしては、体型がヤリイカのように「槍」状でなく、エンペラ(俗に言う「烏賊の耳」。イカ類の胴の、脚と反対側にある、三角形の「ヒレ」及び胴全体の縁に付属する「ヒレ」の部分)が小さく、胴先頭部に寄り過ぎている。
一方、下の図の「スルメイカ」であるが、これも、十腕形上目ツツイカ目スルメイカ亜目アカイカ科スルメイカ亜科スルメイカ属スルメイカ Todarodes pacificus にしては、胴が如何にも寸詰りで、スルメイカらしくないのである。
そこで、今回は裏技を用いてみた。例の磯野直秀氏の論文「日本博物学史覚え書XV」(『慶應義塾大学日吉紀要』(二〇一〇年十月発行)。PDFでダウン・ロード可能)の「衆鱗図」所収の図についての叙述部分を、ここで先に見て見たのである。すると、果せるかな、『ケンサキイカ(ヤリイカ)』及び『ジンドウイカ(スルメイカ)』とあるのであった。このそれぞれの丸括弧内が「衆鱗図」の原記載名であるから、これらが「衆鱗図」からの転写図である可能性がかなり高いと言える(但し、私は原画を見てはいないから断定は出来ない)。
されば、改めてその、ヤリイカ(誤)→ケンサキイカ(正)、及び、スルメイカ(誤)→ジンドウイカ(正)という観点から本図を見てみると、まさにそれが正しいように私には思えたのである。比較比定には、奥谷喬司先生の編になる最強のイカ図鑑である「全国いか加工業協同組合」の「新編 世界イカ類図鑑 ウェブ版」、及び、土屋光太郎・山本典暎・阿部秀樹共著の「イカ・タコガイドブック」(二〇〇二年TBSブリタニカ刊)と、ネット上の信頼出来る諸サイトを用いた。
されば、右上の「ヤリイカ」とする一個体は、
ヤリイカ科ケンサキイカ属ケンサキイカ Uroteuthis edulis のメヒカリイカ型
であると思われる。ウィキの「ケンサキイカ」によれば、ケンサキイカは、『ケンサキイカとして指されるゴトウイカ型、ずんぐりむっくりとしてブドウイカ型、特に小型のメヒカリイカ型の』三『つに分類されるが』、『遺伝的には同種であり』、『環境による変異であるとされる』。『主に大型の春季成熟群、やや小型の夏季成熟群、小型の秋季未成熟群の』三『つの成熟群が出現し、漁獲される』とある。本図はその、まさにその小型である秋季の未成熟群タイプのケンサキイカの小型群の一個体とするに相応しいと私には思われる。
一方、下の「スルメイカ」とする一個体も、やはり、
ヤリイカ科ジンドウイカ属ジンドウイカ Loliolus (Nipponololigo)
japonica
でこそ納得出来るのである。「本田技研」の「Honda釣り倶楽部」の「ジンドウイカ」の解説によれば、最大でも胴長十二センチメートル、体重五十グラム止まりの小型のイカで、ケンサキイカやヤリイカの幼体と似る(そういう意味でも自然、この図のようにケンサキイカと、このジンドウイカを並べて見たくもなろうというものだ)。先が尖らない、太く短い胴の半分ほどの位置に、四角くて角に丸みがある鰭があり、腕は太く(特に第二、三腕)、胴に比べて大きいなどの特徴から区別することが出来る、とあるのも本図とよく一致するのである。]


