栗本丹洲巻子本「魚譜」 アマダイ (シロアマダイ)
豫州
アマダイ
大洲侯■圖
[やぶちゃん注:国立国会図書館デジタルコレクションのこちら(「魚譜」第一軸)の画像の上下左右をトリミングして用いたが、本図は魚体の頭部の尖端部分が切れているため、合成を施してある(今回の場合、二枚の画像の明度に微妙な差があるために、合成部がはっきり判ってしまうが、画像調整をすると、却って他の部分の色彩に変化が起こって、原画の色調バランスを損なうことから、補正は行っていない)。
伊予国(愛媛県)産の、
条鰭綱スズキ目スズキ亜目キツネアマダイ科 Malacanthidae(アマダイ(甘鯛)科 Branchiostegidae)アマダイ属 Branchiostegus
の一種であるが、真写(原物の描画)でなく、転写の可能性も高いものの、頭部の形状と色彩から見て、
シロアマダイ Branchiostegus albus
と思われる。本邦で水揚げされるアマダイ類を比較するには、「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」の「アマダイ属」からスタートするのが手っ取り早いが、画像は小さいものの、当該ページ五種のアマダイ種(総て別種)を見ても、本図がシロアマダイに最も近く、シロアマダイがそれらの中でも有意に形状と色が異なることが判る。ウィキの「アマダイ」によれば、「シロアマダイ」は体長六十センチメートルにも達する大型種で、和名通り、『体が白っぽく、「シラカワ」とも呼ばれる』。また、尾鰭には不透明な淡い黄色の横縞(横帯)が入る(本図では死んで時間が経っているからか、残念ながら全く描かれていない。言わずもがなであるが、魚の横縞とは頭を横にして魚体に対して縦方向、則ち、ここでは上から下に「垂直」が「横」である)。『本州中部からフィリピンまで分布し』、水深四十~六十メートルの砂泥底に生息する』。本邦産アマダイ類の代表種であるアマダイ三種、本種とアカアマダイ(Branchiostegus japonicus)及びキアマダイ(Branchiostegus auratus)の中では最大種にして、また最も美味とされ、珍重され、国内産では最も高価で取引される。「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」の「シロアマダイ」によれば、『国産は少なく』、『超高級魚』『であり、卸値でキロあたり』一『万円を超えることがある』ともある。なお、同ページによれば、「アマダイ」という和名は『肉に甘みがあるから』とされる一方、「尼鯛」とも漢字表記し、アマダイ類の『横顔が頬被をした尼僧に似ているから』とある。実は私はアマダイを実際に食べたのは、二十代の半ばで、それまで魚類図鑑でしか、見たことがなかった彼女らを、まともに「尼鯛」だと思い続けていた。確かに私には尼さんに見えたのである。なお、ウィキの「アマダイ」によれば、アマダイ類は『オキツダイ(静岡)、グジ(京都・舞鶴・大阪』『)、クズナ(大阪・福岡・壱岐)、コビリ、コビル(山陰地方)、スナゴ(愛媛)等』の地方名を有する。【2018年5月5日補正・追記】公開後、原画像を改めて見たところ、次の図版との繋ぎ目の左下端に文字列があることが判った(気がつかなかったために、私の画像では誤ってカットしてしまった。ここの国立国会図書館のスケールの二十八センチメートルと二十九センチメートルの間の上部)。合成をやり直すことも考えたが、合成は結構、神経を使い、現在、わけあってその作業をする余力がない。そこで、ここは追加で当該箇所を大画面で取り込み、そこだけをトリミングして翻刻の中に挿入して示すことにし、翻刻も追加した。三字目は潰れて判読不能できないが、「藏」か「寫」か、前者の方が自然のようには思われる。「大洲候」の「大洲」とは大洲(おおず)藩で伊予国大洲(現在の愛媛県大洲市)を中心に南予地方北東部から中予地方西部の伊予郡(現在の伊予市を中心とした地域)などを領有した藩であり、丹州の生没年から考えると、同藩第十代藩主加藤泰済(やすずみ 天明五(一七八五)年~文政九(一八二六)年)か、その長男で第十一藩主を継いだ加藤泰幹(やすもと 文化一〇(一八一三)年~嘉永六(一八五三)年)の孰れかである(丹州は天保五(一八三四)年没)。]
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