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2018/05/22

夏の夜   中原中也

 

    夏  の  夜

 

あゝ 疲れた胸の裡を

櫻色の 女が通る

女が通る。

 

夏の夜の水田(すゐでん)の滓、

怨恨は氣が遐くなる

――盆地を繞る山は巡るか?

 

裸足(らそく)はやさしく 砂は底だ、

開いた瞳は をいてきぼりだ、

霧の夜空は 高くて黑い。

 

霧の夜空は高くて黑い、

親の慈愛はどうしようもない、

――疲れた胸の裡(うち)を 花瓣が通る。

 

疲れた胸の裡を 花瓣が通る

ときどき銅鑼(ごんぐ)が著物に觸れて。

靄はきれいだけれども、暑い!

 

[やぶちゃん注:初行の「裡」にはルビがない。「水田(すゐでん)」の「ゐ」、「をいてきぼり」の「を」、はママ。

「滓」「おり」と読む。

「遐くなる」「とほくなる(とおくなる)」。「遠くなる」に同じい。

「繞る」「めぐる」。

「銅鑼(ごんぐ)」銅鑼(どら)。「ゴング(gong:マレー語語源の英語)」の当て読み。]

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