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« 大和本草卷之十四 水蟲 介類 鬼蟹(ヘイケガニ属他) | トップページ | 画像検索の悲哀 »

2018/05/05

大和本草卷之十四 水蟲 介類 津蟹(モクズガニ) / 大和本草卷之十四 水蟲 介類 ~了

 

【和品】

津蟹 山中ノ石川ニ多シ大サガザメノ如シ黑褐色ナリ

 足ニ毛多シ八月川上ヨリ下ニクタル山中ノ人笱ヲ流水

 ニツケ兩方ヲセキトヾム一夜ノ内ニ一笱ニ多ク入ル山人煮

 食ス又肉ヲアツメツキクダキ布袋ニ入汁ヲシホリ出シ肉

 餻トシ煮テ食シ炙リクラフ事カマボコウケイリト云法

 製ノ如ニス微毒アリ病人不可食平原ノ末流ニハ無之

 金瘡筋斷タルヲツグニツガニノ殻ニ黃肉ツケルヲ取テ土

 器ニ入陰乾ニシ爲細末乳汁ニ和シ疵ノ側ニ付ヘシ疵ヲ洗

 フゴトニツクヘシ○或曰此蟹河下ヨリ上ラス山中ノ谷水ニ

 生乄秋ハ下流ニ下ル鰷ノ如ク春ハ河下ヨリ上ラス

 

○やぶちゃんの書き下し文

【和品】

「津蟹(ツガニ)」 山中の石〔ある〕川に多し。大いさ、「ガザメ」のごとし。黑褐色なり。足に、毛、多し。八月、川上より下にくだる。山中の人、「笱(うけ)」を流水につけ、兩方を、せきとどむ。一夜の内に、一笱〔(ひとうけ)〕に多く入る。山人、煮て食す。又、肉をあつめ、つきくだき、布袋〔(ぬのぶくろ)〕に入れ、汁をしぼり出し、肉の餻〔(もち)〕とし、煮て食し、炙りくらふ事、「かまぼこうけいり」と云ひ、法製のごとくにす。微毒あり。病人、食ふべからず。平原の末流〔(すゑなが)れ〕には之れ、無し。金瘡〔(かなそう)〕、筋(すぢ)を斷〔(た)〕ちたるをつぐに、「ツガニ」の殻に黃肉つけるを取りて、土器〔(かはらけ)〕に入れ、陰乾〔(かげぼし)〕にし、細末と爲〔(な)〕し、乳汁に和し、疵の側〔(そば)〕に付くべし。疵を洗ふごとに、つくべし。

○或〔(あるひと)〕の曰はく、「此の蟹、河下より上〔(のぼ)〕らず。山中の谷水に生じて、秋は下流に下る。鰷〔(ハヤ)〕のごとく、春は河下より上らず」〔と〕。

[やぶちゃん注:以上を以って「大和本草」(最後の頁には『大倭本草』と表記している)の「卷之十四」は終わっている。

 本種も「大和本草卷之十四 水蟲 介類 蟹(カニ類総論)」に既出既注の、

短尾下目イワガニ科モクズガニ属モクズガニ Eriocheir japonica

である。ここでも特異的に料理法が詳しく書かれるほどに美味い(上海ガニ=チュウゴクモクズガニ Eriocheir sinensis は同属のごく近縁種)のであるが、リンク先でも述べた通り、肺吸虫(扁形動物門吸虫綱二生亜綱斜睾吸虫目住胞吸虫亜目住胞吸虫上科肺吸虫科Paragonimus 属ウェステルマンハイキュウParagonimus westermani・ベルツハイキュウチュウ Paragonimus pulmonalis:後者を前者の三倍体群として同種と見做す立場もあるが、採らない)がいるため、生食或いは十分に火や熱を通さない調理法はかなり危険である。本記載の「微毒あり」はそうした寄生虫症の可能性を経験から古人が知っていたのかも知れない。詳しくは私の「谷の響 二の卷 五 蟹羽を生ず」の「澤蟹」の注を参照されたいが、しかし、ここに書かれた「かまぼこうけいり」(「蒲鉾受け煎り」?)はその処理と調理方法から見ると、肺吸虫への感染リスクは意想外にかなり低いように思われるウィキの「生活史」の部分を以下に引いておく。『秋になると』、『成体は雌雄とも川を下り、河川の感潮域の下流部から海岸域にかけての潮間』帯から潮下帯で『交尾を行う。雄は海岸を放浪する習性が強く、交尾相手の雌を探して数』キロメートル『以上移動することも可能である。しかし』、『雄は繁殖可能な雌を識別することはできず、視覚でのみ相手を確認して求愛行動もなく接近し、雌に抱きつき』、強引に『交尾を挑む。相手をよく確認できないため場合によっては未成体の雌や雄、他種に抱きつくことさえある』。鉗脚の『毛は配偶行動において使われるという説があるが、モクズガニの交尾のプロセスを見る限り』、『全く関係が認められない。カニの中にはワタリガニ類など』で、『雌が脱皮直後の外骨格の軟らかい状態でのみ交尾をする種類がいるが、モクズガニの雌は外骨格が硬い状態で交尾をする。しかし』、『雌は産卵可能な程度に卵巣が発達していないと交尾を受け入れない。海域に出現する雌は必ずしも卵巣が発達していないため、雄を拒絶し、拒絶された雄が諦めて離れるのがしばしば観察される。放卵中の雌も雄を拒絶し、孵化させた後は次の産卵の直前でないと交尾を受け入れない。雌が雄を受け入れた場合は、数十分程』、『交尾が続く。交尾を解いたあと、雄は雌を抱きかかえ』、『他の雄に奪われないよう』、『交尾後ガードを行う。通常ガードは』一『日以内で終わる。大きな』鉗脚を『持った大きな雄ほど配偶成功率は高く、他のペアから雌を奪い交尾することや、ガード中に他の雄を追い払いながら雌をしっかりと捕まえておくことができる』。『雌は交尾後直径』〇・三~〇・四ミリメートル『程度の卵を産卵して腹肢に抱え、孵化するまで保護する。生涯産卵数は雌のサイズに応じて』二十万個から百万個の『幅がある。このような産卵生態は、海産の他のイワガニ類同様の小卵多産の傾向であり、海域へ多数の幼生を放出し分布域を拡大させる繁殖戦略であるといえる。胚発生に要する期間(抱される期間)は、水温に応じて』二『週間から』二『ヶ月以上の幅がある』。『孵化したゾエア幼生は』〇・四ミリメートル『たらずで、遊泳能力の乏しいプランクトン生活を送るが、この時期は魚などに多くが捕食され、生き残るのはごくわずかである。しかし』、『一方で』、『この時期の幼生は、浮力を調節したり』、『垂直方向に移動することで潮流に乗り、広く海域を分散すると考えられる。そのため』、『各河川に分布する個体群はそれぞれが孤立しているわけではなく、海域の幼生を通じてつながっているメタ個体群構造を成していると考えられる。それを裏付けるように、日本列島内では南西諸島を除くと』、『遺伝子レベルの差異が非常に小さく、実際に河川どうしの交流が盛んであることが明らかになっている』。『ゾエア幼生は』十『月や』六『月の水温の高い時期は』二『週間程度、冬の』十二月から二月にかけては、二~三ヶ月で五回の『脱皮をし、エビに似た形と遊泳法(腹肢による積極的な遊泳)を持つメガロパ幼生へと変態する。一般に完全に淡水適応したカニ類では幼生期間の欠落や短縮がみられるが(たとえばサワガニ類』『など)、モクズガニのゾエア』五『期、メガロパ』一『期という脱皮齢数は、他の海産のイワガニ類と比べても短いわけではなく、同様に浮遊幼生の期間を過ごしているということができる』。『遊泳能力の増したメガロパ幼生は、大潮の夜満潮時に潮に乗り、一気に海域から河川感潮域へ遡上する。メガロパ幼生は淡水に対する順応性が備わっており、満潮時以外』、『ほとんど淡水の流れる河川感潮域の上部に着底する。また』、『メガロパ幼生は流れに対し』、『正の走性があるため、瀬や魚道の直下に集中して着底する傾向がある』。『メガロパ幼生は』十『日前後で甲幅』二ミリメートル『程度の』一『齢稚ガニに変態する。着底時期は秋』(十月~十二月)『および晩春から初夏』(五月~六月)の二つの『ピークがある』。『稚ガニは変態後しばらく成長したのち、甲幅』五ミリメートル『程度になると』、『上流の淡水域へ遡上分散を開始し、おもに甲幅』一センチメートル『台の未成体が』、『成長しながら』、『かなり上流まで分布域を拡げる。このサイズの未成体は歩脚の長さが相対的に長く、移動するのに適した形態を持っており、垂直な壁もよじ登ることができる。そのため』、『遡上の障害になる河川に作られた横断工作物(堰など)も、ある程度の高さまではたやすく越える事ができ、魚道の護岸壁を水面から上がった状態で移動している個体も各地で目撃されている。いくつかの河川の魚道では、このようなカニが移動しやすいように、漁協や河川工事事務所により』、『麻などでできた太い綱が水面近くに垂らされている。また』、『この分散中の未成体は淡水魚に捕食される可能性が高く、ニゴイでは胃袋を大量のカニで満たしたものも確認されている。未成体は河川で成長し、冬季の低水温期を除き脱皮を続ける。変態後』一『年で甲幅』一センチメートル台、二年で二センチメートル『台に達し、多くは変態から』二~三『年経過したのち』、『夏から秋に成体になる』。『成体は』、『おもにその年の秋から冬にかけて川を下るが、地域によっては』、『春になってから下るものがいる。雨が降り』、『増水した時にカニの動きが活発になるので、下る個体が多い。堰のある川では、秋になると』、『しばしば川を下る成体が堰の直下の護岸壁にへばりついているのが観察される。しかし』、『滝や堰を下るカニには水に流されて落下するものも多く、落差の大きな堰やダム、堰の直下にコンクリート製のたたきがある川では、叩きつけられて死んでいるカニがみつかることもある。また』、『川を下る行動のピークは』十一『月頃であるが、感潮域ではこの頃になると、環境の変化に耐えられず』、『繁殖に参加する前に死んだと思われる成体の死骸が多数みられるようになる。また』、『この頃』、『陸上を移動する個体が観察されることもある』。『河口域から海域では』九『月から翌年』六『月にかけてのほぼ』十『ヶ月、繁殖に参加する成体が観察される。雌は』四~五『ヶ月の間に』三『回の産卵を行い、回を経るごとに産卵数は減少する。繁殖期の終わりになると雌雄とも疲弊してすべて死滅し、河口付近の海域では多数の死体が打ち上げられる。死骸はウミネコなど海鳥にとっては』、『よい餌となる。一度川をくだり』、『繁殖に参加すると、雌雄とも脱皮成長することなく』、『繁殖期の終わりには死亡するため、二度と』、『川に戻ることはない。寿命は産卵から数えると、多くは』三『年から』五『年程度と考えられ』ている。『これまで、モクズガニは祖先が海域から河川へと分布を拡げ、淡水環境での成長という形質を獲得したものの、歴史が浅く』、『サワガニ類のような完全な淡水環境での繁殖能力を獲得できていない、「まだ進化の途上にある種」とみなされることも多かった。しかし繁殖戦略や幼生の発生と分散から明らかなように、実際にはそうではなく、河川淡水域での成長と海域での繁殖による分布域拡大という、両方向の環境への適応を活用している種であるということができる』とある。この記載、非常に優れたもので、いたく感服した。

「ガザメ」短尾下目ワタリガニ科 Portunidae のガザミ属ガザミ Portunus trituberculatus。先行する「大和本草卷之十四 水蟲 介類 蝦魁(ガザミ)」を参照。しかし、甲羅の左右が有意に異なり、全く似ていない

「笱(うけ)」竹で編んだ、魚を捕まえるための靫(うつぼ)形(縦長のとっくりのような形)の籃で、魚が中の餌につられて入ると、出られなくなる仕掛けになっている。

「兩方を、せきとどむ」笱を置いた位置から少し離れた上下の川底を堰き止めて、笱の周囲の流れを緩やかにし、餌の匂いが滞留するようにしているように私には思われる。

「又、肉をあつめ、つきくだき、布袋〔(ぬのぶくろ)〕に入れ、汁をしぼり出し」「大和本草卷之十四 水蟲 介類 蟹(カニ類総論)」で書いた、私が飲んでみたい超危険なズガニ汁は、この汁なんである!

「肉の餻〔(もち)〕」肉団子。殻も入っているから、成形はそれほど大変ではない気がする。

「法製のごとくにす」これはその一連の「法製」(製法)は以上「のごとくにす」るのであるという、ややダメ押しの感のある結語である。

「金瘡〔(かなそう)〕」刀や包丁などの金属製の刃物による切り傷。しかし、以下の「筋(すぢ)を斷〔(た)〕ちたるをつぐ」という謂いと、本種の「ツガニ」(漢字表記は「津蟹」で棲息域から腑に落ちるのだが)という呼称を見ていると、これは実際に効能があるというより、傷や断裂した筋(すじ)を「つぐ(接ぐ)」と、名の「つがに(接(つ)ぐ蟹)」という掛詞的(フレーザーの類感呪術的)呪(まじな)いレベルの民間療法のような気がして仕方がないのであるが。或いは、蟹味噌の黄色い脂が「金瘡」の「金」を連想させるからかも知れん(それでも同前である)。如何なもんであろう? 本当に効果、あるのかしらん?

「土器〔(かはらけ)〕」完全に私の趣味の当て訓。

「此の蟹、河下より上〔(のぼ)〕らず。山中の谷水に生じて、秋は下流に下る」私がウィキを長々引いたのは、このある人の観察が、実は非常に正しいことに驚いたからである。

「鰷〔(ハヤ)〕」複数の種の川魚を指す。ハヤ(「鮠」「鯈」などが漢字表記では一般的)は本邦産のコイ科(条鰭綱骨鰾上目コイ目コイ科 Cyprinida)の淡水魚の中でも、中型で細長い体型を持つ種群の総称通称である。釣り用語や各地での方言呼称に見られ、「ハエ」「ハヨ」などとも呼ばれる。呼称は動きが速いことに由来するともされ、主な種としては、

コイ科ウグイ亜科ウグイ属ウグイ Tribolodon hakonensis

ウグイ亜科アブラハヤ属アムールミノー亜種アブラハヤ Rhynchocypris logowskii steindachneri

アブラハヤ属チャイニーズミノー亜種タカハヤ Rhynchocypris oxycephalus jouyi

コイ科 Oxygastrinae 亜科ハス属オイカワ Opsariichthys platypus

コイ科 Oxygastrinae亜科カワムツ属ヌマムツ Nipponocypris sieboldii

カワムツ属カワムツ Nipponocypris temminckii

などが挙げられる。]

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