鴾(松森胤保「両羽博物図譜」より)
[やぶちゃん注:画像は酒田市立図書館公式サイト内の「両羽博物図譜の世界」のものを用い、トリミングや補正は一切行っていない。この図の前頁に松森胤保による解説が載る(リンク先は同図書館の当該頁の画像)ので、本図の上部の箇所も含め、以下に翻刻した。但し、同サイトでは前頁部分については、新字で電子化翻刻がなされているので、それを加工用(口幅ったいが、私には私なりの電子化ポリシーがあり、訓読も私の解釈に従って行っている)に使用させて貰った。]
□翻刻1(原典のまま。【 】は二行割注。「霍」の字は「鶴」の異体字で、原典表記に一番近いと判じてそれで示した。最初の標題は原典では第一行は二字下げであるが、ブログのブラウザの不具合を考えて三行は引き上げてある)
鴾屬【鴾ハ古ノ俗字トス】 鸛霍部屬別之第三屬
鴾類 鴾(トキ)屬類別之其一類
鳭(トキ)種 鴾類種別之其一種
鴾屬朱鷺ニ作テ通用ス大サ大鷺ノ如シ然トモ
嘴翼大ニ其法ヲ異ニシ鷺觜直鋭鳭(トキ)觜弯弱鷺羽
大重鳭(トキ)羽小捷且霍ハ飛時首足ヲ延ヘ鷺ハ足ヲ
延ヘテ首ヲ疊ミ鳭ハ首ヲ延ベテ足ヲ疊ム啼声ダ
ヲーダヲート云カ如シ故俗又ダヲ又ドート云
春初百鳥ニ先テ來松樹ニ巢冬初去若鳥羽白ク
後ニ美ナリ肉血腥【或紅霍又鳭(チヤウ)又鴾又唐鳥(トウカラス)又ドウカラス
又桃花鳥又私記(トキ)又豆木(トキ)又登木等ニ作】
《改頁(上記画像部)》
鳭(トキ《右ルビ》/ドウ《左ルビ》)【明治十二年四月十三日】
重
長
幅
觜
足
一見而㒵怪物ノ如シ
田畔ニ遊ヒ丘蚓等ヲ
獲レハ洗テ食フト云フ
水田ニ獵シ山林ニ宿シ松樹
ヲ好ンテ之ニ巢フ
□翻刻2(概ね、カタカナをひらがなとし、句読点・記号等を添え、送り仮名の一部を推定で本文に出し、一部に推定で〔 〕で読みを歴史的仮名遣で附し、一部に読み易さを考えて[ ]で語句を添え、一部を連続させた。「如し」は漢文訓読法に従い、平仮名とした)
鴾屬【鴾は古〔いにし〕への俗字とす。】 鸛霍〔こふづる〕部屬別の第三屬
鴾類 鴾(トキ)屬類別の其の一類
鳭(トキ)種 鴾類種別の其の一種
鴾屬、朱鷺に作りて通用す。大いさ、大鷺〔おほさぎ〕のごとし。然れども、嘴〔くちばし〕・翼、大いに其の法を異にし、鷺、觜、直鋭[なるも]、鳭(トキ)[は]、觜、弱く弯〔(まが)れり〕。鷺、羽、大重[なるも]、鳭(トキ)、羽、小[さくして]捷〔はや〕し。且つ、霍〔つる〕は飛ぶ時、首・足を延べ〔れども〕、鷺は足を延べて首を疊み、[この]鳭は、首を延べて足を疊む。啼き声、「ダヲーダヲー」と云ふがごとし。故、俗、又、「ダヲ」、又、「ドー」と云ふ。春の初め、百鳥に先だつて來たり、松樹に巢くふ。冬の初め、去る。若鳥、羽、白く、後に美なり。肉、血腥さし【或いは「紅霍」、又、「鳭(チヤウ)」、又、「鴾」、又、「唐鳥(トウカラス)」、又、「ドウカラス」、又、「桃花鳥〔トキ〕」、又、「私記(トキ)」、又、「豆木(トキ)」、又、「登木」等に作る。】。
《改頁(上記画像部)》
「鳭(トキ《右ルビ》/ドウ《左ルビ》)」【明治十二年四月十三日。】
重さ
長さ
幅
觜
足
一見して、㒵[かほ]、怪物のごとし。田の畔〔あぜ〕に遊び、丘蚓〔みみず〕等を獲れば、洗ひて食ふ、と云ふ。水田に獵し、山林に宿し、松樹を好んで、之れに巢くふ。
[やぶちゃん注:鳥綱新顎上目ペリカン目トキ科トキ亜科トキ属Nipponia
Reichenbach,
1853種トキ Nipponia
nippon (Temminck, 1835)。既に電子化した「和漢三才圖會第四十一 水禽類 朱鷺(トキ)」や、トキの美麗な図『森立之立案・服部雪斎画「華鳥譜」より「とき」』も参照されたい。
「鸛霍〔こふづる〕部」これは「鸛」(こうのとり)の別名である。現在の上記の通り、トキはペリカン目 Pelecaniformes に属すが、実は近年までコウノトリ目 Ciconiiformes に入れられいたので、当時としては松森の認識は正しいのである。
「其の法」形状や生態上の機能。
「明治十二年」一八七九年。
「重さ」以下、「足」までは後の実測を期しての欠字となっているものと思われる。
「丘蚓〔みみず〕」ママ。蚯蚓。ミミズ。]
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