春の日の歌 中原中也
春 の 日 の 歌
流(ながれ)よ、淡(あは)き 嬌羞よ、
ながれて ゆくか 空の國?
心も とほく 散らかりて、
ヱジプト煙草 たちまよふ。
流(ながれ)よ、冷たき 憂ひ祕め、
ながれて ゆくか 麓までも?
まだみぬ 顏の 不可思議の
咽喉(のんど)の みえる あたりまで……
午睡の 夢の ふくよかに、
野原の 空の 空のうへ?
うわあ うわあと 涕くなるか
黃色い 納屋や、白の倉、
水車の みえる 彼方(かなた)まで、
ながれ ながれて ゆくなるか?
[やぶちゃん注:「嬌羞」「けうしう(きょうしゅう)」と読み、原義は「女性の嬌(なまめ)かしい恥じらい」の意。
「午睡」新潮社「日本詩人全集」第二十二巻「中原中也」では『ひるね』とルビするが、であれば、中也はルビを振ったであろう。響きからも私は「ごすい」と音で読みたい。サイト「中原中也・全詩アーカイブ」の本詩篇の電子化でも『ごすい』とされておられる。
「涕く」「なく」。]
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