殘暑 中原中也
殘 暑
疊の上に、寢ころばう、
蠅はブンブン 唸つてる
疊ももはや 黃色くなつたと
今朝がた 誰かが云つてゐたつけ
それやこれやと とりとめもなく
僕の頭に 記憶は浮かび
浮かぶがまゝに 浮かべてゐるうち
いつしか 僕は眠つてゐたのだ
覺めたのは 夕方ちかく
まだかなかなは 啼いてたけれど
樹々の梢は 陽を受けてたけど、
僕は庭木に 打水やつた
打水が、樹々の下枝(しづえ)の葉の尖(さき)に
光つてゐるのをいつまでも、僕は見てゐた
[やぶちゃん注:太字「かなかな」は原典では傍点「ヽ」。]