栗本丹洲自筆巻子本「魚譜」 紅■■ (イサキ)
紅■■ 奇鬣之異品
日東魚譜ニハナ
キ■■■是ナルヘ
シ是鰭尾黄色
因テ黄檣魚ニ
充ツ
[やぶちゃん注:国立国会図書館デジタルコレクションのこちら(「魚譜」第一軸)の画像の上下左右をトリミングして用いたが、本図は魚体が分断されて載っているため、合成したのであるが、それぞれのフィルムが微妙にずれているために上手く合成出来なかった。悪しからず。キャプションは虫食い甚だしく、判読が困難。肝心の冒頭の名前すら読めない。四行目の「是」は当初は「背・脊」或いは「只」と判読してみたものの、前者は意味は腑に落ちるものの、どうも崩し方がおかしく、後者では繋ぎが悪い(というか、意味があんまり感じられない)ので、「是」で採ったに過ぎない。推定で整序してみると、
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「紅■■」 奇〔なる〕鬣〔(ひれ)の〕異品。「日東魚譜」にはなき、「■■■」、是れなるべし。是れ、鰭・尾、黄色。因つて、「黄檣魚」に充つ。
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となるか。「日東魚譜」は神田玄泉(生没年不詳:江戸の町医。出身地不詳)の著の、全八巻から成る本邦(「日東」とは日本の別称)最古の魚譜とされるもの。魚介類の形状・方言・気味・良毒・主治・効能などを解説する。序文には「享保丙辰歳二月上旬」とある(享保二一(一七三六)年。この年に元文に改元)。但し、幾つかの版や写本があって内容も若干異なっており、最古は享保九(一七一九)年で、一般に知られる版は享保一六(一七三一)年に書かれたものである。「黄檣魚」は直前に出たが、そこで同定したスズキ目スズキ亜目ニベ科キグチ属キグチ
Larimichthys polyactis ではあり得ない。「最早、お手上げ」と言いたいところなのだが、実はこの図、所持する「彩色 江戸博物学集成」(一九九四年平凡社刊)の田中誠氏(東京衛生局)の「栗本丹洲」のパートの図(百九十八ページ)に掲載されており、田中氏によって『イサキ(ただし体色は異常)』と同定されてあるので、
スズキ目スズキ亜目イサキ科イサキ属イサキ Parapristipoma
trilineatum
としておく。確かに、体色以外はよくイサキに合う。他人の褌相撲であるが、これも悪しからず。]
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