フォト

カテゴリー

The Picture of Dorian Gray

  • Sans Souci
    畢竟惨めなる自身の肖像

Alice's Adventures in Wonderland

  • ふぅむ♡
    僕の三女アリスのアルバム

忘れ得ぬ人々:写真版

  • 縄文の母子像 後影
    ブログ・カテゴリの「忘れ得ぬ人々」の写真版

Exlibris Puer Eternus

  • 吾輩ハ僕ノ頗ル氣ニ入ツタ教ヘ子ノ猫デアル
    僕が立ち止まって振り向いた君のArt

SCULPTING IN TIME

  • 熊野波速玉大社牛王符
    写真帖とコレクションから

Pierre Bonnard Histoires Naturelles

  • 樹々の一家   Une famille d'arbres
    Jules Renard “Histoires Naturelles”の Pierre Bonnard に拠る全挿絵 岸田国士訳本文は以下 http://yab.o.oo7.jp/haku.html

僕の視線の中のCaspar David Friedrich

  • 海辺の月の出(部分)
    1996年ドイツにて撮影

シリエトク日記写真版

  • 地の涯の岬
    2010年8月1日~5日の知床旅情(2010年8月8日~16日のブログ「シリエトク日記」他全18篇を参照されたい)

氷國絶佳瀧篇

  • Gullfoss
    2008年8月9日~18日のアイスランド瀧紀行(2008年8月19日~21日のブログ「氷國絶佳」全11篇を参照されたい)

Air de Tasmania

  • タスマニアの幸せなコバヤシチヨジ
    2007年12月23~30日 タスマニアにて (2008年1月1日及び2日のブログ「タスマニア紀行」全8篇を参照されたい)

僕の見た三丁目の夕日

  • blog-2007-7-29
    遠き日の僕の絵日記から
無料ブログはココログ

サイト増設コンテンツ及びブログ掲載の特異点テクスト等一覧(2008年1月以降)

« 進化論講話 丘淺次郎 第十六章 遺傳性の研究(二) 二 遺傳する性質の優劣 | トップページ | 大和本草卷之八 草之四 裙蔕菜(ワカメ) »

2018/05/27

大和本草卷之八 草之四 索麪苔(サウメンノリ) (ウミゾウメン)

 

【和品】

索麪苔 サウメンニ似テ長キ藻也色黑シ味甘乄美ナリ

 鹽ニツテ或灰ニ和シテホシ用ユ煮テ食ス或薑醋ニ浸シ

 食フ其漢名ト性ト未詳冷滑ノ物不益于人

○やぶちゃんの書き下し文

【和品】

「索麪苔(〔サウメン〕ノリ)」 「さうめん」に似て、長き藻なり。色、黑し。味、甘くして、美なり。鹽につけて、或いは灰に和して、ほし、用ゆ。煮て食す。或いは薑醋〔(しやうがず)〕に浸し、食ふ。其の漢名と性〔(しやう)〕と、未だ詳かならず。冷滑〔(れいかつ)〕の物、人に益せず。

[やぶちゃん注:和名及び様態と処理法から、

紅藻綱ウミゾウメン(海素麺)目ウミゾウメン亜目ベニモヅク科ウミゾウメン属ウミゾウメン Nemalion vermiculars(本邦では今一種、ウミゾウメン属ツクモノリ Nemalion multifidum も植生するが、以下はウミゾウメンを記述する)

と同定する。主に田中次郎著「日本の海藻 基本284」(二〇〇四年平凡社刊)によれば、学名は属名「Nemalion」が「糸のような」、種小名「vermiculars」が「回虫の形をした」。日本各地の潮間帯中部の岩礁域に生え、長さは十~十五センチメートル(但し、諸本記載では二十センチメートル程度ともある)、太さ(付着部下部も藻体上部もあまり変わらずに伸びる)二~三ミリメートル。『岩上に数十本が並ぶ様はまさしく太いそうめんである。ただし』、『乾燥すると干そうめんのように細くなる』。『分岐しない円柱状のからだをも』ち、『粘液質で』、『大変』、『ぬるぬるする』。『生品は熱湯をかけて、乾燥品は水にもどして、二倍酢、酢味噌、味噌汁にして食する』(私は味噌汁が好きである)。「ぼうずコンニャクの市場魚介図鑑」の「ウミゾウメン」によれば、『晩春~夏にかけて日本海沿岸でとれて、生もしくは塩漬けで出回る。乾物もあるが』、『あまり見かける機会はない』。『表面がぬめっとして軟らかく、海藻らしい風味もある。吸物や酢のものなどにして食べると非常に美味』とし、別に『そのまま生で食べる。また』、『湯に通すと青くなるが』、『火を通しすぎると』、『ネバリが出る』とあり、『太くてぬるぬるするものが新しく』、『美味しい』。『ゆでてもあまり色は変わらない』とある。宮下章氏の「ものと人間の文化史 11・海藻」(一九七四年法政大学出版局刊)には、『青萌黄色で美しい』とあり(陸に上がっているものや標本は褐色に見える場合が多いが、藻体の一部や状態によっては全体が鶯色に見える)、食用には『熱湯をそそ』ぐことを処理としている。『保存法としては、灰乾、素乾、塩蔵があ』り、ミル(緑藻植物門アオサ藻綱イワズタ目ミル科ミル属ミルCodium fragile)『と同様に九州の北部、山陰地方でよく食べる。採取期は春いっぱい』で、『江戸の昔はこれを桶に盛り、塩を入れ、四方に売り歩いたという』とある。

「冷滑〔(れいかつ)〕の物、人に益せず」というのは現在も生食もするから不審である。「心太(ココロフト=トコロテン)の項で示したような、近年、問題となっているプロスタグランジンE2由来の重い中毒機序や、猛毒アプリシアトキシンaplysiatoxin 中毒のことを言っているとはとても思われない。本種にプロスタグランジンE2が含まれているかどうかも不明だし(リンク先の私の注を読んで戴くと判るが、プロスタグランジンE2自体が有毒なのではない)、アプリシアトキシン aplysiatoxin 中毒の可能性は現在でも、あったとしても、非常に稀れであると考えられている。そもそもが、それらの重い中毒症状(孰れも死亡例あり)を指しているとすれば、「人に益せず」(人に有益な効果を齎さない)などというなまっちょろい書き方はしない。或いは、中国の本草書に載らないことから(実際、学名で中文で検索を掛けても引っ掛からないので、中国では本種は一般的に知られていないようではある。同属が植生しないことはないと思うのだが?)、万一のことを考え、益軒は火を通さないものは警戒すべしと、単に注意書きしたものかも知れぬ。今一つ私が考えたのは、別な「海素麺」の誤食である。腹足綱異鰓上目後鰓目無楯亜目アメフラシ科アメフラシ属アメフラシ Aplysia kurodai やその近縁種の卵塊は(梅雨時期の岩礁帯の浅瀬などでしばしば見られる)、黄色やオレンジ色を呈して細長い素麺のような塊状を呈することから、広く全く同じく「海素麺(うみぞうめん)」と呼ばれている。しかし、これには弱毒性が認められており、食べると、下痢を起こすことがある。但し、色が鮮やか過ぎるし(その色だけで私は食う気がしない。試しにちょっとだけ生食してみたことはあるのだが、まずい)、塊りという形状が全く異なり、真正の海藻のウミゾウメンと誤認することは真正のウミゾウメンを知っている者にはあり得ない。ただ、私はしばしば海岸観察の途中でこれを見つけ、同行者に「アメフラシの卵だ」と示し、『通称「うみぞうめん」と言うのだ』とを伝えると、全員、最初の質問は「食べられる?」という問いであったことも、また、事実ではある。

« 進化論講話 丘淺次郎 第十六章 遺傳性の研究(二) 二 遺傳する性質の優劣 | トップページ | 大和本草卷之八 草之四 裙蔕菜(ワカメ) »