紅玉 北原白秋
かかるとき、
海ゆく船に
まどはしの人魚(にんぎよ)か蹤(つ)ける。
美くしき術(じゆつ)の夕(ゆふべ)に、
まどろみの香油(かうゆ)したたり、
こころまた
けぶるともなく、
幻(まぼろし)の黑髮きたり、
夜(よ)のごとも
わが眼(め)蔽(おほ)へり。
そことなく
おほくのひとの
あえかなるかたらひおぼえ、
われはただひしと凝視(みつ)めぬ。
夢ふかき黑髪の奥(おく)
朱(しゆ)に喘ぐ
紅玉(こうぎよく)ひとつ、
これや、わが胸より落つる
わかき血の
燃(もゆ)る滴(したたり)。
[やぶちゃん注:北原白秋「邪宗門」中の「靑き花」より。底本は易風社明四二(一九〇九)年刊の「邪宗門」を用いた。太字「ひし」は底本では傍点「ヽ」。]
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