村の時計 中原中也
村 の 時 計
村の大きな時計は、
ひねもす動いてゐた
その字板のペンキは、
もう艷が消えてゐた
近寄つてみると、
小さなひびが澤山にあるのだつた
それで夕陽が當つてさへが、
おとなしい色をしてゐた
時を打つ前には、
ぜいぜいと鳴つた
字板が鳴るのか中の機械が鳴るのか
僕にも誰にも分らなかつた
[やぶちゃん注:なにがなし、私はこの小品が、好きだ。あたかもタルコフスキの映像を見るかのようなのだ。サイト「中原中也・全詩アーカイブ」の本詩篇の解説、及び同サイトの複数の他のページを見ると、初出(「或る夜の幻想」という長い詩の一部)は『四季』の昭和一二(一九三七)年三月号(同年二月二十日附発行)であるが、創作自体は古く(昭和八(一九三三)年十月十日)、しかも初出以後、非常に複雑な経緯を辿って作者自身によって分割されてここに所収されていることが判る。それについては次の「或る男の肖像」で、初出形を再現することで注したいと思うので、ここはこれだけにしておく。]
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