栗本丹洲自筆巻子本「魚譜」 ベニシマダイ (クルマダイ)
ベニシマダイ 刺鬣一種名
[やぶちゃん注:国立国会図書館デジタルコレクションのこちら(「魚譜」第一軸)の画像の上下左右をトリミングして用いた。前の「ハナシマダイ」の下方に張られたもので、本図の魚体の高さは巻子の縦幅の三分の一ほどしかなく、貼り交ぜ帖のように、下部貼り付けで、中間は貼り付け台紙の地が現われてしまっている。則ち、前の二種のような大きさでは描かれていない。キャプションは下部の擦れがあるが、以上でいいと思われる。「刺鬣一種名」は「刺鬣(きよくれふ)の一種の名」で「棘鬣」は「棘鬣魚」(キョクリョウギョ)で鯛の異称。背鰭が「刺(とげ)」の「鬣(たてがみ)」状になっていることに由来する。しかし、本種は明らかに狭義の鯛類(条鰭綱スズキ目タイ科 Sparidae)の仲間とは思われない。というより、底本の磯野先生の解題にも、この巻子本「魚譜」(「軸1」と呼称されている)は「鯛」の名がつく魚を計七十九品所載するのであるが、『本物のタイの類は少なく、コブダイ(ベラ科)やイシダイ(イシダイ科)などが大半を占める』とあり、本魚譜の種同定は困難を極める。しかも、前の「ハナシマダイ」同様、この「ベニシマダイ」という名も異名としても残っていない模様で、困るのである。しかし、やはり前回同様、この死語となった異名もヒントとなる。これは「紅縞鯛」であろう。さすれば、紅・朱色の強い魚体色で、しかも「縞」を有し、この場合は図から、背部から腹部への真っ直ぐな横縞(朱色と有意に薄く褪色したものの帯縞でそれが尾鰭基部まで続いている)であることが判る。魚体の頭部周辺の剥離欠損が著しいものの、左目がかなり大きいこと、口吻が有意に大きく、死後に大きく上下に開いている状態、釣り上げた直後から恐らくそうなるような性質を持つ魚、の写図と判断できる。さらにキャプションを問題にするなら、「棘鬣」から本種の背鰭は、図では畳んでペタンとなってしまっているけれども、実は強い棘状を示しているのではないかとも疑われるのである。以上の点を踏まえると、私は本種は、やや小振りの幼魚かとも思われる、
スズキ目スズキ亜目キントキダイ(金時鯛)科クルマダイ属クルマダイ Pristigenys niphonia
に同定したくなるのである。キントキダイ(金時鯛)科 Priacanthidae の魚は眼球が非常に大きいことが最大の特徴であり、現代中国語でも「大眼鯛科」と称する。和名「車鯛」は車の「輪」のように丸い体型の「鯛」に似た形状や色をした魚の謂いで、成体は二十センチメートル前後まで大きくなり、側扁して左右から見ると有意に丸みを帯び、でかいギョロ目、背鰭は激しい棘状を成すトゲトゲのそれであって、ディズニーの「ニモ」に出そうなキャラクタライズされた如き形状なのであるが(グーグル画像検索「Pristigenys niphonia」を見よ)、英文サイト「Fishes of Australia」の本種のページ「Whiteband
Bigeye, Pristigenys niphonia (Cuvier
1829)」の右コンテンツの「Species
Image Gallery」の三枚目(右端)の本種の画像などは、そのように強く丸くもなく、縞も比較的薄く、背鰭も寝た状態で棘条が全く目立たず、本図とよく一致すると私は思う。本種は口が大きく、死後に下顎が下がって開いてしまい、このようにカッパと開いている画像が釣りサイトなどで多く見られる。]
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