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2018/05/28

大和本草卷之八 草之四 紫菜(アマノリ) (現在の板海苔原材料のノリ類) 附・川苔(カハノリ) (カワノリ)

 

紫菜 本草水菜類ニ載タリ海中石ニ付テ生ス靑色

 ナリ取テ乾セハ色紫ナリ又ホシテ色靑キモアリ味甘

 シ處々ニ多シ武州ノ淺草ノリ品川苔下總ノ葛西ノリ

 雲州ノ十六島モ皆紫菜ノ類ナリウツフルヒトハ海中ノ

 苔ヲトリ露ヲ打フルヒテホス故ニ名ツクト云コノ苔ノ名

 ニヨリテ其島ノ名ヲモウツフルヒト云凡此ノリ諸州有之

 地ニヨリテ形色少カハル紫菜ヲ食シテ腹痛スルニ熱醋

 ヲ少ノメバヨシト本草ニ見ヱタリ又河苔ハ水草門ニシルス

○やぶちゃんの書き下し文

「紫菜(アマノリ)」 「本草」は「水菜類」に載せたり。海中〔の〕石に付きて生ず。靑色なり。取りて乾かせば、色、紫なり。又、ほして、色、靑きもあり。味、甘し。處々に多し。武州の「淺草ノリ」・「品川苔〔(シナガハノリ)〕」、下總の「葛西〔(カサイ)〕ノリ」、雲州の「十六島(ウツフルヒ)」も皆、紫菜の類なり。「ウツフルヒ」とは海中の苔をとり、露を打ちふるひてほす故に名づくと云ふ。この苔の名によりて、其の島の名をも「うつふるひ」と云ふ。凡そ此の「ノリ」、諸州〔に〕之れ有り。地によりて、形・色、少しかはる。

紫菜を食して腹痛するに、熱〔き〕醋〔(す)〕を少のめばよし、と「本草」に見ゑたり。又、河苔〔(かはのり)〕は「水草門〔(すいさうもん)〕」にしるす。

[やぶちゃん注:以上の本文に挙げられている個別の「海苔類」の内、『武州の「淺草ノリ」』・「品川苔〔(シナガハノリ)〕」・『下總の「葛西〔(カサイ)〕ノリ」』は単に産地を被せた加工食品化したそれの名称であって、すべてが、

紅色植物門紅藻亜門ウシケノリ綱ウシケノリ目ウシケノリ科アマノリ属アサクサノリ Pyropia tenera

である(しかし、悲しいかな、現在の当該地で絶滅(海域消失を含む)或いは殆んど見ることが出来ない絶滅危惧種である)。現行では一九六二年頃から、愛媛県西條市玉津で上記の変種である、

オオバアサクサノリ Pyropia tenera var. tamatsuensis

が、一九七〇年頃には千葉県袖ケ浦町奈良輪で、アサクサノリとは別種の、所謂、「岩海苔」系の、

アマノリ属スサビノリ(荒び海苔)Pyropia yezoensis

の品種、

アマノリ属ナラワスサビノリ(奈良輪荒び海苔)Pyropia yezoennsis form. narawaensis

が、何れも養殖漁業者の手で確立された(その結果として、これらの病気に強く育てやすい養殖品種が普及し、アサクサノリ野生種の養殖はされなくなって絶滅のスピードは急速化したわけでもある。東京湾湾奧での野生のアサクサノリはほぼ絶滅したと見られていたが、近年、多摩川河口域で少数が発見されてはいる)。また、他に、

アマノリ属オニアマノリ Porphyra dentata

も板海苔の原材料の主体となっている(別地域ではアサクサノリも少数養殖されてはいる)。

 但し、ここに出る『雲州の「十六島(ウツフルヒ)」ノリ』はそれらとは異なり、近縁種の「岩海苔」の一種である、

アマノリ属ウップルイノリ Porphyra pseudolinearis

である。なお、このウップルイノリは島根県出雲市島根半島十六島(うっぷるい)地区(島根半島西方の十六島湾沿岸を中心とした地域。ここ(グーグル・マップ・データ))で採れたことに由来する。(このウップルイノリを採って打ち振って日に乾す「打ち振り」が訛ったとする説を益軒はまことしやかに記すが、他の海藻類だとするならまだしも、この岩礁にへばり付いているウップルイノリは、摘み採って「笊で水切りする」のであって、「打ち振って処理するタイプの海藻ではないから、私は信じ難い。現在も朝鮮語の古語で「多数の湾曲の多い入江」という意とする説、アイヌ語説(発音的にはそれらしい)、十六善神(じゅうろくぜんしん:四天王と十二神将とを合わせた計十六名の、「般若経」を守る夜叉神とされる護法善神のこと)信仰と関連するなど、諸説あるものの、定かでない。

 宮下章は「ものと人間の文化史 11・海藻」(一九七四年法政大学出版局刊)の第二章「古代人の海藻」の「(二)海藻の漢名と和名」の「神仙藻(アマノリ) 紫菜(ムラサキノリ)」の項で、『現今われわれのいう「海苔(のり)」に対し』て、我々の『祖先は』それを『「アマノリ」と名づけていた。文字が渡来してから、その漢名は「神仙菜」「紫菜」であることがわか』り、『紫菜の漢字を訓読みするとムラサキノリとな』り、『隨唐文化に心酔していた奈良平安朝時代の支配階級は、本来の名称であるアマノリより、ムラサキノリの方を好んで使った。その習慣は実に約一千年にわたって根強く残り、明治時代までは公用文書には紫菜、ムラサキノリが用いられた』とある。しかし、『平安朝末期は、紫菜、神仙菜から甘海苔』(アマノリ)へと表記が『変わる過渡期で』、『その当時書かれた『宇津保物語』には紫菜と甘海苔の両文字が使われている。鎌倉期以降になると公用文書に紫菜が使われるほかは、通常には甘海苔がが使われだ』し、『さらにこれが江戸時代になると海苔に変わるのである』とある。また、『中国の唐代の書物を見ると「紫菜は海中では青いが、乾せば紫色になる」と無造作に断定している。確かに良質のノリは乾して抄』(す)『きあげれば、紫色は点々と耀くが、全体の感じは赤味がかった黒い艶をしていて紫色は強くはない。海中にある生ノリは、紅色だが多少は紫色がかって見えるのもある』。『もしも古代中国人が、この紫色を鋭敏にとらえて紫菜と名付けたのなら感嘆のほかはない。が、「乾せば紫色になる」との説明にもあるように』、『乾燥してからの紫色に眼を向けている。ノリは乾燥してのち』、『放置しておけば湿気を帯び、いわゆる「カゼヒキノリ」になり』、『紫変する』。『古代中国の首都の多くは大陸の奥深くにあった。新羅や山東半島(あるいは日本か)から送られたノリは、管理の知識の乏しい昔のことだから、日ならずして紫変してしまう(日本のようにノリの香を重んじない中国ではこれでも十分に味わえる)。実際に生ノリを見たことのない宮廷学者が、これをノリ本来の色と見て紫菜と名づけたのではなかろうか。いずれにしろ、紫菜という表現は、わが「アマノリ」にくらべれば、表面的、皮相的なものといえる』。『新鮮なノリほど、甘い芳香があり、噛みしめるほどに甘味の出てくるものだ。この醍醐味を適確にとらえた名称がアマノリである。二種の名は、大陸の奥地に都をおく国と、四面環海、豊かな海産を謳歌した国との、ノリに寄せる心情の差異が生み出したものといえよう』とすこぶる肯んぜられる海苔論を展開しておられる。

『「本草」は「水菜類」に載せたり』巻二十八の「菜之四」「水菜類六種」に以下のように載る。

   *

紫菜【「食療」。】

釋名紫、【音、軟。】。

集解【詵曰、「紫菜、生南海中附石。正靑色。取而乾之、則紫色。」。時珍曰、「閩越海邊悉有之。大葉而薄。彼人挼成餠狀、晒乾貨之。其色正紫。亦石衣之屬也。】

氣味甘寒、無毒【藏器曰、「多食令人腹痛、發氣吐白沫、飲熱醋少許、卽消。】

主治熱氣煩塞咽喉、煮汁飲之【孟詵】。病癭瘤脚氣者、宜食之【時珍。】。

發明【震亨曰、凡癭結積塊之疾、宜常食紫菜。乃鹹能軟堅之義。】。

   *

『河苔〔(かはのり)〕は水草門〔(すいさうもん)〕にしるす』本巻の前の方にある(但し、表記は「川苔」)。これは思うところあって、ここで電子化しておく。

   *

【和品】

川苔 川苔モ海苔ニ似タリ處々ニアリ冨士山ノ麓柴川

 ニ芝川苔アリ冨士ノリトモ云日光苔ハ野州日光ノ川ニ

 生ス菊池苔ハ肥後ノ菊池川ヨリイヅ。ホシテ遠ニヲクル。ア

 マノリニ似タリ肥後水前寺苔ハ水前寺村ノ川ニ生ス乾

 シテ厚キ紙ノ如ナルヲ切テ水ニ浸シ用ユ此類諸州ニアリ

やぶちゃんの書き下し文

【和品】

「川苔(〔カハ〕ノリ)」 川苔も海苔〔(ウミノリ)〕に似たり。處々にあり。冨士山の麓、柴川に「芝川苔〔(シバカハノリ)〕」あり、「冨士ノリ」とも云ふ。「日光苔」は野州日光の川に生ず。「菊池苔」は肥後の菊池川より、いづ。ほして、遠くに、をくる。「アマノリ」に似たり。肥後「水前寺苔」は水前寺村の川に生ず。乾して厚き紙のごとくなるを、切りて水に浸し、用ゆ。此類、諸州にあり。

   *

こちらも注しておくと、「川苔」は純淡水性藻類の日本固有種、

緑藻植物門トレボウクシア藻綱
Trebouxiophyceae
カワノリ目カワノリ科カワノリ属カワノリ Prasiola japonica

で、ウィキの「カワノリによれば、『かつては緑藻綱アオサ目』Ulvales『に分類されていたが、系統学的な研究により』、近年、『トレボウクシア藻綱に分類が改められた』。『岐阜県や栃木県、熊本県などの河川に生息し、日本海側の河川からは発見されていない』。『渓流の岩石に着生して生活するが生息数は少なく』、『日本では絶滅危惧種に指定されている』。『アオサのような緑色のうすい葉状体を形成し、長さはおよそ』十~二十センチメートル。『主に無性生殖で繁殖するが、接合子をつくり』、『有性生殖する例も知られている』。『遊走子はもたない』。『夏から秋にかけて採集され、川海苔として食用にされる』。『産地の河川名を頭につけて呼ばれることもあり、大谷川のり、桂川のり、菊池のり』、『芝川のりなどと呼ばれる川海苔が存在する』とある。なお、勘違いしている人が多いので(誰も指摘しないが、正直、生物学的には商品名に問題があると私は思っている)、一言言っておくと、四万十川上流には本種も植生するが(流通はしない)、一般に市販されて目にする「四万十の川のり」として知られるものは、四万十川河口附近で採取される海産藻類である、

アオサ目アオサ科アオノリ属スジアオノリ Enteromorpha prolifera

であって、狭義のカワノリではない

「芝川」現在の静岡県富士宮市芝川付近を流れる。(グーグル・マップ・データ)。

「肥後の菊池川」熊本県を流れる。(グーグル・マップ・データ)。

『肥後「水前寺苔」は水前寺村の川に生ず』九州の一部だけに自生する食用の淡水産稀少藍藻類である、

藍藻綱クロオコッカス目クロオコッカス科スイゼンジノリ Aphanothece sacrum

のこと。茶褐色で不定形、単細胞の個体が寒天質の基質の中で群体を形成、郡体は成長すると川底から離れて水中を漂う。但し、現在も熊本県熊本市東区中央区江津にある上江津湖((グーグル・マップ・データ))に国天然記念物「スイゼンジノリ発生地」はあるものの、一九九七年以降、水質の悪化と水量の減少により、ここのスイゼンジノリはほぼ絶滅したと分析されている(現在、自生地としては福岡県朝倉市の黄金川一箇所のみ。附近(国土地理院地図))。本種は熊本市の水前寺成趣園の池で発見され、明治五(一八七二)年にオランダの植物学者ウィレム・フレデリック・レーニエ・スリンガー(Willem Frederik Reinier Suringar)によって世界に紹介された。因みにこの種小名sacrumは英語の“sacrifice”で「聖なる」を意味する。これは、彼がこの藍藻の棲息環境のあまりの清浄なさまに驚嘆して命名したものという。ただ、近年では人口養殖に成功し、食用に生産されている他、スイゼンジノリの細胞外マトリックス(Extracellular Matrix:生物細胞の外側を外皮のように覆うように存在している超分子構造体)に含まれる高分子化合物の硫酸多糖であるサクラン(Sacran:種小名に由来)が重量比で約六千百倍もの水分を吸収する性質を持つことから、保湿力を高めた化粧水に応用されたり、サクランが陽イオンとの結合によってゲル化するという性質を利用、スイゼンジノリを原料に生産したサクランを工場排水などに投入してレア・メタルを回収する研究などが行われているという(以上は主にウィキの「スイゼンジノリ」及びそのリンク先に拠った)。]

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