大和本草卷之八 草之四 カヂメ(カジメ(但し、アラメ・クロメ・サガラメ・ツルアラメも同定候補に含む)
【和品】
カチメ 又サガラメト云海帶ニ似テ細ク狹シ皺アリホシタ
ルヲキサミテ羹ニ加ヘレハ賤民ノ食也又此物竿頭
ニ多クツケテ火災ヲケスニ用ユ火ニモヱズシテヨシアラメニ
同シ
○やぶちゃんの書き下し文
【和品】
「カヂメ」 又、「サガラメ」と云ふ。海帶(アラメ)に似て、細く狹〔せば〕し。皺、あり。ほしたるを、きざみて、羹〔あつもの〕に加へれば、賤民の食なり。又、此物、竿〔の〕頭に多くつけて、火災をけすに用ゆ。火にもゑずして、よし。「アラメ」に同じ。
[やぶちゃん注:褐藻綱コンブ目レッソニア科 Lessoniaceae カジメ属カジメ Ecklonia cava。田中次郎著「日本の海藻 基本284」(二〇〇四年平凡社刊)によれば、属名は人名に因み、種小名は「空洞の」。『太平洋沿岸の中部から南部の水深』二~十メートルに『海中林をつくる代表種』で、『茎の上に』十五~二十『枚の帯状の葉が出る。葉はさらに分岐をする場合も多い、クロメ』(Ecklonia kurome)『に似るが』、『葉のしわはほとんどな』く、アラメ(Ecklonia bicyclis)『と同じような場所に生育するが、一般にカジメの方が水深は深く』、二~十メートルほど(アラメは五メートルぐらいまでで、カジメは茎部が枝分かれしないのに対してアラメは二分岐し、側葉の表面が波打たずに平滑である点などで異なる)。この二種が『同じ場所に生育する場合、混生することはあまりなく、水深ですみ分けている。寿命は場所によって異なるが』、四~六年とされる。『細く切って乾燥させ、佃煮や酢の物として食する』とある。ウィキの「カジメ」によれば、『地方によっては、浴槽に入れて入浴する「かじめ湯」という習慣がある』とあり、また、『九州北部では主に味噌汁などの汁物に入れて食される。アラメと比べ』、『分布範囲も水揚げ量も流通量も少なく、古くからヨードチンキなどの薬品の素材となって来た』ことから、『一般的にアラメよりカジメの方が高価である。アラメがカジメとして流通していることも多い。一方、アラメとカジメが完全に入れ替わっている例も多く、方言とも取れる。アラメに比べ』(太字下線やぶちゃん)、『アルギン酸の含有率が高いため、汁物入れると』、『カジメの方がよく粘る。特に産地である九州北部では混同が多い』から、『食用として本来のカジメを求める場合は注意が必要である』とある。なお、消火用の「はたき」に用いることから、つい、「カジメ」の「カジ」は「火事」かと思いたくなるが、漢字表記は「搗布」であり、これは乾して搗き叩いて粉末にすることに基づく。そうした処理から別に「末滑海藻」で「カジメ」とも呼んだ。但し、益軒のこの簡略な記載だけでは、文字通りの「カジメに限定同定することは出来ない。何故なら、ここで異名のように出す「サガラメ」も、現行では、別種アラメ属サガラメ Eisenia arborea に標準和名として使用されており(【2020年9月12日追記】主に東海地方沿岸に分布する同種サガラメは、これまで北アメリカに分布する種と同一とされてきたが、本邦の研究者によって別の種であることが分かり、学名を Eisenia nipponica と本年一月に新たな独立種として新改称している)、それも「アラメ」と呼ばれることがあり、また、他にカジメの同属であるカジメ属ツルアラメ Ecklonia stolomifera も「アラメ」と呼ばれたりしているので、これら総てが本記載の同定候補と成り得るので、ややこしい。因みに、底本としているここで異名のように出す「サガラメ」も現行では同属の別種アラメ属サガラメ Eisenia arborea に使用されており(【2020年9月12日追記】主に東海地方沿岸に分布する同種サガラメは、これまで北アメリカに分布する種と同一とされてきたが、本邦の研究者によって別の種であることが分かり、学名を Eisenia nipponica と本年一月に改称している)、それも「アラメ」と呼ばれることがあり、また、他にカジメ属ツルアラメ Ecklonia stolomifera も「アラメ」と呼ばれたりしているので、これら総てが本記載の同定候補と成り得るので、ややこしい。なお、底本とさせて戴いている「中村学園大学図書館」公式サイト内の「貝原益軒アーカイブ」・「大和本草」にある「目次」には、本項の部分に『カヂメ(今名アラメ、現在のかちめは異なる)』として、カジメを同定候補からはずしてさえいるのである。但し、これはやや乱暴な仕儀で、では、「海藻類」の筆頭に立項してある「海帶」の方は何だというのか? ということになってしまうからである。カジメ以外のカジメに似たカジメでない種の海藻は、一体、どこへ行ったの? とブー垂れられることになるからである。
「羹」「熱物(あつもの)」の意。魚や鳥の肉・野菜を入れた熱い吸い物。]