栗本丹洲自筆巻子本「魚譜」 方頭魚 (シロアマダイ)
方頭魚
ヲキツダイ
クヅナ【九州】
アマダイ【東國】
伊与宇和嶌《いようわじま》ノ産
長サ一尺九寸許《ばかり》
幅四寸五分許
[やぶちゃん注: 国立国会図書館デジタルコレクションのこちら(「魚譜」第一軸)の画像の上下左右をトリミングして用いた。これは本巻子本「魚譜」の二番目に出現した大型の図「豫州 アマダイ」(「豫州」は伊予国で現在の愛媛県)とほぼ同じである(図のサイズは三分の二以下と小さいが、描いた個体が同じ「伊与」(「伊豫」の誤記(略記))産とあるから、同一個体を描いたものかも知れぬ(だとすれば、以下に記す図の拙劣さから、こちらが一回目の素描と思う)。但し、持ち込まれたのが複数個体であった可能性もあろう)から、まず、文句なしに、それと同じく、
条鰭綱スズキ目スズキ亜目キツネアマダイ科アマダイ属シロアマダイ Branchiostegus albus
に同定してよい。但し、頭部や口腔の描写の質感、鰓の形状描出、鱗の細部の描き込みなどの点で、先の図より、遙かに劣る。価値はデータとしてのキャプションだけと言ってもよい。
本種はその体色から、市場では現在、「シラカワ」(白川・白皮)と呼ばれることが多いが、それ以外にも単なる「アマダイ」を始めとして、現在でも多様な方言名・流通名を持っており、「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」の「シロアマダイ」のそれらが列挙される。その中に「クズナ」「ムラサキクヅナ」の名を見出せ、他のサイトを調べると、「キンクズナ」(長崎)があり、また、先の「ムラサキクズナ」は鹿児島での呼称とする。また、既に先行する「方頭魚(アカアマダイ)」で注した通り、アマダイ類は別名「オキツダイ」(興津鯛)(静岡)とも呼ばれる(この由来も示したが、再掲しておくと、「おきつ」という名の奥女中が、徳川家康にこの魚を献じ、賞味されたからという説、及び興津(現在の静岡県静岡市清水区の地名。この附近(グーグル・マップ・データ))辺りで多く漁獲されたから、とも言われる)。
「伊与宇和嶌《いようわじま》」現在の愛媛県宇和島市。ここ(グーグル・マップ・データ)。
「長サ一尺九寸許《ばかり》」全長約五十七センチ六ミリ。
「幅四寸五分許」体高十三センチ六ミリ。]