諸國里人談卷之四 宮城野萩 / 卷之四~了
○宮城野萩(みやぎのゝはぎ)
奧州宮城野の萩は、木萩(こはぎ)にて灌木のごとく、尋常(よのつね)の草萩とは異に(こと)して、弓などに作る木也。又、「本〔もと〕あら木萩〔こはぎ〕」といふは、梢に靑き枝生(おひ)て、その枝に花さくゆへ[やぶちゃん注:ママ。]、「本のあらはなる」と云〔いふ〕事也。
宮城㙒ゝ本あら木萩露おもみ露をまつごと君をこそまて
むかし爲仲といふ人、みちのくの任(にん)なりけるが、任はてゝ登られける時、宮城㙒の萩を長櫃十二合に入〔いれ〕て登りければ、京入(きやういり)の日、二條大路に、人、おほくあつまり、車、あまた、立〔たち〕たると云々。
國里人談四之終
[やぶちゃん注:ここは「宮城野」の比定地を私の「譚海 卷之二 仙臺宮城野萩の事」で、まずは参照されたい。そこで私は若林区の北に接する現在の宮城野区の仙台市街の中心にある榴ケ岡(つつじがおか)辺りから東及び南に広がる平野部で、この国分寺周辺域までの内陸平原一帯が原「宮城野」原であると考えてよいとした。また、ここで言う「宮城野」の「萩」は、通常のマメ目マメ科マメ亜科ヌスビトハギ連ハギ亜連ハギ属 Lespedeza である。「宮城野萩」という和名を持ち、宮城県の県花にも指定されている萩の一種、ハギ属ミヤギノハギ Lespedeza
thunbergii なる種が存在するが、本種は宮城県に多く自生はするものの、近代になって歌枕の宮城野の萩にちなんで命名されたものであるから、本種に比定することは出来ない。特に本邦に自生するハギ類で我々が普通に「萩」と呼んでいるものはハギ属ヤマハギ亜属(模式種ヤマハギLespedeza bicolor。芽生えの第一節の葉がハギ亜属では互生し、ヤマハギ亜属では対生する違いがある)のものである旨の記載がウィキの「ハギ属」にはある。ここで「木萩」と言っている「灌木」のような、優位に木部の太いものは、マメ科ハギ属キハギ Lespedeza buergeri を指すか。「樹げむ舎」のサイト「木のぬくもり 森のぬくもり」の「キハギ」を見られたい。沾涼の「本〔もと〕あら木萩〔こはぎ〕」の意味も花の写真で納得出来るし、分布は本州・四国・九州。中国及び朝鮮とあり、写真を見るとシッカリガッチリ「木」してて「弓」にも作れそう!]
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