大和本草卷之八 草之四 コモ (考証の末に「アカモク」に同定)
【和品】
コモ 細莖長ク乄穗ノ如クナル小キニシテ丸キ物多クツケ
リタヽキテ羹トスホタハラニ似タリ又菰ハ水草ナリ別ナリ
○やぶちゃんの書き下し文
【和品】
「コモ」 細莖、長くして、穗のごとくなる小さきにして丸き物、多くつけり。たたきて羹〔(あつもの)〕とす。「ホタハラ」に似たり。又、菰〔(こも)〕は水草〔(みづくさ)〕なり。別なり。
[やぶちゃん注:「コモ」という和名の海藻は現行では見当たらない。しかし、
①茎が有意に細長い(ということは藻体全体が有意に長いと言い換えてよいであろう)。
②極めて特徴的な小さな穂のような丸いものが、数多く藻体に形成されている。
③「ホタハラ」=ホンダワラに似ている。
④敲いて味噌汁のタネとする。
というからには、
褐藻綱ヒバマタ目ホンダワラ科
Sargassaceae
或いは同科の
ホンダワラ属 Sargassum
の仲間である(③)とまず考えてよいのではないかと思った。
その中でも、私が最初に想起したのは、
長さ三~五センチメートルにも達する、ホンダワラ属の中でも最も巨大な雌性雄性の生殖附属器の枝を持つ(②)、
褐藻綱ヒバマタ亜綱ヒバマタ目ホンダワラ科ホンダワラ属バクトロフィクス亜属 Bactrophycus スポンゴカルプス節 Spongocarpus アカモク(赤藻屑)Sargassum horneri
であった。鈴木雅大氏のサイト「生きもの好きの語る自然誌(Natural
History of Algae and Protists)」のアカモクのページによれば、益軒の言うように、『雄性生殖器床は細い円柱形』で、『雌性生殖器床は雄よりも太い円柱形』を成し、『気胞は円柱形で細長い形態をしてい』るとあるのである。さらに鈴木氏は、
《引用開始》
アカモクはコンブ類に匹敵するほど大型になる海藻ですが,その大きさについては様々な説が飛び交っています。一般的には3-5 m位と考えられていますが,日本海のように透明度の高い条件では「30 mを超えるアカモクの大森林がある」という話もあります。さすがに30 mは言い過ぎと思わなくもないですが,5 mを超える個体があるのは確かで,ホンダワラ属の中でも群を抜いて大きくなる種です。海藻の大きさの記録を取るのは難しく,「世界一」,「日本一」と安易に決定することは出来ませんが,現在日本の海藻の中で最長と考えられているナガコンブ(Saccharina
longissima,注)に次ぐか匹敵する大きさの海藻と言えるかもしれません。公式には何mとなるのか,気になるところです。
注.ナガコンブは通常2~10 m,最大で20 mに達すると言われています。
《引用終了》
と記されておられるのは、本種が有意に長大に成り、それは本邦産海藻類で最長の種に入る可能性を持つ(①)ことを明らかにされておられるのである。事実、田中次郎著「日本の海藻 基本284」の「アカモク」は『長さ 10m を超す個体もよく見られる』とあるのである。ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のアカモクのページによれば、『食べる地域と食べない地域にくっきり分かれる海藻』で、『日本海富山県、新潟県、山形県、秋田県などでは盛んに食べている』とあり、『生殖器床が顕著になった時期にゆでると』、『ネバリが出る。これを摘み取り、湯通しして、醤油、酢みそ、七味唐辛子などで食べる』とし、味噌汁については、『水洗いしたアカモクを適宜に切り、カツオ節だし、煮干しだしなどに入れてみそを溶く。簡単にできて』、『とても味のいいみそ汁になる』とあるのである(④)。なお、「あかもく(赤藻屑)」という和名については、『暖かくなると』、『切れて海上を藻屑となって漂うため』とそこにある。
これでもうキマリであろう。
「菰〔(こも)〕は水草〔(みづくさ)〕なり。別なり」単子葉植物綱イネ目イネ科エールハルタ亜科 Ehrhartoideae Oryzeae 族マコモ属マコモ Zizania
latifolia。ウィキの「マコモ」によれば、『東アジアや東南アジアに分布しており、日本では全国に見られる。水辺に群生し、沼や河川、湖などに生育。成長すると大型になり、人の背くらいになる。花期は夏から秋で、雌花は黄緑色、雄花は紫色。葉脈は平行』である。]
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