諸國里人談卷之四 塩泉
○塩泉(しほのいづみ)
下野國日光山の北、七、八里がほどに栗山(くり〔やま〕)と云〔いふ〕溫泉あり。此所の山に少しの洞(ほら)あり。此滴(したゝ)り潮(しほ)水也。燒(やか)ずして、その儘に食物(しよくもつ)につかふに、味ひ、燒(やき)たる塩のごとし。弘法大師の加持ありし所と云り。此所は至極の山中にて、海邊(うみべ)へは四日路(ぢ)を過〔すぎ〕たり。米穀の貧しき所也。
此溫泉は諸々の痔の病ひを治(ち)す事、神變なり。
[やぶちゃん注:塩泉連投。前条でも紹介した「たばこと塩の博物館だより」の同館学芸員高梨浩樹氏の第十五回『「移動」をともなわない塩適応(その2)』に、『栃木県塩谷郡栗山村』(現在の日光市栗山。ここ(グーグル・マップ・データ)。東照宮の北山間部、湯西川の南)として、松浦静山の「甲子夜話」に『「塩泉の水を食物に用いれば焼塩と変わらない味だという」と記述があ』り(私は「甲子夜話」の電子化注を手掛けており、全巻所持するが、膨大な量なので当該項は今は探さない。判ったら、ここで追加して電子化する)、「諸国里人談」にも『この塩泉は「焼かずにそのまま調理に使っても、甘い焼き塩のようだ」と記述がある』と本条が紹介されてある。しかし、ここでの製塩については、少なくともネット上ではロクな記載は見当たらない。今のうちに採話しておかないと、永久に謎になりそうな気がする。]
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