諸國里人談卷之三 油盗火
○油盗火(あぶらぬすみのひ)
近江國大津の八町(〔はつ〕てう[やぶちゃん注:ママ。])に、玉のごとくの火、竪橫に飛行(ひぎやう)す。雨中(うちう)には、かならず、あり。土人の云〔いはく〕、「むかし、志賀の里に油を賣ものあり。夜每(よごと)に『大津辻(つじ)の地藏』の油をぬすみけるが、その者、死(しゝ)て、魂魄、炎(ほのう[やぶちゃん注:ママ。])となりて、迷ひの火、今に消(きへ[やぶちゃん注:ママ。])ずとなり。
○又、叡山の西の梺(ふもと)に、夏の夜、燐火(おにび)、飛ぶ。これを「油坊(あぶらぼん)」といふ。因緣、右に同じ。七條朱雀(しゆじやく)の「道元が火」、みな、此類ひなり。これ、諸國に多くあり。
[やぶちゃん注:「近江國大津の八町」滋賀県大津市の入り口にあった八つの町とも、現在、「本陣跡碑」の立つ通りを「八町通り」と呼ぶが、ここは前の、上関寺町(ここ(グーグル・マップ・データの「大津百町(概略)」内))から「本陣跡碑」の西側の町「札の辻」(ここ(グーグル・マップ・データ))までの距離が八町(約八百七十二メートル)あったからとも、その間に八か町あったことによるとも言われている。東海道筋の旅籠町である。
「大津辻(つじ)の地藏」不詳であるが、話柄から考えて、この現在の「八町通り」沿いにあったものであろう。
「油坊(あぶらぼん)」不詳。日文研「怪異・妖怪伝承データベース」(こちら)では本条を出所として記す。
『七條朱雀(しゆじやく)の「道元が火」』不詳。「七條朱雀」は七条大路と朱雀大路との交差点。この附近(グーグル・マップ・データ)。道元は僧名っぽいが、かの道元とは無縁であろう。]