和漢三才圖會第四十一 水禽類 嗽金鳥(そうきんちょう)(空想上の鳥)/第四十一 水禽類~完遂
そう きんちやう
嗽金鳥
スヱツキンニヤウ
三才圖會云此鳥出昆明國形如雀色黃常翺翔於海上
魏明帝時獻之飼以眞珠及龜腦常吐金屑如粟宮人争
以鳥所吐金爲釵珥謂之辟寒金以鳥性畏寒也
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そう きんちやう
嗽金鳥
スヱツキンニヤウ
「三才圖會」云はく、此の鳥、昆明國に出づ。形、雀のごとく、色、黃にして、常に海上を翺〔(と)び〕翔〔(かけ)〕る。魏の明帝の時、之れを獻ずる。飼ふに、眞珠(かいのたま)及び龜の腦を以つてす。常に金の屑(すりくづ)の粟〔(あわ)〕のごとくなるものを吐く。宮人、争ひて、鳥の吐く所の金を以つて、釵(かんざし)・珥(みゝかね)に爲〔(つく)〕る。之れを「辟寒金〔(ひかんきん)〕」と謂ふ。鳥の性〔(しやう)〕、寒を畏〔(おそ)〕るを以てなり。
[やぶちゃん注:これが「水禽類」の掉尾である。しかし、ここにきて、良安は何故、こんな如何にもあり得ない金を吐く想像上の幻鳥をここに配したのだろう? 相応する本邦の実在する鳥も浮かばない。ともかくも注しておくと、「和漢三才図会」の「九十」に、
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嗽金鳥
「雜爼」、嗽金鳥、出昆明國。形如雀。色黃。常翺翔於海上。魏明帝時、其國來獻此鳥、飼以眞珠及龜腦。常吐金屑如粟。宮人華爭以鳥所吐金爲釵珥。謂之辟寒金以鳥性畏寒也。
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とある。また、杤尾武氏の論文「『山海経』の図像学序説 ――異鳥の同定――」(PDF)の「㈡『太平御覧』『古今図書集成』の異鳥名目について」の中に、「山海経」に載らない同書の異鳥として、五十三の番号を附して同「集成」本の「嗽金鳥」の内容を掲げてある。
《引用開始》[やぶちゃん注:一部に字空けを施した。]
嗽金鳥は金を吐(は)くという鳥、『拾遺記』に、「嗽金鳥 魏の明帝即位二年、霊禽之園を起す、遠方の国献ずる所の異鳥・珍獣、皆此の園に畜(たくわ)へるなり。昆明国、嗽金鳥を貢ずる人云ふ。其の地 燃洲を去ること九千里、此の鳥を出す。形 雀の如くして色黄なり。羽毛柔密、常に海上を翺翔(かうしやう)す。蘿(あみど)る者、之を得て以て至祥となす云々。』 ◦魏の明帝二年(二二八) ◦霊禽園は魏のすぐれて珍しい鳥を集めた園。 昆明国は『拾遺記』(晋の王嘉の撰)によれば建寧州の地、今の雲南省昆明県の地。 ◦翺翔は鳥が高く飛ぶさま。
《引用終了》
とある。
「昆明國」現在の雲南省省都である昆明市一帯。ここ(グーグル・マップ・データ)。言わずと知れた、完全な内陸の山岳地帯(昆明市は盆地にある)であるから、「海上」というのは、同地にある巨大な湖「滇池(てんち)」(別名「昆明池」)(或いはその周辺の湖沼)でなくてはならない。
「珥(みゝかね)」耳飾り。イヤリングの類い。]